16.故郷の話を聞いた
もう少しで、サーロの街が見えてくる。
その道中、俺はリュントにちょこちょこ尋ねていた。
「そういえばリュント、以前にゴートスネーク倒してるって言ってたよね」
「はい。道すがらですが、三体ほど」
ソロであれを倒せるんだから、さすがドラゴンというべきだろうね。
たまにそういう冒険者って出るらしいけど、大体はその力に増長してパーティを組むことなく、もしくは少人数パーティで無理やり突き進んでいって破滅に陥るとかなんとか。
……ある程度落ち着いたら、パーティメンバー探すか。俺の戦闘力が低すぎてリュントに負担をかけるのが目に見えている以上、そのほうが自分たちのためでもある。
そのあたりの思考がさくっとまとまったところで、話を元に戻そうか。いや、脱線したの俺だけだけど。
「どこに出たか、情報はギルドに出した?」
「もちろんです。地図にも記してありますよ」
「おー」
ひとまず道の脇に避けて、そこで地図を広げる。もともと薬草の群生地をチェックするお仕事だったわけで、最新の地図をもらってきてるんだよね。で、そこに喫緊の魔物遭遇地点もチェックされてる、というわけ。
で、その中でリュントが遭遇した地点をそれぞれ示してくれた。
「こことここ、それからここです」
「一応、川に沿って出てるんだな。そもそも水辺に住む魔物だし」
浅い川のそばに、遭遇地点は固まっていた。ま、三か所だからそれ以外はどうかわからないけれど。
けど、ゴートスネークに限って言えば習性からしてそういうことだろう。基本的に、餌の動物を水に沈めて窒息させてから丸呑み、なわけだから。
「浅いと定住はできないようですから、移動して良い住処を探していたのかもしれません。ただ、移動中に人や家畜を襲うこともあるのですよね」
「うん。それに……ドラゴンが暴れてる影響受けてるみたいだね」
リュントが出会った三体、俺と一緒に見た一体。
夜ならまあ、襲ってきてもおかしくないけど、今は太陽が出てる。よほど腹を空かしていたのかそれとも、ドラゴン暴走に引きずられるように凶暴化しているのか。
ただ、でかい図体かつ蛇なので足がない、ということで移動速度がそう早くない。泳ぐのは早いけれど、地面をずるずる動くのは大変らしいな。
「そのおかげで今のところ、街にはほとんど影響が出ていません。ですが」
「俺たちの取りこぼしがあったら、数日中には街の近くに出る可能性がある。ゴートスネークだけじゃなく、他の魔物も」
三年前の『暴君』のときは俺はコルトたちと一緒に竜の森にいて、周辺の街や村にどれだけの影響が出ているのかほとんど知らない。でも、当時影響や被害が出ていたりするのであれば今回も、冒険者ギルドの方では警戒してるんじゃないかと思う。
……周辺の街、か。
「そういえば、故郷の村は大丈夫なのかな。竜の森から近いから、一番に影響出てそうなものだけど」
「あ、それは大丈夫だと思います。一応、確認はしておきましたので」
「え?」
ぼそっと呟いた独り言にさくっと答えを返されて、思わずリュントの顔を見つめる。赤い目を丸くしている様子はやっぱりトカゲのリュントと同じ顔で、あの子なんだなあと今更ながらに再確認した。
というか、あの村大丈夫だって確認してたの? 何で、と思ってたらリュントの白い肌がちょっぴり赤くなった。視線がすい、と逸れる。
「その……ゴートスネークの報酬の一部をですね、エールのご家族に、あの」
「……俺の家族に、って」
父ちゃん、母ちゃん、弟のカルル、妹のミニア。
何も言わずに出てきてしまった実家、何もなければそこに住んでいるだろう俺の家族。
リュントは会っているのは俺だけだけど、たまに家の裏とかにいてたから家族構成は多分、知っている。
もしかして。
「もしかして、仕送りしてくれたの?」
「は、はい」
こくんと、頷いてくれた。
「その、エールは『魔術契約書』のせいで、仕送りできていないだろうと思いましたので。勝手ながら、お名前をお借りしました。私がこうやって冒険者として戦えるのは、エールのおかげですので」
「そうなんだ……ありがとう。面倒かけてしまったね」
「いえ、そのようなことは」
リュントの言う通りというか、コルトの奴隷だったときは依頼報酬の分前なんてほとんどなかった。それに事務処理だの依頼確認だのいろいろ忙しくて、手紙すら出していない。俺の自業自得、といえばそれまでなんだけどな。
というか俺、めっちゃリュントに迷惑かけてないか? パーティ内での働きとかだけでも大概なのに、家族に仕送りとか。
俺、これからしっかり依頼こなしてリュントにお礼をしないといけないな。家族には……土下座しても足りないか。
「……あのさ。みんな、元気だった?」
「はい。直接お会いしてはおりませんが、遠目から見ますにご家族……ご両親、弟さん、妹さん、皆お元気にやっておられるようでした」
「そっか」
リュントがひとりひとり呼んでくれたから、四人とも元気なんだとわかった。なんだか、ホッとした。
胸をなでおろした俺に、リュントは覗き込むようにして声をかけてくれる。ドラゴンって家族愛とかあるのかわからないけれど、少なくとも彼女はそういうのを理解はしてくれてるみたいだ。
「……エールの中で一段落した、と思われたのでしたら一度、お戻りになられてはいかがでしょうか」
「そう、だね」
怒られるにしろ、無視されるにしろ、受け入れられるにしろ。
ちゃんと、話をしてこなくちゃいけないよな。
『太陽の剣』にいたときはできなかったけれど、今ならできるんだから。
「何も言わずに出てきたから、そのことはちゃんと謝らないと。その時にはリュント、一緒に来てくれるかい?」
「はい、もちろん。私は、あなたのドラゴンですから」
だからそう尋ねたら、リュントは満面の笑みでそう答えてくれた。
……俺のドラゴンって、大丈夫かな?
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