15.角を取った

「取りました!」


 地面に長々と横たわる大蛇の頭の上で、剣を掲げて楽しそうに宣言するリュント。

 退治した証として、一対の角は切り取って冒険者ギルドに運ぶのが望ましいんだよね。収納スキル持ってるメンバーがいれば、それで運べるから。

 あと、ゴートスネークの角って耐水性が高いので、水中で使うようなものの原料として重宝されるとかなんとか。漁に使う銛とか、戦用の船の外側に貼り付けるとか。

 ま、それは置いておこう。素材を運ぶまでが俺たちのお仕事だ。


「さすがだね、リュント。かっこいいなあ」


「エールのためですので、頑張りました」


 語彙が少なくてごめんね、と思いながらリュントを褒める。彼女は鼻息荒くドヤ顔してみせるんだけど、元が可愛いからとっても微笑ましい感じだ。

 もっとも、その片手には切り取った角の片方をぶら下げてるわけだけど。一番太いところは俺がひと抱えするくらいあるそれ、どれだけ重いんですかね?


「角はお願いしてよろしいですか、エール」


「もちろん。こんなでかいの、手に持って帰るわけにはいかないし」


「そうですね。私、初めて倒したときはどうしていいのかわからなくてまるっと持っていったんですが」


「おい」


 あっけらかんと告げられた台詞に、ついツッコミを入れてしまった俺は悪くないと思う。

 さすがに、今倒されたこいつよりは小さいと思うけど。ゴートスネーク一体、引きずるなり抱えるなりして持っていったんかい。

 人型を取っていてもリュントはドラゴンなので、俺よりもずっと筋力はある。魔法剣士であるので魔術も使えるわけで、まあ持っていってもそうそう怪しまれは……しない、よな?


「ギルドの人、驚いたんじゃないのか」


「そうですね。その際に角だけでいい、と言われました。エールのように収納スキルをお持ちの冒険者とパーティを組んでいるなら、その人に預けなさいと」


 そのギルドの人、リュントについてどう思ったんだろうなあ。角だけでいいとかいう前に、大蛇の魔物まるっと持ってきた少女冒険者だしな。

 ドラゴン、とまでは気づかれなくても何かおかしい、とは思われただろう。一応、冒険者ギルドって出自は気にしないことになってるけど。


「普通は、マジックバッグっていうのがあるんだよ。収納スキルの簡易版なんだけどさ」


「はい、それも伺いました。一応、小さいのは持っているのですが」


 リュントが腰につけている小さなポーチが、どうやらマジックバッグのようだ。初心者が、薬草採取などの簡単な依頼をこなす際に持つやつ。これだけでも、例えばポーションなら十から十五本は入るかな。それだけ詰め込む訳にはいかないから、実際にはもっと少なめだけど。


「ま、俺が収納スキルあるから、あんまり問題ないだろうね。何かのときのために、一回り大きいのを持っていてもいいんじゃないかとは思うんだけど」


「分かりました」


 ひとまず角を収納して、残った胴体は道の脇に避けて、一応魔物避けの柵を張っておく。これだけでかい肉なので、肉食の魔物が喜んでやってくる可能性があるからな。

 これはギルドに処理をお願いする。皮、肉、内臓、骨などにバラして使えるものは回収、使えないものは焼却なり……堆肥にしたりもするらしい。専門業者がいるんだってさ。

 さっくりと始末を済ませて、街への帰り道を歩く。しばらく進んでいく間にリュントが、恐る恐るといった感じで俺に切り出してきた。


「その、マジックバッグなんですが。エールに選んでいただきたいです」


「俺に? うん、分かった。一緒に店行って選ぼうな」


「はい、お願いします」


 よしよし、パーティメンバーとしてそのくらいはやってやれる。

 なんだか、大きくなった妹に物買ってやる気分だな。……実際に妹はいるから、もし故郷に帰ることになったら何か、買ってやれるかな。

 そんな事を考えながらリュントの隣を歩いていると、彼女は少し困ったように眉尻を下げた。


「私が自分で選ぶと、どうも人から見ると変な感じになるらしいんです。最初に装備を揃えた店で、そんなことを言われました」


「ドラゴンのセンスと人間のセンス、違うんだろうな。今の装備はおかしくないけど、選んでもらった?」


「はい。……剣と鎧は自前ですので、それ以外を」


 剣と鎧以外ってことは、下に着てる服装全般てことか。……もしかしたら下着も、という可能性はあるがそこまで突っ込む気力はない。ドラゴンでも、女の子だし。

 というか、何で武装だけ自前なんだろう。剣はともかく、鎧はドラゴンとしてのリュントの色、だけど。


「自前って、ドラゴンの時から持ってる、わけないよな?」


「持ってますよ? 剣は私の爪ですし、鎧は私の外殻ですから」


「はい?」


 え、それ初耳。

 ドラゴンの爪を武器として、皮を鎧として利用するのは強い冒険者にはままある話だ。『暴君』のそれらだって、コルトたちがそれぞれ持っている。

 ただ、それをドラゴン自身が同じように利用してるというか、その、人型になったら武器と鎧になるのか、それ。


「なるんですよ。私にもどういう理屈かはわかりません、といいますかこれが当たり前なので」


「ああ、そうなんだ……」


 さすがドラゴン。

 人間には計り知れない驚異の存在、と言ってしまっていいよな。目の前にいるのは俺の知ってる小さなトカゲが大きくなった、リュントでしかないけれど。

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