14.角蛇が出た
薬草の群生地を離れ、サーロの街への帰路を進んでいく。浅い川が流れ、それを挟んで果物の実る木々が生えている。いざという時の食料になるように。
そろそろ夕方で、のんびりしてるはずの道に、微妙な緊張感が漂っている。主に鳥の声がしないのと、空気の重い感じ。
「エール」
俺の名を呼ぶリュントの声も硬い。ああ、やっぱり感じ取っているんだ。ドラゴンだから、俺よりも強く受け取れてるはずだ。
……ワイルドボアのときは向こうが突進してきたから、こういうやり取りをする暇はなかった。俺が視界に入れるより先にリュントが踏み出して、鼻面にストレート一撃、だったしな。
「うん、なにか来てるね。魔物」
「水音と、引きずる音です」
俺に聞こえない音を、リュントはしっかり聞き取っている。水音、といってもそんなに派手にするはずがない。
「ここらの川は、人間の足首くらいの深さしかないよ」
道に沿って流れている川は、幅はそれなりにあるけれど本当に浅い。上流で大雨が降ったら一時的に深くなるけれど、普段はそんな感じだ。
何となく正体は推測できるけれど、そいつならこの近辺で住んでいるはずがない。
「であれば、先の話のように元の住処から逃げ出したモノですね。つまり、ゴートスネーク」
リュントがその正体を言葉にするのとほぼ同時に、木の向こうからぬうと太い角のある蛇の頭が伸び上がった。口元からだらりとよだれを垂らしながらふー、ふーと鼻息荒くこちらを見ている。そりゃ、小鳥逃げるわ。
「ひどく殺気立っていますね。ヒムロ伯爵領に出たドラゴンの影響で、間違いないでしょう」
「やっぱ影響出るようなもんなんだな、ドラゴンの状態って」
「人間が一番影響出ないですよ。下がってください、エール」
ぐるる、と喉を鳴らす巨大蛇を前に、白銀の彼女は全く怯むことがない。まあ、これまでに三体倒したって言ってるしな。
それに、俺への指示は簡潔にして的確だ。
「リュント、頼めるか。俺はろくな戦闘能力がない。自分の身くらいは守るけど」
「もちろんです。私はあなたのドラゴンですから」
「…………ん?」
「いざ、参ります!」
今の言葉、微妙に変な感じだったな?
んー……と考えているうちに剣は鞘から引き抜かれ、それを構えてリュントが地面を蹴った。って、助走もなしにゴートスネークの頭の上まで飛ぶのかよ。俺の身長の倍以上だぞ、その高さ。
「きゅあああああっ!」
「キシャアアアアア!」
蛇の口から、色の付いた風が吐き出される。毒かな、と思ったがそれをリュントの剣がさくっと切り裂いた。そうしてそのまま頭に到達しかけた刃がきん、と金属音を立てる。あの角、そのくらい硬いってことか。
俺も何とかしないと、と思いつつ荷物の中からスリングショットを取り出した。この場合はさて、何を使うか。
「きゅいん!」
「……何気に、掛け声がドラゴンなんだよな……」
そばの木の枝を蹴って飛ぶ方向を変え、再びゴートスネークの上に舞い上がるリュント。もちろん、魔物の方もそれを目で追うことはできるから彼女に向かって顔を上げた。あ、あれやべえかも。
「っ、行け!」
収納スキルから取り出したのはダーカの実。手のひらに二個くらい乗るサイズの実は、衝撃を与えるとぱんと弾けて、一瞬だけ眩しい光を放つ。
そいつをスリングショットで、ゴートスネークの目元をめがけて、放つ。
「リュント! 一瞬眩しいぞ!」
「はい!」
うまく顔に当たったそれは破裂して、強く光った。その瞬間だけ腕で目をかばって、リュントの動きは止まらない。
「キュオオオオオオオ!」
「きゅああああん!」
今度はもう、リュントがヘマをすることはなかった。片手でゴートスネークの角に手をかけ、しっかりと握りしめた剣をその下、首の後ろにざくりと突き入れる。
「ギャアアアアアア!」
「きゅう。よいしょっと」
叫びながら暴れる大蛇を物ともせず、角を持ったままリュントは、その首をばっさりと斬り落とした。
……あの息さえどうにかできれば、そりゃ一人で倒せるよな。さすがドラゴン。
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