13.群生地を調べてみた

 サーロの街から竜の森へ向かうには、途中でいくつかの街や村を経由する。そのうち一番近い村へ行く手前で道が分かれているんだけど、リュントが見かけた薬草の群生地へは村へ行かない方の道を行くことでたどり着いた。

 この道の先は別の街をいくつか経て、リュントが冒険者の登録をしたミルゴの街につながっている。更にその先に俺の故郷の村があるはずなんだけど、アレから帰ってないからなあ。今更見せる顔もないけどさ。


「先客はなかったみたいだね。それに、結構質が良さそうだ」


 それはともかくとして、群生地はしっかり存在した。調査の場合、すでに調べているならその範囲を細い杭と綱で囲んで調査した人の名前書いた札が付けてあるんだけど、それはないようだ。


「エールのお役に立てて、良かったです」


「うん、ありがとう」


 赤い目をきらきらさせるリュントが可愛いんだが、……なんというかやっぱりトカゲ時代の顔が重なるせいか、妹なり娘なりを見てる気分になる。ははは。

 ま、ともかく生えてる薬草の種類と品質のチェックに入ろう。普通の草も生えてるけど、よく見るポーショナ草以外にも必要なものが生えている。


「こっちはキリア草だね。採取されたことないのかな、根っこがしっかりしてる」


 魔物の中には毒を持ってるやつもいるので、その時のための毒消しの原料。葉っぱではなくて、太い根っこをすりつぶした汁から毒消しの成分ができるんだとか。

 ドラゴンが毒を持ってるかどうかは個体にもよる。『暴君』はブレスが麻痺毒で、先鋒に立ってくれたパーティは手間取ったらしい。……布にキリア草のエキス染み込ませたマスクをつけて俺が囮になったんで、コルトたちは無事だったんだけどさ。

 リュントは……ないかな、うん。毒使うより正面から殴ったり蹴ったりのほうが得意そうだ。勝手な推測だけど。


「こちらのポーショナ草も、葉が厚いですね。持ち帰れば、ギルドの方々にも喜んでいただけるでしょう」


 そのリュントはポーショナ草を一株引き抜いて、全体の様子を調べている。よし、これならギルドの依頼にも十分応えられそうだ。

 こちらも根を確認するために抜いたキリア草の一株を、収納スキルでしまい込む。これを持って帰って、ギルド側で最終チェックしてもらえば依頼は完了だ。


「それじゃ一応、チェックした印を立てておくか。リュント、手伝って」


「はい」


 かなり広い範囲だけど、リュントがすったかたーと駆け巡って杭と綱で簡易の柵を作る。『白銀の竜牙』の名前と今日の日付を入れた木札を結びつけて、終了。

 ちなみに軽度の魔物避け魔術もかかっているので、踏み荒らされたりすることはない、と思いたい。うん。


「そういえば。リュントは魔物避けの魔術とかは効果あるの?」


「強力なものであれば、気持ち悪くはなりますね。この柵くらいでしたら平気ですが」


 何となく、疑問に思ったので尋ねてみる。答えはさすがドラゴン、というものだった。強力なやつでも気持ち悪いだけ、ってことだろ。ドラゴン避けは、普通じゃできないと思っていいんだよな。そりゃ、冒険者呼んで討伐してもらわないとだめだよな。


「ドラゴンって、そういうところでも強力なんだなあ」


「まあ、ドラゴンですから。エールの村にも、魔物避けの結界はありましたでしょう?」


「あ、そうか。それで俺、お前のことトカゲとか思いこんでたのかな」


「そうかも知れませんね」


 大概の人里には、割としっかりした魔物避けの魔術がかけられている。俺の故郷の村なんて竜の森のそばだったわけで、当然あったわけで。

 で、そこに平然と出入りしていたちっこいリュントをただのトカゲだと思いこんでも、仕方のないことだったのかもしれない。ドラゴンの幼生だとはっきりしていたら、それどころの話じゃなかったからな。ちょうど『暴君』騒ぎのときだったし。

 と、そのあたりの話はさておいて。一応、一つ分の確認は終わったし。既にお昼過ぎてるから、もう一か所はやめておこう。


「……ま、今日はひとまず戻るか。もう一か所は、明日にでもチェックしよう」


「その前に、他の冒険者に取られるかもしれませんよ」


 なので俺がそう提案すると、リュントはぷうと頬を膨らませた。お前、そういう表情どこで覚えたんだ……いやまあいいけど。

 それに、取る取られるの問題じゃないからね。こういうのはね。


「それならそれで、冒険者ギルドに報告が入るだけだよ。認定されれば、俺たちだって採りに行くことはできる」


「……はい」


 ぺたん。

 何故かしっぽがはみ出して、地面に落ちる。つまりしょげてるのかこれは。犬か、お前は。

 くそうかわいい、頭なでてやる。それに、お前は俺のために頑張ってくれたんだしな。


「こちらの群生地がとってもいいものだった。それだけで俺は、リュントに感謝してるよ」


「きゅあ」


 ぴこん、と角が生えた。まさか、犬が耳ぴんとさせるアレの代わりか、これ。

 ああもう、三年前の俺えらい。よくあのちっこいトカゲと仲良くした。よしよし。

 さあ、急いでサーロの街に帰ろう。ライマさんに報告して、報酬が出たらうまいもん食うぞ。

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