12.事情を聞いてみた
何とかコルトたちと顔を合わせなくて済んで、数日。
サラップ伯爵領冒険者ギルドはドラゴン対策に走ることはなく、通常営業である。
というのも。
「ヒムロ伯爵領側では、調査はある程度終わっていたんだそうですね。エール」
「それで、ドラゴンの暴走らしいとわかった。で、それに対応できる冒険者パーティを探してて、『太陽の剣』が適任だったってわけか」
そういうことらしい。情報提供、例によってライマさん。
「それ以外のパーティはあちらで準備してるから、うちにできることはないね。せいぜい情報を流して、念のため注意するようにっていうくらいで」
それぞれの領都にはそれぞれが抱えている冒険者ギルドの本部があり、相応のパーティが所属している。たまたま、ヒムロ伯爵領側にはドラゴンに対応できるパーティがなかったのでこっちにいるコルトたちにお呼びがかかった、と。
サラップ伯爵領側には、『暴君』のときのような被害報告とかはまるでないとのこと。なので、ドラゴンから逃げてきた魔物が増える可能性を見越しての注意、ということらしい。
「直接ドラゴンと戦うよりは、楽ですからね。ところでポーショナ草、これで足りますか」
「うん、今のところはね。丁寧なお仕事ありがとうね、エールくんにリュントさん」
当人がドラゴンであるところのリュントが、呑気に薬草の束を納品している。今日の依頼はやっぱり薬草採取で、ちょっと多めに三十株を採ってきた。精製したポーションを、ヒムロ伯爵領に持っていくかもしれないからな。
と、そういえば別の依頼が掲示されていたっけな。どれどれ。
「……『薬草等の群生地探索』?」
「あ、それ見た? ドラゴン騒ぎが起きたでしょう、念のために採れる場所を増やすべきだって、ギルドマスターが言ってたのよ」
あー、そういうことか。
今ある薬草の群生地は、みんな知ってる。ギルドで配布される地図にもしっかり印がついているからな、それを見て俺たちも採取に行くわけだし。
ただ、同じ場所で採ってたらそのうちなくなってしまうことだってあり得る。つーか『暴君』騒ぎのあとで数か所、さっぱり生えてこなくなった場所があるんだそうだ。採り尽くしたんだろうな。
そういうこともあるので、新しい群生地を発見する依頼ってのはたまーにある。薬草等、なので例えば毒消しのキリア草とか、魅了状態などに効果のある実が取れるパッシブの木とかを見つけてもいいらしい。
「それもそうですよね。今ある場所から離れてる方がいいですかね?」
「そうね。できるだけバラバラの場所にあったほうが、一か所で魔物騒ぎなり火事なりあってもフォローができるから。複数パーティが受けてくれたほうが、範囲が広くなって助かるんだけど」
大勢でやったほうが、色々助かるってことだな。それなら、と思ってリュントに視線を向ける。
「リュント。こっちに来るまでにめぼしいの見てないかな」
「二つほど、それらしいのはありました。きちんと確認はしておりませんが……もしかしたら先客がいるかも知れませんが、ご案内します」
「ありがとう。ということでライマさん、俺たちもこれ、受けます」
「お願いね。危険な場所だったら一度戻って、相談しておくれよ」
「はい」
「お任せください。エールは私が守ります」
そんな感じで、さっくりと次の仕事が決まった。あとリュント、握った拳がとてつもなく力強く見えるのは気のせいか?
なんて感じで眺めてたら、そのリュントはライマさんに向かって「お伺いしたいことがあります」と言ってきた。
「何? 答えられる範囲なら答えるけどさ」
「大丈夫だと思いますよ。ヒムロ伯爵家の使者の方は、ギルドマスターの許可を得て『太陽の剣』の方々とお話をつけておられましたね」
「うん、そうだね」
コルトたちを迎えに来た騎士さん、確かにそう言ってたもんな。別の領地の冒険者ギルドに所属してる冒険者に依頼するには、ギルドマスターか領主の許可を得るのが筋というやつだ。
「つまり、ギルドマスターは以前からあちらの情報を得ておられた、ということになりますが……いつ頃からですか」
「……一か月ほど前から森の中で、大型の魔物の死骸が発見されていたらしいね。つまりはそのへんからでしょう」
大型の魔物の死骸。
そりゃ、魔物だって生き物だから死ぬわけだし、種類によっては死骸からいろいろな資源が採れる。
でも、要するに自然死じゃない死骸が見つかったから、ヒムロ伯爵領で調査が行われたんだろう。もしかしたら、ドラゴンが食い残した、無惨なものが。
と、ライマさんは一瞬だけ何かを考える素振りになった。そうして今度は、あちらからリュントに言葉をかける。
「そういえばリュントさんは、ここに来る前に別の街で冒険者登録をしたんだっけね」
「ミルゴの街です。ヒムロ伯爵領とは反対側ですね」
「……何かあった?」
「あちらで、大型の魔物がいくらか出ました。私もゴートスネークを三頭ほど狩ったのですが、あちらでは見ない種類だったと聞いています」
ぶっ。
ゴートスネーク、ヤギのような太い角を頭に抱く巨大蛇の魔物だ。……巨大とは言ってもせいぜい人三人分だかの長さらしいけれど、それでこう家畜やら人間やらを水辺に引きずり込んで溺れさせてから丸呑みするわけで。
……あれ。
「ミルゴの街のそばにゴートスネーク? 確かに聞かないね」
「そういえば、あれは湖や大川のそばに出るやつですよね。ミルゴの街の近くには、そういうところはなかったはずで」
そう、そこがおかしい。
竜の森から少し距離のあるミルゴの街。そこの水は、いくつかの細い川と地下水脈につながる井戸で賄われている。人を水に沈めた上で丸呑みする習性を持つ蛇の魔物が、住める環境ではない。
それなのに、そこに出た。つまり、竜の森から逃げてきていた、と考えるのが妥当だ。
「ギルドマスターには報告しておく。二人とも、気をつけてね」
そうしてそれは、サーロの街近辺にまで魔物が逃げてきてもおかしくないことを示していた。
ミルゴの街に魔物が到達してから一か月なら、十分たどり着けるからだ。
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