11.隣の領地から人が来た

 壁の向こう、冒険者ギルドのロビーに人が入ってきた。

 きちんとした鎧をつけた、騎士のようだ。……ついてる紋章はサラップ伯爵家のものじゃないな。確か、隣の領地の領主だっけ。


「失礼いたします……おや、『竜殺し』コルト殿。お仲間がたもおいでですな、ちょうどよかった」


「ん、なんだ?」


「ヒムロ伯爵領より、領主の使いで参りました。こちらのギルドマスターにも、お許しは頂いております」


 ああそうそう、ヒムロ伯爵家。『暴君』退治のときに協力したパーティに、そっちから来た連中もいたはずだ。

 隣で領主同士が仲が悪いわけでもないので、往来はそこそこある。そりゃ、紋章見たことあるよな。

 その騎士さんが、コルト狙いで来たってことはもしかして、でかい魔物が出たってことか。


「実は……こちらの領地に近い竜の森で、ドラゴンが暴走する兆しがあります」


『え』


 マジか。

 と思わずガン見してたら、騎士さんとコルトたちは別室に去っていく。このまま依頼内容とか報酬とかの交渉に入るんだろうな。ドラゴン討伐なら、かなり大変なことになるはずだから。


「ヒムロ伯爵領……確か、ここの隣ですよね」


 と、リュントが俺に聞いてきた。「そうだよ」と頷く俺に、ライマさんが言葉を続けてくれた。


「当然、竜の森も近いわね。ドラゴンが暴れてもおかしくないけれど……」


「……『暴君』から三年だろ。ペースが少し早いかもしれないです」


 竜の森で、三年前に『暴君』が暴れて討伐された。それが今、別のドラゴンが暴れる兆しが出ている、らしい。


「そうなのですか?」


「竜の森以外にもドラゴンの生息地はあるけれどね、暴走するやつが出るのは一か所につき十年から十五年に一回、ってところだね」


「なるほど。それは確かに早いですね」


 ある意味当事者であるけれど、リュントはドラゴンとしてはまだ幼いだろうからそのあたりを知らないらしい。

 俺たちは一応、記録とか見たことあるからな。『暴君』退治のあとこちらに出てきたときに、勉強しないとと思って一通り読んだんだ。

 これまでの、ドラゴン討伐記録。当時、つまり『暴君』討伐直後の時点で、竜の森でその前にドラゴンが暴れた記録は十二年前。俺はまだ小さかったし、出た場所が村から離れていたようで知ることはなかった。

 それが、今度はたったの三年である。いくらなんでも早くねえか?


「ヒムロ伯爵領には、ドラゴン倒せる冒険者はいないのですか?」


「あれ、確かいましたよね?」


 再び、リュントが疑問を呈する。いや、確かいたぞ。『暴君』のときに手伝ってもらったパーティの中に、その前に別の場所でドラゴンを狩った人たちがいたはずだ。


「ああ、あいつらなら『暴君』騒ぎのあとに王都に出たよ。さっきも言ったけど、一度出たら十年は出ないはずだったからね」


「ですよね……」


 ライマさんが教えてくれて、やっぱりと納得する。彼女の言う通り、ドラゴンが暴れるなんて一か所ではそうそうない話だ。

 家を買ってまでこのサーロの街にいる『太陽の剣』の方が、珍しいらしいんだよね。


「ま、あのときはこっちもヒヤヒヤだったんだけどさ。『太陽の剣』が残ってくれるって言うんで当時はホッとしてたんだけど」


 ただ、ドラゴンは出なくとも他の大型の魔物が出現することはある。その時のために各地の冒険者ギルドは多くのパーティを抱え、その中から実力者を見出す。その中にコルトたち『太陽の剣』が入っていることは、まあ事実だしな。

 俺は『魔術契約書』で拘束されて、下働きに走り回っていただけだけど。


「それでは、準備が済み次第街の馬車駅までおいでくださいませ。迎えの馬車を待たせてあります」


「ははは、任せろ。ラーニャ、ガロア、フルール、行くぜ」


『はぁ~い』


 ふむ、どうやらヒムロ伯爵領での仕事の話は終わったみたいだ。コルトを先頭に、彼らは悠々と冒険者ギルドを出ていった。

 ……まさか、あいつらだけでドラゴン退治に行くとか言わないよな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る