08.初依頼を完了した

 その日のうちに、俺たちはサーロの街に戻った。薬草はちゃんと採ったし、収納スキルでしまっておいたワイルドボアの処理もあるからな。

 いや、収納スキルでしまい込んであるものは腐ったり干からびたりすることはないんだけど、何か匂いが付きそうでさ。今まで付いたことはないけど。


「ポーショナ草二十株、確かに確認したよ」


 採取した薬草を渡すと、ライマさんはその状態を確認してにやりと笑った。これは、品質に満足してもらえたに違いない。


「質のいいヤツ選んでくれてありがとね、助かるわ」


「いえ。『白銀の竜牙』としては初依頼ですし、ちゃんといい仕事をしないとね」


 初めてじゃなくてもそうだけど、特に最初の依頼なんだし。変な仕事をしてしまったら、俺たちはそういう人間なんだと思い込まれてしまう。だから、きちんとこなしてみせないとな。


「エールくんなら大丈夫だと思うけど、先々気を緩めないようにね。リュントさんも」


「はい、もちろんです」


「いい返事。はい、報酬。ワイルドボアの代金込み」


 リュントの答えを確認して、カウンターの上に大銅貨数枚が並べられる。薬草採取任務には多すぎるけれど、ワイルドボアを買い取ってもらった分込みならこんなもんかね。


「ご要望の部位肉は追加報酬の一部とする規定だから、後で取りにおいで」


「助かります!」


 そういうことで、本当に助かる。野宿するときとかの食料に、生と干し肉をそれぞれ保存しておくのは冒険者としての鉄則だからな。

 仕事先で魔物を仕留められればいいけれど、食べられない奴らとかしか出てこないこともあるし。


「というか、鼻っ柱と首の骨折られただけの綺麗な一頭分なんて結構珍しいんだけど。リュントさん?」


「はい、こうやってばしーん、と」


「ああ、鼻面に鉄拳叩き込んだのね……魔法剣士ってどっちつかずな人もいるけど、あんたは両方しっかりしてそうだね。エールくんのお守り、しっかり頼んだよ」


「そのために、私は強くなりましたから」


 …………この場にいる三人の中で一番弱いのは、間違いなく俺だからな。リュントに俺のお守りを頼まれるのも、仕方のないことだ。

 何しろ俺は、ただの荷運び屋なんだから。リュントが俺を探してきてくれたのは、俺が小さいリュントにかまってたから。

 そのくらいの責任は、ちゃんと取らなきゃな。リュントはドラゴンで、人間の思考やら決まり事やらに疎いかもしれない、から。


 ん?


「ワイルドボアの首折ったのって、リュントが初めてじゃないんですね」


「たまーにいるのよね。獣人の血が混じってたり、そもそもお家柄でマッチョな人だったりすると」


「なるほど」


 拳士であれば、例えば魔術で強化してばきーんとか行けそうなんだけど。そりゃたしかに、やれる人は他にもいるよね。

 拳じゃなくて、剣とか魔術とかで一撃必殺は可能なんだろうかね。ついでだし、聞いてみるか。


「強力な剣士なら、一撃で頸動脈仕留めたりできるんですか?」


「そっちのほうが少ないね。あんたも知ってると思うけど、ワイルドボアの毛皮って剣を上手く滑らせたりするから」


 ライマさん、本当に色々知ってるなあ。俺より大柄で腕っぷしも強いから、多分もと冒険者なんだけど。

 んで、そうそう。ワイルドボアの毛は、結構硬い上に油っぽい。雨除けとかなのかな、とは思うんだがそのせいで、剣で攻撃してもつるっと滑ったりするんだとか。

 それで、ジノア爺さんは弓矢とか罠を使ってたわけだ。剣よりは罠で捕まえて、急所の目や口の中に矢を射込んで倒す。

 要は、そのほうが倒しやすいから。ワイルドボアだけじゃなくてウッドベアとか、草食の魔物だって。


「おやリュントさん、機嫌がいいね?」


「嬉しいんです。だって、エールと一緒の初依頼が上手く行きましたから」


「そうかいそうかい」


 ……いろんなこと考えている俺の横で、ライマさんはリュントと話をしている。ギルド内に人が居ないわけじゃないんだけど、大概は飯食いに行ってる時間だしライマさん以外にも職員はいるし。

 コルトのところにいた頃から俺に良くしてくれたライマさんが、リュントのことを気に入ってくれたみたいで俺はホッとしている。彼女になら、いつかはリュントの正体を教えてもいい……いや、リュント自身の許可もらわないとだめだけどさ。


「エールくん。ほんとにいい子じゃないか」


 と、ターゲットがこっちに移った。リュントは……再び掲示板を見ている。明日以降になるけど、次の依頼を見繕っても問題はないしな。

 彼女がいい子だ、と言われるのは俺としても嬉しいので、「でしょう」と頷いた。一応、誤解のないように伝えはするけれど。


「どちらかというと、妹か娘見てる気分ですけどね」


「あらそっち?」


「ええ。三年会わないうちに、すっかり大きくなっちゃいましたが」


「……確かにお父さんかお兄さんの言い草だね、それ」


 ご理解いただけたようで何より。

 三年前のリュントは手のひらに乗る小さなトカゲ、否、ドラゴンの幼生だった。つまりおそらく、生まれて間もないちいさなこども。

 そいつと、村人や冒険者に見つからないように交流していた俺は多分、リュントのお父さんかお兄さん的な立場にある、はずだ。


 リュントがどう思っているかは、わからないけどさ。

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