07.採取に行った
さて。
冒険者たるもの、稼ぐためには冒険、というか依頼をこなさなければならない。
我が『白銀の竜牙』、パーティリーダーは荷運び屋の俺、エール。メンバーはドラゴンにして魔法剣士のリュント。以上。
「そりゃ、薬草採取になるよな。初仕事」
そんなわけで、ライマさんから斡旋された初の依頼は街の外れでの薬草採取だった。土地がいいらしく、ポーションの原材料となる薬草が一面に広がる場所があるんだよね。一応、知識としては知ってる。
『太陽の剣』は既に竜を倒すレベルだったから、薬草取りなんて仕事はしなかったからな。ま、長期任務で野宿してるときとかに、倹約のために野生の薬草摘んだことはあったけど。
「私としましては別に、掲示板に貼ってあったウッドベア討伐でも良かったのですが」
「お前はいいけど、俺に戦闘力が全くないからなあ。あと、いきなりウッドベアだの何だの倒したら怪しまれる。主にリュントの正体とか」
「前言撤回します。エールに迷惑をかけてしまいますので、順当な依頼を受けましょう」
真顔で俺に答えるリュントは、確かにウッドベア、森の熊さんなら一撃で斬り殺せそうだ。いや、ここに来るまでに突進してきたワイルドボアを正拳突きで倒してるから、だけど。
なおワイルドボアは体高が人の肩ほどまであり、ウッドベアは後ろ足で立つと建物の二階の窓から頭の一部がチラ見えする身長である。上手く仕留めて処理するといい肉になるんだけど、そういうのも含めて冒険者の仕事である。ギルドからの発注が多いね。
「というか、ワイルドボアの血抜き処理とかよく知ってたな」
「エールの村に、猟師さんがおられましたよね。あの方がやっていたのを、何度か見たことがありまして」
「ジノア爺さんか……なるほどなあ」
村人だった俺とその村のそばにある森に住んでいたリュント、なので故郷の話にたまに花が咲く。ジノア爺さんはうちの村では腕のいい猟師で、ワイルドボアくらいなら罠と弓矢とジャベリンで一人で仕留められる。孫が弟子になってたはずだけど、成長してるかなあ。
依頼外で仕留められたモンスターの肉は、きちんと処理してあればギルドで買い取ってくれる。自分たちの食料として持っていてもいいので……ま、必要分だけ確保して売るか。リュントの食事量がどのくらいかわかんないけどさ。
でまあ、それはそれとして。
「このあたり、だな」
地図のとおりに歩いてきた俺たちの前に、薬草の一種であるポーショナ草の群生地がどーんと広がっている。ああ、こりゃ遠慮なく採っていけるわ。
葉に含まれた成分が肉体の治癒に役立つらしいんだけど、エグみがひどくて草食獣はそっぽを向く。ポーションにするのには、刻んで煮てエグみ成分を分離させる必要があるんだよな。
でまあ、人里からそこそこ離れた草原なので、野生の魔物とか出てきてもおかしくないんだが。
「今のところ、魔物の気配はありませんね」
「リュントの気配に怯えてる可能性は?」
「ゴブリンレベルでしたら、にらめば逃げますね」
「やっぱりか」
……まだ人サイズとはいえ、リュントの種族であるドラゴンはこの世界では生態系の頂点に立つ存在だ。そらゴブリンもビビって逃げるだろ。飯にすらならないらしいからね、ゴブリン。『暴君』は食ってたみたいだけど。
ま、魔物が近寄らないようならさっさとお仕事して帰ろう。妙なのに接近されたりして、こんなところで戦闘になりたくはない。
「ええと。採取量は五株以上、上限はなしでしたね」
「うん。葉っぱがきれいな緑色してて、張りのあるやつを選んでもらっていこう。二十株くらいでいいよ」
「わかりました」
俺の荷運び屋としての特色、というかスキル、収納。ある程度の荷物なら、収納用の空間にしまっておける。……そのため、コルトの奴隷だったときは、あいつらの野宿用テントやら調理器具やら色々詰め込まれてたんだよねえ。
なので、ポーショナ草ならそれこそ千株とか採取しても余裕で入るんだけど……そんなことしたら、この群生地は全滅しちまうからな。
「ポーションの原料用に精製する分が、足りなくなってきてると言ってましたね」
「そうだな。……つまりポーションの製造量が増えてるってことだから、つまりは魔物が増えてると考えていいか」
「もしくは、人同士の戦ですね。このあたりはまだ平和ですが、国境付近では不穏な動きもあるとか」
リュント、色々詳しいんだな。人型になれるようになってから、あちこち回ったんだろうか。それとも、たくさん勉強したんだろうか。
すごく頼りになるな。あんな小さなトカゲだったのに、すっかり大きくなっちまって……あー、何か親気分だ、俺。
「どっちにしろ、ポーションがたくさん必要になるから原料が必要になるってことだよな。伯爵領でこうなんだから、王都とかもっと大変なんだろうな」
「そうですね。……エール、こういうのがよろしいですか」
リュントが、自力で軽く引っこ抜いたポーショナ草を差し出してくる。うん、なかなか質のいいやつを選んだな。
「そうそう、こういうのが一番。リュントは見る目があるな」
「はいっ!」
トカゲのときにやったみたいに頭をなでてやると、彼女は赤い目を細めてとっても嬉しそうにはにかんだ。
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