05.独立した

 俺はリュントを連れて、冒険者ギルドにやってきた。コルトのパーティからの離脱と、新しくパーティを作る申請をするためだ。


「伯爵領の領都だけあって、ギルドも大きいですね」


「王都とかになると、もっと大きいっていうけどな」


 コルトの自宅より一回り大きな三階建ての建物は、この街では領主の館の次くらいに大きいんじゃないかな。

 領主の館は領都の外れ、小高い丘の上にある。用事もないのに近づく人はいないけど、俺はコルトの奴隷だったときに行ったことがある。なんかの巨大モンスター倒したあとだったかな、確か。


「こんにちはー」


「おや、『竜殺し』んとこのエールくん。今日は何用かね」


 中に入ると、一階はロビーというか待合室というか。奥に受付があって、いろいろな手続きをするなり依頼を受けたりなんだりする。今も、パーティが二つほど依頼を吟味しているみたいだな。

 で、俺はコルトのところでそういう事務処理やら何やらを引き受けていたもんで、ここの受付の人たちとは結構長い付き合いだ。今日は俺とは別の村から出稼ぎに来てるライマさんだ。


「えーと、パーティ離脱と新規パーティ設立の申請なんですけど」


「パーティ離脱?」


 とりあえず用件を口にした途端、そのライマさんの黒い目が丸くなった。濃いブラウンの癖っ毛を首元でまとめてる彼女、実は俺より大柄だったりするんだが、今目の前で立ち上がったのでちょっと見上げる感じになる。


「何、やっと離れる気になったの?」


「気になったというか、放り出されたというか、ですね」


 あまり細かい話をしても何なので、ざっくりと説明する。ライマさんはへえ、と僅かに息を吐いて、それからニンマリと目を細めた。なんでだ。


「よし、それじゃコルトの気が変わらないうちにさっさと済ませてしまおうか。新規のパーティは、そちらの方とでいいかい?」


「あ、はい。彼女、魔法剣士のリュントです」


「ただ今ご紹介に預かりましたリュントです。ギルドカードはこちらに」


「ありがとう、でもちょっと待ってね。先に、エールくんのパーティ離脱済ませちゃうから」


 さくさくと、事務処理用の用紙やら魔法プレートを出してきてくれたライマさんに、俺もリュントも乗せられるように話を進めていく。

 パーティ離脱の申請書に、コルトのパーティ名である『太陽の剣』を記す。コルトの髪色からつけたらしいんだけど、どうなんだろうなあ。

 そこから自分の名前と理由……まあ、『意見の相違』でいっか。書き込んでギルドカードとともに提出する。ライマさんが魔法プレートにギルドカードを乗せるときらりと光ったので、パーティ離脱は成立ってことだな。

 ……これ、普通はパーティリーダーと一緒に来ないとだめとかじゃなかったっけ。コルトのところからいなくなった女の子たちはコルトが連れて行ったはずなんで……一体どうしたのやら。余裕ができたら、調べてみるか。


「さて、お次は新規パーティ設立と。リュントさんだったね、ギルドカード出して」


「はい。お願いします」


 次はパーティ設立申請書。リーダーは……とリュントに視線を向けたら、「エールがリーダーですよ。もちろん」と笑顔で即答された。荷運び屋がリーダーでいいのかな、と思ったけどまあ、リュントはそれでいいみたいだし。

 リュントも文字を書けるようなので、署名してもらう。あ、何かたどたどしくてかわいい。そっか、人型になれるようになってから文字の書き方覚えたんだな。読むには読めたかもしれないけど、トカゲの手じゃ書きにくかっただろうし。


「魔法剣士って、田舎だと珍しいんだけどねえ。エールくん、どこでこんないい子と会ったの」


「え、あー……コルトにとっ捕まる前ですね」


「なるほど。それでコルトに見つからないように隠してたんだ。可愛い子だし、良い判断だねえ」


 まあ、ライマさんの理解は間違っちゃいないんで曖昧に笑っておこう。……ドラゴンの幼生だったリュントを、『暴君』退治に来たコルトの前に出すわけにはいかなかったもんな、うん。


「で、パーティ名は何にするんだい?」


「………………む」


 あ、やべえ。何も考えてなかった。

 ソロ活動のときはパーティ名とかいらないんだけど、二人以上で組むときは事実上必須なんだよね。誰と誰と誰のパーティ、というよりなんとかいうパーティ、の方がわかりやすい、らしい。長く活動してるところになると、名前だけで周囲に影響出るし。

 コルトの『太陽の剣』も、『暴君』を倒したことで結構名が上がった。もうすぐ、王都に移るんじゃないかって言われてる……あ、それで俺が邪魔なのかな。ま、いいけど。あと、自宅どうすんだろな。貸家にするって手もあるか。


「なんですか? エール」


 で、ふと視線がリュントに行った。白銀の全身に赤い目のドラゴン、人型でも白銀の髪に赤い目。口元には牙。


「……『白銀の竜牙』、とか」


「きゅあっ!?」


「あら、いい名前だねえ。リュントさんの革鎧、そんな色だし」


 つい口にした名前にリュントの目が丸くなり、ライマさんはにんまりと満足気に笑う。いやいやいやいや、デビューしてほどない魔法剣士と荷運びの二人パーティで大げさな名前じゃね?


「エールくんの出身地、竜の森の近くなんだろ? そういう、故郷に縁のある名前を付けるとこもよくあるからね」


「そうなんですか」


 ふむ、なるほど。

 竜の森出身はリュントもそう。白銀とつけたのは、そもそも主要戦闘力が彼女になるんだから特に問題ないよな。

 そもそも荷運び屋の俺は、一人で冒険者をやるのは無理だ。まともに戦闘訓練でも積んでりゃ別だけど、コルトは俺を雑用にしか使わなかったからな。……たまに囮もあったか。

 そんなことを考えている間に、ライマさんは俺とリュントのギルドカードを魔法プレートに乗せる。再びきらりと光って、登録は終わったみたいだ。


「エールくんのパーティ『太陽の剣』からの離脱、及びリュントさんとの新規パーティ『白銀の竜牙』設立申請は受理されました。おめでとう」


 ギルドカードを返してくれてからライマさんは、ぱちぱちと手を叩いて祝福してくれた。

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