無欲な吟遊詩人
むかしむかし、ある所に旅の吟遊詩人がいました。
吟遊詩人はほうぼうを渡り歩き、町や村を訪れた時は竪琴を引いて様々な歌を人々の前で披露しました。
その歌を聞いた人々は皆感動し、吟遊詩人に拍手喝采を贈りました。
そんなある日、吟遊詩人は立ち寄った町で悲しみに暮れる一人の少女に出会いました。
何故泣いているんだい、と吟遊詩人が訊ねると少女はこの子が苦しんでいるの、と答えて吟遊詩人の方に振り返りました。
少女は子猫を抱きかかえていて、その子猫は酷くぐったりしていました。
子猫の様子を見て吟遊詩人はかなり衰弱しているね、と言いました。
病院に連れていってあげたいけどお金が無いの、と少女は悲しそうな声で言いました。
じゃあせめて私の歌でこの子を励ましてあげよう、と言って吟遊詩人は竪琴を奏で、澄んだ声で歌い始めました。
するとぐったりしていた子猫の様子が少しずつ変化し、歌が終わる頃にはすっかり元気になっていました。
少女は子猫が元気になった事を喜び、吟遊詩人にお礼を言いました。
そしてポケットから僅かなお金を取り出すと少女はそれを吟遊詩人に差し出しました。
しかし吟遊詩人は首を横に振ってこう言いました。
私はお金の為に歌ったんじゃないよ、と。
それから吟遊詩人はその町に五日ほど滞在し、子猫を抱きかかえた少女に見送られながらその町を出て旅を再開しました。
軽快な歌を口ずさみ、広大な草原を歩きながら吟遊詩人は思いました。
次はどんな人に会えるだろう、と。
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