白い蛇の願い事

むかしむかし、あるところに一匹の白い蛇がいました。

白い蛇はいつも一人ぼっちでしたが、寂しいと思った事は一度もありませんでした。


そんなある日、白い蛇は森で美しい少女を見かけました。

白い蛇はその少女の事が一目で好きになってしまいました。

しかしこのまま会いに行っても怖がられるだけで少女と親しくなれる筈がありません。

白い蛇は悩みました。

どうすれば怖がられる事無く少女と親しくなれるだろうか。

悩みに悩んだ末、白い蛇は思いつきました。

自分が少女と同じ人間になれば良いんだ、と。

しかし白い蛇は人間になる方法を知りませんでした。


そこで白い蛇は森で一番物知りなふくろうに人間になる方法を訊ねてみました。

するとふくろうはこう答えました。

新月の夜に森の奥にある湖の水を一口飲んでみなさい、そうすれば二日だけだが人間になれるよ、と。


白い蛇はふくろうの言う通り新月の夜に森の奥にある湖に行き、恐る恐る湖の水を一口飲んでみました。

すると白い蛇の姿が一瞬にして人間の少年に変わりました。

最初は自分の姿が変わった事に驚きを隠せずにいた白い蛇でしたが、しばらくすると

人間になれた事を喜びました。


早速あの少女に会いに行こう、と白い蛇は思いましたがこんな時間まであの少女が起きているのだろうか、とも思いました。

白い蛇が少女に会いに行くか否かを悩んでいると、突然近くの茂みが大きく揺れました。

誰かいるの、と白い蛇が声をかけると茂みから一人の少女が現れました。

白い蛇はきょとんとした顔でその少女の事を見ました。

その少女は以前森で見かけたあの美しい少女だったのです。


白い蛇は少女に何故こんな時間にこんな所へ来たのかを訊ねてみました。

すると少女は微笑みを浮かべながら星を見に来たの、と答えて空を見上げました。

白い蛇もそれに習って空を見上げてみましたが、星空を眺める楽しさが白い蛇には良く分かりませんでした。


数分後、少女はそろそろ帰らなくちゃ、と言って立ち上がりました。

その場から立ち去ろうとする少女に白い蛇がまた明日もここに来てくれるかどうかを訊ねると少女は晴れたら明日も来るよ、と答えました。


少女が去った後、白い蛇は夢心地に湖を眺めていました。

ほんの数分ではありましたが、白い蛇にとってそれはとても幸せな一時でした。


次の日、白い蛇はもう一度少女に会える夜まで待ちきれず、少女が住む村に行って少女を探しました。

しかし白い蛇が少女を見つけた時、少女は別の少年と楽しそうに話していました。

それを見て白い蛇は悟りました。

自分はあの子を好きになってはいけなかったんだ、と。


そしてその日の夜、昨日と同じ時間にやってきた少女に白い蛇は今日でお別れなんだ、と悲しそうな声で言いました。

遠くの町に引っ越すと嘘をつき、白い蛇は最後にこう言いました。

君は幸せになってね、と。


それ以降、少女が森の奥にある湖に何回訪れてもそこで出会った少年に再び会う事は出来ませんでした。

一方元の姿に戻った白い蛇は森でひっそりと暮らすようになりました。

そして星空を見上げて流れ星を見つける度に白い蛇は願いました。

彼女を不幸にしないで下さい、と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る