祈りの木

むかしむかし、あるところに小さな村がありました。

その村は自然豊かで、秋になると沢山の作物が収穫され人々に自然の恵みを与えます。

村人達はその恩恵がいつまでも続くことを願って村の守り神であるご神木に祈りを捧げます。

その祈りが届いているからか村は豊作が続きました。


そんなある日、大規模な地震と豪雨が同時にこの村を襲いました。

家は崩れ落ち、田畑は荒らされ、沢山の命が死に絶えました。

生き残った人々は肩を寄せ合い、一日一日を必死に生き続けました。


大災害が起きてから数年後、人々は村の復興作業にてんてこまいでした。

しかし作物が中々育たず、食料も底をつきつつありました。

さてどうしたものかと人々が悩んでいると一人の娘が言いました。

ご神木にお祈りして作物が育つ様にしてもらおう、と。


娘の提案に対し、村人の一人はこう言いました。

ご神木はあの地震のせいで倒れてしまったよ、と。

それでもやってみなくちゃ分からないよ、と言って娘はご神木のある丘に向かって走り出しました。


娘がご神木のある丘に着くと村人の一人が言った通りご神木は根元から倒れ、朽ちかけていました。

ご神木の無残な姿を嘆きつつも娘はご神木の傍に跪いて祈りました。

何日も、何ヶ月も、何年も、どれほどの時が流れても娘は諦めずに祈り続けました。


そんな娘の祈りが届いたのかある日突然雨が降り、痩せた大地を潤しました。

すると今まで殆ど育たなかった作物がぐんぐん良く育つようになり、沢山の作物が収穫されるようになりました。

突然の出来事に驚きつつも村人達は口を揃えて言いました。

これはあの娘が起こした奇跡だ、と。


村人達は奇跡を起こしてくれた娘に感謝の気持ちを伝えようと娘がいるであろうご神木のある丘に向かいました。

しかしそこに娘の姿は無く、代わりに芽生えたばかりの小さな若木を見つけました。

その若木を目にして村人の一人が言いました。

これはきっとあの娘の命だ、と。


村人達はその若木を新しいご神木として大切に育てました。

自分たちを救ってくれた娘への感謝の気持ちを込めて、村人達は新しいご神木にこう名づけました。

イノリの木、と。

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