青髪の王

むかしむかし、あるところに旅の傭兵がいました。

傭兵は空を思わせる美しい青の髪を持つ青年で、その容姿は流浪の身とは思えないほどに麗しいものでした。


行くあての無い旅を続ける傭兵はある日、海沿いにある小さな国を訪れました。

その国の城下町に足を踏み入れた瞬間、傭兵は突然町の人々に取り囲まれました。

驚く傭兵に街の人々は口を揃えて頼みました。

この国を救って欲しい、と。


傭兵が事情の説明を求めると人々の中で最も年老いた男が一歩前に進み出、この国で何が起きているのかを説明しました。

男の話によるとこの国の人々は暴虐の限りを尽くす王に酷く苦しめられていました。

しかし少しでも反抗の意思を見せれば屈強な兵士に捕らえられ、処刑されてしまうので人々は辛くても耐える事しか出来ませんでした。


ならば何故私にこの国を救って欲しいと頼んだのか、と傭兵が訊ねると男は王家の血を引く者は青い髪を持つのです、と答えました。

王と同じ青い髪を持つあなたの声になら王も耳を傾けてくれるかもしれません、と男は言いました。

傭兵はしばし悩んだ後、話すだけ話してみましょう、と答えました。

そして王が住む城に向かって歩き出しました。


国の北側にある城に辿り着いた傭兵は門番に何用か、と訊ねられ王への謁見を求める旨を門番に伝えました。

すると門番は傭兵の髪を見て酷く驚いた表情を見せるとここで少し待ってろ、と早口でまくしたてて慌しく場内へと走って行きました。


そして数分が立ち、先程の門番が戻ってきて言いました。

自分が謁見の間まで案内するからついて来い、と。

傭兵はそれを了承し、門番と共に場内に入りました。


謁見の間に通じる扉の前まで来た時、門番は傭兵に言いました。

くれぐれも王に失礼の無い様にな、と。

傭兵は頷いて答えると扉を開け、中に入りました。


謁見の間には王が一人、豪華な椅子に鎮座していました。

城下町で男が言っていた通り、王の髪は多少色褪せてはいるものの、傭兵と同じ青い髪でした。

王は穏やかな表情を見せながら私に何用だ、と傭兵に訊ねました。

傭兵はその穏やかな態度に驚きつつもこの国の人々が苦しんでいるので救いの手を伸ばして欲しい、と頼みました。

しかし王は民の事など放っておけ、と言いました。

それどころか傭兵に私の後を継いでこの国を支配してみないか、と申し出たのです。

その申し出に対し傭兵はそうですか、と言って立ち上がると腰に提げた剣を鞘から抜き、静かな声で言いました。

ならば仕方ありませんね、と。


そして傭兵は何の躊躇も無く王を斬り殺しました。

悲鳴を上げる間も無く、暴虐な王はあっけなく絶命しました。

異変に気づいた兵士達が謁見の間へ駆け込み、王の仇を討とうと傭兵に襲いかかりましたが、傭兵はその兵士達を容赦無く斬り殺していきました。

中には傭兵を恐れて逃げ出した者もいましたが、傭兵はその者達を追う事はしませんでした。


返り血まみれの傭兵が城を出ると城下町の人々が城の入り口に集まっていました。

期待に満ちた眼差しを向ける人々に傭兵は静かに言いました。

王は私が殺しました、と。

それを聞いた人々は歓喜の声を上げ、傭兵を褒め称えました。

しかし傭兵が嬉しそうな表情を見せる事はありませんでした。


傭兵がかつての王を殺してから数年後、この国は新たな王となった傭兵に治められ、とても平和な国になりました。

新たな王はとても民思いで優しい王でしたが、人前に出る時は常に顔を隠していました。

何故お顔を見せないのですか、と兵士の一人が訊ねると新たな王はこう答えました。

笑い方を忘れてしまったからだよ、と。

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