花屋敷
むかしむかし、あるところに名家のお屋敷で働く執事の青年がいました。
青年はとても働き者で、ちょっと我侭なお嬢様に振り回されながらも毎日真面目に働き続けました。
そんな青年の趣味はガーデニングで、お屋敷の庭園は全て彼が管理していました。
庭園には色とりどりの花が咲き乱れ、中には紅茶に使う葉が生える木もありました。
この木から摘んだ葉を使って青年が淹れた紅茶はお嬢様のお気に入りで、おやつの時間に青年が淹れた紅茶を飲むのがお嬢差の日課でもありました。
ある日、青年は旦那様の使いで少し遠くの町に出掛けました。
用事を手早く済ませた後、青年はお嬢様へのお土産として薔薇の苗を買いました。
お屋敷の庭園に新しい花が増えるとお嬢様は必ずと言って良いほど喜んでくれるので、青年は用事でお屋敷の外に出る時は必ず新しい花の苗を買って帰る事にしていました。
今回もお嬢様はきっと喜んでくれるだろう、そんな事を思いながら青年は早くお屋敷に戻ろうと足を速めました。
青年がお屋敷に着いたのは夕方頃でした。
早く夕食の準備をしなくちゃ、と思いながら青年はお屋敷の扉を開けてただ今戻りました、と叫びました。
しかし返事は返ってきません。
それを不思議に思った青年は薔薇の苗を近くの棚の上に置き、リビングに移動しました。
そこには誰もいませんでした。
青年は屋敷中をくまなく探しましたが、自分以外の屋敷の住人を誰一人として見つける事が出来ませんでした。
もしかしたら外にいるのでは、と思った青年は屋敷の外へ出て庭園を調べ始めました。
しかしいくら庭園の中を調べても旦那様や奥様、お嬢様を見つける事は出来ませんでした。
一通り調べ終えた後、青年は何故誰もいないのだろうと思い、その理由を色々考えてみました。
そしてある一つの考えに辿り着きました。
自分がいない間に三人でどこかへ出かけたのだろう、と。
ならば皆が帰って来るまで自分がしっかり留守を預からねば、と青年は意気込みました。
そしてそれから数ヶ月後、お屋敷の庭園に薔薇の花畑が追加されました。
青年が丹念に世話をした花達はどれも色鮮やかに咲き誇り、お屋敷を美しく彩りました。
しかしそのお屋敷にいるのは執事の青年一人だけでした。
旦那様や奥様、お嬢様がどこへ行ったのか、青年は全く知りません。
でもいつかはきっとこのお屋敷に帰って来るだろう、そう思いながら青年はお屋敷と庭園の手入れに心血を注ぎました。
時折その手を休めると青年はこう呟きました。
早く帰ってこないかなぁ、と。
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