第6話 手合わせ
二人が手合わせを始めてから
だが実際に向かい合ってみると、特に構えるでもなく立っている
息を深く吸って吐き出す。これを二度繰り返し、相手を見据えると素早く間合いを詰め、肩を狙って拳を突き出した。それを
軽くポンと押されただけだったが、
振り返ると
改めて呼吸を整えてから再度踏み込むが、躱され、いなされ、軽くあしらわれてしまう。
そんなやり取りを何度もしているうちに焦りで呼吸も整わず、乱れた思考のままに
胸元を掴んだ手を相手に掴まれたところまでは見えた。が、そのあと何がどうなったのか、目の前の
背中から草の上に落ち、コロコロと転がってうつ伏せに倒れた
「大丈夫?」
倒れたままの
するとバシャンという水音とともに、
驚いた
深くはなかったが、バランスを崩して倒れ込んだ
「うわぁ大変! 早く上がって!」
差し出された手をぼんやり見ているうちに、
腕前を見てやるなどと大口をたたきながら、全く相手にならず投げ飛ばされたばかりか、こんな濡れ鼠になってしまうとは、情けなくて涙が出そうになった。
「どうしたの? どこか怪我しちゃった?」
心配する
ぐっと涙をこらえて差し出された手を握ると、力強く引かれ岸へと上げられた。
「どこか痛い?」
なんとなく黙って顔を背けると、より一層慌てて、息がしづらいのかとか胸が痛むのかとか、一生懸命に話しかけてくる。
手合わせをしていたときの泰然とした態度とは全く相容れないそれが妙におかしくなって、ぷっと吹き出してしまった。
「あ、大丈夫なの? どこも痛くない?」
「どこも痛くない。大丈夫だ」
「それならよかった。あの、ごめんね」
「何が?」
「投げ飛ばしちゃったこと」
「いいよ。こっちこそ悪かった。おまえ、本当に強かったんだな」
「そんな……
「はあ、気を遣うなよ。全然相手になってなかったじゃないか」
「そんなことないよ。
「おまえが謝ることじゃない。俺がまだまだ弱かったってだけだ。これからもっとがんばって強くなる!」
「うん!
「次は勝つからな!」
笑いあう二人に舞い散る花びらを伴って風が吹いてくる。美しい光景ではあるが、通常であれば心地よいそよ風も、ずぶ濡れの
濡れたまま外にいれば体を壊してしまいかねない。
「そのままじゃ寒いよね。風の当たらないところに行こう」
中は入り口から想像するより広く、地面も平らでそれほど危なくはなさそうだった。
ほんの数歩足を踏み入れただけだったが、そこは風もなく静かな空間だった。空気の流れがないように思えるのに、淀んでいるということもなく不快にならない。むしろ安心感すら覚えるような、何とも言えない不思議な場所だった。
「
外から声をかけられて振り返ると、
「わあ、すごいな。こんな洞窟まであるなんて、本当に隠れ家みたいなところだな」
「こっち来て」
入り口からの光が届く範囲で奥まで
「おい! 何するんだよ!」
「何って、濡れた服を着てると風邪ひくよ。脱がなきゃ」
あっという間に半裸にされた
粗末な布だと思っていたそれは、以外にも肌触りがよく着心地が良かった。乾いた布にくるまってほっと一息つこうとしたところ、
当然のように行われたその行為に抵抗も反論もできないうちに、しゃがんだ
(俺は何をやってるんだ! なんであいつにされるがままになってるんだ??)
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