第4話 宋秀を従者に誘う
主人に仕える立場とは言え、
たとえ本人が気にしなくても、周囲に付け入る隙を与えないよう、身近に置く人間をうかつに選べないのが政に関わる家の常だ。
もし
「おまえさ、普段なにしてるんだ? 何か得意なことあるか? 例えば、そうだな、俺は
「あ、
「おいなんだよ、さっきまでと同じように話せよ」
「誰も見てないし、公子とか言わなくていいよ。
「
「何巻読んだんだ?」
「一応、全巻です」
「え!? 全巻?」
読めると言っても当然一部だけだと思っていたため、
実際、
冷静に考えれば、優れた師をつけてもらっている自分と同等に学ぶことができている十歳の子が、孤児で寺住みというのは妙な話である。
だがこの時の
「おまえすごいんだな!」
「ありがとうございます。王公子は何巻読まれたんですか?」
「普通に話せって。あと
「……うん、わかった」
するとにっこり笑った
それは、大昔に一国の王が飢えに苦しむ獣のために自らを捧げ、またその慈愛によって魂にも救いを与えたことで、獣は王に報いるため修行に励み、やがて天へ昇ったという説話だった。
語り終わった余韻にしばし浸ったあと、
「おまえ俺の従者になれよ」
「ええ??」
穏やかな表情に戻っていた
「父上が俺に従者をつけようとしてるんだけど、あんまり気が乗らなくて断ってたんだ。でもおまえなら一緒にいても大丈夫そうだからさ」
「で、でも……」
内心では寧ろ一緒にいたいと思っているのだから断られては困る。
「身分のことなら気にしなくていいよ。
「ええ、それはちょっと」
「遠慮するなよ。本当にどうってことないんだ。俺の従者になれば今よりずっといい暮らしができるぞ」
「王公……
「それって寺の教えなのか? 今あるもので満足しろみたいな。まあ寺の教えってそういうもんかもしれないけど、服も
「え、まだボロじゃないと思うけど、僕ってそんなにみすぼらしい?」
「みすぼらしいなんて思ってない!」
思わず大きな声を出してしまい、慌てて言葉を続けた。
「だからさ、おまえをけなしてるわけじゃなくて、もっといいものをあげられるって言いたかっただけだ」
しばし沈黙があり、
「ありがとう。でも従者にはなれないよ」
「どうしてだよ」
「……今いるところで大事なことを学んでいるから、終わらないうちは他へ行きたくないんだ」
「何を学んでるんだ?」
「う~ん」
「秘密の術……みたいなもの」
王家は何代も前から朝廷に深く関わり、少しずつ権力を持つようになった一族だったが、その中で対立する者たちが不可解な死を遂げることも少なくなかった。人々の間では王家には呪術を操る力があるという噂がまことしやかに語られていた。
かつて王家の当主を面と向かって罵った高官が、自分の邸宅内で体をずたずたに引き裂かれて死ぬという事件が起こった。
何があったかは分からないが、夫人が半狂乱で「鬼に食われた!絵の鬼に食われた!」と叫んでいたそうだ。
その絵というのが王家より送られた品だったのだ。描かれていたのは艶めかしい美女であり、高官は絵を手に入れてから魂が抜けたように眺め続けた挙句、話しかけるようになり、他の者が近づくと殴りかからんばかりの勢いで怒声を浴びせた。
しばらくして、部屋から出てこなくなった夫を案じ、様子を見に行った夫人のけたたましい悲鳴に駆け付けた者たちは、血だまりの中で腰を抜かした夫人が叫び続ける惨状を目の当たりにした。
後に現場を調べた
この事件後、王家の呪術の噂はあっという間に広まった。
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