第2話 郷愁の地
(前は可愛い顔だったのに……)
だが今はすっかり変わってしまった。
濃くはっきりした眉と切れ長の目はやや吊り上がり気味で、高い鼻と薄い唇は冷たそうな印象を与える。造形的には美しいと言えるが、その美しさがかえって威圧感を増幅させ近寄りがたい雰囲気をまとっている。
今の彼を見てかつての
だが純粋に好意を感じられるからという以外にも理由があった。
実は
彼は幼いころ、初めて自分の目にある模様を見たとき、たまらなく不安な気持ちになった。地の底に引きずり込まれるような、得体の知れない恐怖に体が震えるほどだった。
近くで見なければわからないものだったが、彼は鏡を見るのを避けたし、他人に見られるのも嫌で、距離をとるようにしていた。
しかし
そのときからずっと、
(左目だけは変わってなくてよかった)
「え?」
思わず声が出たが、
「早く飲め」
「何やってんだよ、止血しなきゃ」
「止血したらまた切らないといけなくなるだろう。早く飲め」
「そうじゃなくて、俺は血が足りなかったわけじゃ……」
言いかけたとき、横から黒い塊に突進され、
何回転かしてうつ伏せに倒れた
「おい
黒い塊は
「無視すんな!」
憤慨している
この犬は
「
きゅんきゅんと鼻をならしてじたばたする
「ぶはっ!やめろって!もう!」
一人と一匹がじゃれあっている間に左手に布を巻いた
「帰るぞ」
「わん!」
自分から離れて勢いよく
それから一晩歩き続け、日も登ったころに隠れ家のある山へ戻ってきた。
獣道を上ってしばらくすると大岩があり、人ひとり通ることができる亀裂を抜けると、四方を崖に囲まれた草地がある。それほど広くはないが、湧水が溜まった泉の周りには花が咲き、いくらか生えている木の木漏れ日がきらきらと光る幻想的な風景の中、
この洞窟の奥が彼らの現在の拠点だ。
「あ~、やっと帰って来られた」
「まったくおまえは、節操のないやつだな」
仰向けで腹を撫でられながら
洞窟内の壁面に置かれた松明へ火をつけ終わった
「
一通り
「ああ、大丈夫だ。それにこいつは昨日お前の血を舐めてただろう。霊力も足りてるだろうし、見ろ、この満足そうな顔を」
普通の犬と何一つ変わらないこの愛くるしい
真っ白な綿毛のような子犬だった時に、
そして今は黒くなってしまったので
色こそ真逆になったが、かつての通りいたずら好きで甘えん坊な性格は少しも変わっていない。
目の前で腹を撫でられ、うっとり満足気なその顔を見た
そしてそのまま何も言わずに
(昨日のことは何にも気にしてないんだな)
「どうした?」
じっと見つめてくる
「別に。ただ子供の頃にもお前がこんな風に俺の服を脱がせたことがあったなって、思い出しただけだ。覚えてるか?」
「覚えている」
「あれがもう十五年くらい前なんだな」
「そうだ」
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