第2話
「あーー大学だるっ……」
俺は現在歩きながら大学へと向かっていた。
今日の授業は2限だけで11時からなのだが、それすらも間に合わなそうな状況である。
「今日も遅刻するな……。なんか俺段々だらしなくなっているな……」
大学生は高校の制約から大きく解放された自由な存在であり、大学1年生だった時の俺はその自由な生活に憧れて一人暮らしを始めて積極的に友人作りや恋人作りに励んでいた。
いわゆる高校デビューならぬ大学デビューというものだ。
しかし、その大学デビューはことごとく失敗していった。
友人作りはあまり長続きせず、授業友達止まりでしか無かった。今思えば課題や板書を写したノートを借りてきたのもただ利用されていたのだと気づく。
恋人作りもそうだ。話しかけても上手く会話は弾まず、SNSで話が合うなと感じた人も気づけば彼氏ができていた。
大学デビューした俺とは違い、元々陽キャでイケイケの人間は慎重派の俺と違い手を出すのが異常に早く、俺は敢えなく顔も知らない男に惨敗してしまった……。
「ほわぁ」
まぁそんなことが1年生の間に何度もあって、俺は挫折をしてしまった。もはや男にも女にも何の期待も抱いていない。
俺は一人で生きていくと決めたのだ。
……眠いな、やっぱり道を引き返そうかな。
「黒藤君。君15分の遅刻ね」
「……わかりました」
単位は落としたくないためやはり授業は行けるうちに行っといた方が良いので、道を引き返さず学校に向かい到着した。
30分ほど遅刻するかと思ったが運良く10分以上も短縮することができた。
俺以外の学生は既に多く席についており、教授の話など全く聞いてそうにいなかった。ある人はスマホを弄っており、ある人は隣にいる人とお喋りをしていた。
……まぁ大学なんてこんなもんだよな。
「じゃあ授業を再開しますよ。え~……ここは……であるからして……」
再び授業が開始し始めて、俺は空いている1番後ろの席に腰を下ろす。そしてバッグから筆記用具とノートを取り出そうとしていると隣から……
「なぁ奏。この後の授業サボってどっか遊びに行こうぜ」
「隆。あなた単位危ないでしょ?まぁサボるのは勝手だけど、私は行かないわよ」
「え~……いいじゃねーか奏。一回くらいサボってみよーぜ?」
「先生に目つけられるなら静かにしていて頂戴」
「ちぇ……」
俺は隣のチャラそうな男が清楚クール系の女子に振られているのを顔に出さず腹の中で笑みを溢す。
俺の視線を感じ取ったのか、左にいる俺の方へ目を向けて顔を見ては睨み出す。
「……何見てんだよ?あ?」
「別に」
「ふっ……いかにも童貞臭いな」
「童貞だと何かおもしろいのか?」
「けはっ、男としてダサいから笑ってんだよ」
童貞など言われ慣れているため最早何も感じていなかったのだが、そうか…‥童貞は恥ずかしいことなのか。
「隆。そんな話をするなら教室の外でやってくれない?」
「へーい分かりました~」
そこで隣にいた女子が俺とその男に冷たい眼を向けて鋭い睨みを効かしながら注意をしてきたことで、会話はそこで終了した。
なるほど……中々ガードが堅く可愛い気の無さそうな女だ。これはこのチャラい男が惨敗するのも納得だ。
12時30分になったことで授業が終わる。
今日はこの2限しか授業が無いためさっさと帰り支度をする。
「よし、帰るか~」
特に誰かと談笑をすることなく教授よりも教室を早く出る。別に急ぐほどの予定はない、帰って寝るだけ。これが俺の日常。
「そういえばおもしろそうなゾンビ映画借りたんだった。それ見るのもいいな」
帰宅路で歩いている時にふとレンタルショップで借りたゾンビ映画を思い出す。確か……ゾンビだらけの世界で主人公だけがゾンビに狙われないって感じの作品だっけか?
まぁ別に何でもいいや……ただの暇潰しだ。
今日はそのゾンビ映画を見た後に寝るのが一番気持ちが良さそうなため見ることを決めた。
「普通……。けど、あれだな……ゾンビに襲われなくなったからといって良いことばかりじゃないんだな」
ゾンビに狙われない主人公は人間の生存者と一緒にゾンビへと立ち向かっていく物語。
一見その無敵な主人公が世界を救う救世主になるかと思いきや実際はその逆。主人公はゾンビに狙われないという点から人間の生存者に気味悪がれており、ただただ自分達が生きていくために主人公を利用しまくり挙句の果てに主人公が危険になれば置いていく始末……。
演出や脚本はいかにもB級丸出しだったがゾンビに狙われないという異質な主人公の存在が必ずしも良い方に転ぶわけではないというのがこの映画で学べたため、俺的にはかなり満足度のある映画だった。
もし仮にこの世界がゾンビの世界になったとして……それで俺がゾンビに狙われない存在になったとしたら俺はどうするのだろうか……?
「……まぁそんなのどうでもいいや。寝よ」
そんなありもしない世界の事に脳のリソースを割くのが途端に馬鹿らしくなって行き、俺はベッドに床から体を乗り出し寝た。
「ふわぁ……」
俺はパチリと目を覚ます。なんだか今日の眠りは浅い気がした。恐らく一時間ほどしか寝ていないだろう……。
体を起こして時計を見てみても一時間弱ほどしか経っていなかった。まだバイトまで時間があるため二度寝をしようとしたその時だった。
窓の外から悲鳴が聞こえた気がした。
「なんか外が騒がしいな」
俺は騒がしい外にうんざりしながら窓の外を眺める。
「は?なんだあれ?」
そこに映っていたのは彼方此方で火を噴きながらひっくり返っている自動車。そして大きく火が燃え上がっている目の前の建物。さらには悲鳴を喚き散らしながらナニカから逃げるように走っている人達……。
「一体何から逃げて…‥おい嘘だろ?」
逃げ惑う人々の後方に目を向ける。そこには俺達と同じ姿をした人間であった。しかしその動きは鈍く、体は血だらけで服はボロボロであった……。
俺はその光景を見て、どこかで見た記憶と目の前の現実が重なる。
それはついさっき見たゾンビ映画に出てくるゾンビの動きと見た目に酷似していた。
「……マジで本物のゾンビなのか?」
俺は寝ぼけていた頭が目の前の非現実的な光景を見せられて覚醒する。そして沸々と湧き上がっていく死への恐怖……。
「ど、どうするか……、外に出るよりここにいた方が安全か?」
俺は窓のカーテンを閉めて、このアパートに誰か生存者が居ないかを外へ出て確認をしようとする。
ドンッ ドンッ
ドアに向かって一歩踏み出した所で、ドアを叩く音がする。
「!?」
もしかしたら誰かが俺と同じ考えを持ってドアを叩きに来てくれたのかもしれない。そんな微かな希望を抱きながら恐る恐るドアの壁穴に目の位置を調整して覗く。
そこには映画で見ていた化け物と全く同じ様をしたゾンビがいた。
「マジでゾンビがいやがる……」
これは例え生存者が居たとしても外へ出て確認はできそうにないな……。
「しばらく部屋で閉じこもってるしか……」
パリーンッ
「なっ!?」
後ろから窓が割れるような音がする。後ろを振り向くとゾンビが窓を割っていた。
「まさか下から登ってここまで!?」
この部屋は2階にあり、登って来れるような足踏みなど無いため通常ではここまで登ってくることはできない。
しかし相手はゾンビ、俺達人間の考えにも及ばない行動を取ってくるのだと映画を見て分かっていたのにここに来て改めて理解する。
「くっ……!」
そのセーラー服を纏った長髪の女子が、窓の割れた穴から手を伸ばして鍵のロックを解除する。
「は!?そんなのありかよっ……!」
ロックを解除した後窓を横に引いて開ける。そして身を乗り出して部屋に転がりながら入って来る。
立ち上がることもせず、体を這いつくばりながらじわじわと距離を詰めてくるゾンビ。
「く、来るな!やめろっ!」
最早逃げ場などこの部屋には無かった。ドアの向こうにはゾンビがいて、目の前にもゾンビがいる八方塞がりの状況。
俺は恐怖のあまり武器を持つこともできず、せめてもの抵抗で足を使いそのゾンビの顔を地面に座りながら蹴り続ける。
しかし相手は人間ではなくゾンビ。俺の体の一部を一噛みしてしまえばそこで俺はゲームオーバーなのだ。
「あぁっーーー!」
俺は顔目掛けて蹴り出した足を首を動かすだけで避けられ、空振りした足をそのゾンビに噛まれてしまった。
「あぁ……」
まさかゾンビ映画を見た後すぐ本当にゾンビに襲われてしまうなんて……。
何てツいていないんだ俺は。
このままあの映画のようにウイルスが体に適合してくれたら良いのに。
そんなフィクションみたいな話あるわけないけど……。
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