第3話

「ガチかよ……」


 目を覚めた時自分の自我がちゃんと残っていることに衝撃を受けた。周りにいたはずのゾンビはもうおらず、身体は特に異常が無い。


「傷もちゃんとあるし。こんなこと本当にあるんだな」


 俺は確信する。フィクションは現実に存在するのだと。


 フィクションの中だけだったはずのゾンビと、ゾンビに噛まれてもゾンビにならない人間が本当にいること。


 まさか意識を失う前に願っていたことが本当に俺の身に起きてくれるなんてな。大学一年の頃散々失敗してきた俺だが、今生きていることだけでも報われた気がするな……。


 さて……これからどうするか。


「この部屋の周りにはゾンビがいないみたいだし、とりあえず生存者を探しにいくか?」


 生存者を見つけて、それから食糧調達に困らなくてゾンビが襲ってこれなそうな拠点を探さないとな。


 まぁ食糧調達に関しては、恐らくゾンビに対して無敵の体質を持つ俺ならいくらでも食糧など持って来れるし別に大丈夫か?


 よし、そうと決まれば……あれ?


「いや待てよ……よく考えろ」


 何かが俺の中で引っ掛かっている気がする。このまま行動すれば何か最悪な事態に遭遇する気がした。


 そうだ…‥何で忘れていたんだ…!


「あのB級ゾンビ映画が教えてくれたじゃないか……。俺はあれを教訓にして生き延びなければいけないんだ!」


 ゾンビに対しての無敵な体質。それはこのゾンビがありふれた世界ではとても頼りになる存在であると同時に、人間ではなく異質な"何か"として扱われてしまう。


 そして利用するだけ利用して、最後は俺という異質な存在を恐怖という理由で人間の輪から切り離そうとするのだ。


 そしてだ。恐らくこのゾンビパンデミックは意図的に起こされたものであり、俺らの状況は地球の上にある衛星から逐一観察されているに違いない。


 そんな陰謀論あるわけないって?実際世界がこんな悲惨な状況になって、ゾンビに噛まれても平気な奴がいるんだ。あともう一つや二つくらい信じられないことごあっても可笑しくは無い。


 だから外に出る際は慎重に動かなければならないのだ。ゾンビがウロウロしている中で平然と歩いていては目立ってしまう。


 だから俺はゾンビになる。ゾンビのフリをし続けて地球が平和を取り戻すその日まで何とか悪の組織に気付かれることなく過ごして行くんだ。


 負けないぜ……アン◯レラ社!


「幸い一人でいることには慣れている。食糧はそこら辺の盗めばいいし‥‥寝床はここで良いだろう……」


 ここに来て大学生でぼっちとして生きてきた経験が活きている気がする。仲間と協力しないと生きて行けない訳でも無いから本当に俺は幸運だと思う。



「念のため本当に襲われないから確認してみるか……」


 十中八九大丈夫だろうけど、もしもの時がある為確認することにした。これでもしまた狙われるなんて事になったらマジで無意味な時間になるけど……。


 俺は外へ出てアパートの階段を降りた先に道路で彷徨っていたゾンビを見つけて、恐る恐る近づこうとする。


 しかしゾンビはそれに微動だにせず道を彷徨っているだけであった。


「本当に襲われない……。これはあのB級映画も侮れないな」


 ゾンビに襲われる前にあのゾンビ映画で知識を付けておいて良かったと心の底から思う。


 ゾンビに反応されない事が分かったので、次の行動へ移る事にした。


「誰かに見つかるのも良くないし、とりあえずゾンビのフリをしながら食料を調達するか……」


 近くにいるゾンビの呻き声を直に聞きながらそれを真似するように自分も発声する。


「え、えっと……こうか?……ヴォォォ……」


 それに呼応するようにゾンビも呻き声を重ねてくる。


「ヴォォォ……」


 しかし本物のゾンビとは何かが若干違うようでしっくりこない。ゾンビの方の呻き声は正気を感じない猛獣の様な禍々しく掠れている声なんだよな……。


 (ゾンビらしく振る舞えてるかこれ……?ちょっとイマイチじゃねーか?んー何か違うんだよな……)


 

「まぁ人前になるべく出なければ別に平気か」


 少しヤケになり俺はゾンビのフリを諦めて近くのコンビニに寄る事にした。




「食糧はコンビニで日持ちする物をリュックに取りあえず積み込んだから……」


 コンビニに着き、取り敢えず数日間は部屋に篭っていても平気な量の食糧をリュックの中に詰め込んだ。


「特にする事ないしレンタルショップで新しい映画でも借りるか」


 俺はそれなりに重いリュックを肩に背負って、ここから5分で着くレンタルショップへ向かうことにした。


 大学に行くことや就活もしなくて良くて、家でのんびりビデオを見てるだけで良いなんて何て最高な世界なんだ。

 



「おーこの中にもそれなりにいるな……」


 レンタルショップに着いたところで店内へ入ると、そこにもゾンビは溢れかえっていた。


 俺はそんなゾンビを無視して目的の場所へと足を進める。


「音が外に出ないようにヘッドホンと……今後の為にも知識として身につくゾンビ映画が妥当だろう……」


 別にゾンビ映画は好きでは無いのだが、今のこんな世界ではゾンビに関する知識は多くあって損はない。


 そんな理由で俺はゾンビ映画の棚の方へと移動して、気になったタイトルを手に取る。


「改めて見ると沢山あるな。王道系もいいが……この王道から外れた『ゾンビ拷問生活365日』も中々新しくて面白そうだ」


 ゾンビを拷問するという趣味は全く無いが、いつか役に立つことがあるかも知れないので取り敢えずリュックに詰め込む。


 まぁ明らかにコメディ臭がするが……


「30本くらい借りとくか。返すことは恐らく無いだろうけど……」


 食糧が入ったリュックの隙間に次々とテトリスのように詰め込んでいく。これがすっぽりと綺麗にハマるのが気持ちいんだよな……。


 綺麗に全部入ったので俺は家に帰る事にし、立ち上がろうした。


「よしっ、かえ……痛っ!」


 立ち上がった所で誰かに衝突する。


「あっすいませ……何だゾンビか。いやまぁ人間な訳ないんだろうけど」

 

 というかマジでゾンビって近くにいても全く気配感じないな……。俺に敵意が向けられていないからっていう理由もあるんだろうけど……、これが急に後ろから現れて襲ってきたら俺チビっちまうんじゃねーか。



 ガランッ


 ふとどこからか物音がした。


 ゾンビ達はその物音に一斉に引き寄せられる……。



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