聞いていたのとは違いますが?

浦 かすみ

婚約破棄上等!

初めて顔合わせをした15才の時に、カーテシーをして俯いている私に向かって


「私は意に沿わない婚約をするつもりはない、だから貴女の事を早く解放する努力をしよう」


と言ってきた美しい王子殿下。なんだか物語の主人公みたいだね。


「あ……そうでございますか~じゃあなるはや、なるべく早くに婚約破棄の手続きをお願い致します」


「……っ!」


私が顔を上げてそう答えると何故か物凄く驚いた顔をした、第二王子殿下のキリヒアズ=クーリ=バラグライデ様。


何だかオロオロしている?


「婚約……を解消……だぞ?」


「はぁ、それがどうしましたか?だから早く婚約破棄をしたいのでしょう?なるべく早めにお願いします。私も色々と次の段取りがありますし?」


何で顔を引きつらせて、お腹痛いっ……みたいな顔してんのよ?


兎に角、婚約者として第二王子殿下との顔合わせはこんな感じで終わった。


私は公爵令嬢だ、名をアリシェール=ロザイモエアと言う。今はあの時から半年ほど経って16才になった。


私の事を少し説明すると、この世界は私の知っている世界とは違う。


電気の代わりに魔力があり、魔物や魔獣と呼ばれる生き物が生息している、正に『異世界』だ。その世界に私は産まれ落ちたのだ、異世界の前世の記憶を持って……


なにせ赤子からの記憶持ちなので、最初は戸惑ったが比較的冷静に自身の成長を見守ることが出来たと思う。


世界の成り立ちから進化過程まで全てが違う世界……正直、興味は尽きなかった。裕福な家庭で伸び伸びと育ち、こちらの世界の両親、弟妹達とも仲良く無事に16才まで生きてきた。


なのに第二王子殿下の婚約者だってぇ?!


私だって分かっているよ、この国には身分制がある。頂点に王族、以下下々の者達。上からの命令は絶対。私は粛々と受け入れたわけよ。


なのに当の王子が婚約破棄を望んでいるときたもんだ。だから婚約破棄を今か今かと待ってるのだ。


それなのに、それから頻繁にお茶の席を設けられてキリヒアズ殿下と会わされている。私は殿下に会う度に


「まだですか?」


と聞いている。キリヒアズ殿下はいつも物凄く慌てて、お腹痛いっみたいな顔をして


「もう少し待ってくれ」


と、ばかり言う。まるで本妻との離婚はいつしてくれるのよ!頼むっもう少し待ってくれ!と、揉めている不倫男と愛人みたいだよね。立場、逆だけどな!


……と言って待たされること半年。いい加減焦れてくるね。


しかし、それは唐突に訪れた。なんと殿下に好きな人がいることが発覚したのだ。


それは殿下の好きな人側からの自己申告があったからだ。彼女の名前はリンジー=ボルドレ子爵令嬢だ。当然、私は会った事も口を聞いたこともなかった。それなのに、なーーーんにも接点も無いのに、15才から通っている魔法学園の庭で、ボルドレ子爵令嬢と顔の整った令息達、計4名に囲まれてしまったのよ。


リンジーは初対面の私に向かって


「私はキリヒアズ殿下の恋人なの!将来は結婚して王子様の隣に立つの!」


と自己申告と将来の願望?を私に聞かせてきたのだ。なんだそりゃ?


という訳で、好きな人側?からの一方的な自己紹介で私の中では、キリヒアズ殿下の好きな人だということに確定した、リンジーに私はことあるごとに絡まれている。


そして今日もまたリンジーとしもべ達に囲まれていた。


「私を苛めて……殿下と私の仲を邪魔するのは止めてよ!」


「はあっ?」


真剣に聞き返したわ……今、幻聴が聞こえたかな?


私はリンジー=ボルドレ子爵令嬢を、お正月に買い込んでいた3キロ入りのミカン箱の奥でカビの生えたミカンを発見した時のような顔をして見ていた。


「アリィに何か御用ですか?」


「またですか?アリィは知らないと言っているじゃない!」


ティシーとココナ、友達の二人が私の前に立ってリンジー達を睨みつけてくれた。


あ、因みにこの学園は魔力を所持していて、筆記と実技試験に合格すれば貴族以外の一般も入学を許可されているのだ。更に私の友達達は、一般枠で入学して来た子達が多い。


それにしても多分、このリンジー=ボルドレ子爵令嬢って私と同じ異世界人みたいなんだけどなぁ。口調とか話し言葉は完全に貴族令嬢の言葉使いじゃないし、それを確かめたいんだけど、いつも取り巻きがいるし睨まれるしで、聞けずじまいだった。まあそれはこの際どうでもいいわ。


「黙っていないで何とか言えよ!」


横から美形の子息が叫んできた。よく見りゃフエルケ子爵子息じゃね?私、公爵令嬢だけどさ~一応あんたより家格が上なんだけどさ〜


「このお話はキリヒアズ=クーリ=バラグライデ第二王子殿下を交えて、お話しをした方が宜しいのではなくて?」


私がそう言うと、リンジー=ボルドレ子爵令嬢は怖~い顔でニヤリと笑った。


「そう、そうだよねっ!殿下にはっきり言ってもらおうよ!あんたのような性悪女なんて殿下は許さないだろうしさ!」


と言いながら、なんと第二王子殿下を呼びつけたみたいなんだよ。


殿下ぁ来いやぁ!リンジー=ボルドレ子爵令嬢……恐ろしい子!


私の方はティシーとココナが付いて来てくれていた。


そうして呼ばれてのこのこやって来た、キリヒアズ=クーリ=バラグライデ殿下はオドオドしていた。そりゃオドオドするよね、昨日も私、夜会の帰りに言いましたよね?


リンジー=ボルドレ子爵令嬢は殿下~♡とか言いながら殿下の腕に纏わりついた。殿下は何故か顔を引きつらせてリンジーの手を振り解いた。


なんかアホらしいわ、大きな溜め息が漏れる。


「キリヒアズ殿下、再三申し上げておりますが、いつになりますの?」


「あ……え、その……」


私はイラッとしてキリヒアズ殿下を睨みつけた。


「私と婚約破棄してくれるのはいつになりますの?もう半年も待たされているのですが?」


キリヒアズ殿下は小さく悲鳴を上げた。


「えっ?」


リンジー=ボルドレ子爵令嬢は以下、フエルケ子爵子息や男爵子息、伯爵子息は一様にポカンとした顔で私を見ていた。


私はリンジー=ボルドレ子爵令嬢を一瞥すると


「殿下が婚約破棄に応じて下さらないから~私、毎度毎度そこの令嬢に難癖をつけられて困っておりますの。は・や・く婚約破棄をして下さい」


キリヒアズ殿下は秀麗な顔を歪ませた。またお腹痛いの?


「それは……まだ無理だ、色々と反対されてま……」


「その反対を上手くかわしてこそ、殿下の手腕が問われるのでしょう?いつまでこんなことに付き合わなくてはいけませんの?」


「殿下ぁ〜そうなのね!早く破棄して私を婚約者にしてよ!」


リンジーってば自分から言い出しちゃってるよ。


「殿下、リンジー=ボルトレー様を婚約されるのなら、早くしませんといけませんわよ?妃教育で一日中、勉学をしても3年はかかりますわよ。それに暗がりで男友達方と、長時間二人きりで会うのも止めて頂かないと、要らぬ疑いを持たれてしまわれますわよ?」


「!」 

 

リンジーと子息方は飛び上がって仰天しているようだ。


そりゃそうだろう、何故お前が知っている?!と思っているだろうけど、掴める弱みは全部掴むのが正しき貴族令嬢の世渡りの術だ。


「リンジー、やはりそうなのか……」


やはり……と聞くということは、キリヒアズ殿下はご存じだったのか。


「リンジー=ボルドレ子爵令嬢、学園内で淫らな行為に耽っていると多数の生徒から苦情が来ていると聞いた。お前達もその仲間か?」


「そっ…んな!!殿下は私と…」


キリヒアズ殿下は怖い顔でリンジーを睨みつけていた。


「入学当時、確かに私はボルドレ嬢に『貴賤関係なく皆と親しくしているのが望ましい』と話したことはあった。ボルドレ嬢は天真爛漫で皆は絆された。だが、それと同時に誰にでも親しくするのはまた別だ。男友達を侍らせて遊ぶのもまた別だ。私はボルドレ嬢に再三注意をしたね。そういう遊びを貴族の令嬢がするのは、嗜みの一環としては構わない、だが私のあずかり知らないところで、リンジー=ボルドレ子爵令嬢と私がを共にしているという虚偽を話すことは止めろと言ったはずだ」


親しくするのは望ましい、うんうんそうだよね。しかし虚偽かぁ。


私はキリヒアズ殿下とリンジーの顔を交互に見詰めてしまった。


なんだ……そうか、リンジーはキリヒアズ殿下の好きな人ではないのか。そういえばキリヒアズ殿下から、好きな人の具体的な人物名を聞いたことがなかったわ。


私はリンジーが一方的に言う言葉を鵜呑みにしていた。


「私の再三の注意にもボルドレ嬢は聞く耳を持たず、子息達に声をかけ……誤解を招くことを吹聴するなとの警告にも従わなかった。ここは学園内故に王族の権限を振りかざすつもりはない。学園の規則に沿わないかどうかの判断は、教師や学園の経営陣が判断することだ。だが肝に銘じておけ……今後一切、私の傍に近付くことは認めない」


結構……はっきり言うのね。


リンジーは取り乱し泣き叫んで、子息達に連れて行かれた。


キリヒアズ殿下は顔を強張らせたまま私に向き直って、すぐに下を向き……そのまま声をかけてきた。


「ティシー=カッカス嬢、ココナ=ジーブ嬢……少し席を外して貰えないだろうか?」


「アリィ……」


ココナが心配気に私の顔を覗き込んできたので、声に出さずに大丈夫と答えて、キリヒアズ殿下と二人きりにしてもらった。


「アリシェール=ロザイモエア嬢、私と婚約するつもりの無い貴女を巻き込んでしまい、申し訳なかった。私も今後一切、貴女には近付かないことを誓おう」


「……え?」


婚約するつもりのない?あ、そうか!キリヒアズ殿下のあの言葉、意に沿わない婚約は~その言葉は殿下の意思じゃなくて私の意思のつもりだったのか。


キリヒアズ殿下は、またお腹が痛いっみたいな顔をして私を見ていた。


「私が迂闊だった……夜会で見かけたアリシェール嬢があまりにも美しくて、つい周りに貴女の名前を聞いて、貴女の容姿を褒めてしまった。そんなことをすれば、周りがどうするかなんて分かっているつもりで、全然分かっていなかった」


「あ……殿下、王族からの私への婚姻の打診ですか?」


キリヒアズ殿下は頷いた。なるほど……それで急遽キリヒアズ殿下と婚約と言う形になった訳だ。しかし、殿下ってば私の事を褒めてくれてたの?これはちょっと嬉しいぞ。


「おまけに私はそれでも浅ましく考えていた。アリシェール嬢も実際、私と顔合わせをして婚姻を申し込めば受けてくれるだろう、と。私はそれなりに女性からモテていたし、少なからず自分に自信があった」


あ~まあそれは自信はあるだろうね。だってキリヒアズ殿下って、紺色の髪にラベンダー色の瞳の綺麗な顔をされているもの、私的にもう少し欲を言えば、筋肉が欲しいな~て感じの細身の美少年だ。


「それが会った早々にやはり早計過ぎたと破談の意向の話をすると、貴女はあっさりと了承してしまった。私の愚かな自尊心は砕かれてしまった。私は貴女から欠片も興味を抱かれていなかったことに、やっと気が付いたのだ」


「あ~そ、それは……」


キリヒアズ殿下は言いかけた私に手を出して制した。


「分かっている……どれほど茶会や夜会で貴女と共に過ごしても、貴女からは婚約破棄の話ししか、出てこない。これほどまでに嫌われているのなら……もう無理は言わない、済まなかった」


き……嫌いって、殿下を嫌ってはいないけど?そもそも嫌えるほど殿下のことを知らないというか……え?どうしよう、どうしよう?!


キリヒアズ殿下は、泣くのを堪えているみたいな顔をしている。


「で……殿下は、私の事を良いと思ったから、婚約を申し入れして下さったのですか?」


そうだ、これだけは聞いておこう。


殿下は堪え切れずにラベンダー色の瞳からポロリと一粒、涙を零した。ひぇぇ!男の子のくせに~き、綺麗じゃないのよ!


「そ……そうだっ。夜会の会場を優雅に歩くアリシェール嬢はどんな令嬢よりも美しかった。目が離せなかった……」


そうだったのか!だったら最初に言ってくれてばよかったのに……


「知らなかったです。殿下が、そんなふうに思っていたなんて……」


「え?」


私は勇気を出してキリヒアズ殿下に一歩近付いた。


「私は殿下のことを何も知りません。第二王子殿下で、私と同じ学園に通われていて同学年、これくらいしか知りませんっですから、今からでも宜しければ、私に殿下のことを教えて頂きたいのです」


キリヒアズ殿下は大きく目を見開くと、何かを言いかけては止め、また口を開きかけては止め……を数回繰り返してから


「構わないのか……」


とボソッと小さく呟いた。


「え?」


「私があなたの婚約者のままでも、構わないのかと聞いたんだ!」


逆ギレ!しかも顔が真っ赤だ……ツンデレか?


「はい、殿下さえ宜しければ」


私がそう答えると、顔を赤らめたままモジモジしていたキリヒアズ殿下は、ゆっくりゆっくりと私に近付いて来た。


「アリシェール嬢の……趣味はなんだ?」


「ブッ……失礼、読書です」


思わず、お見合いの定番台詞?に吹き出してしまったけれど、読書と聞いてキリヒアズ殿下の顔が輝いた。キリヒアズ殿下はどんな本が好きなのだとか、一緒に図書室に行こうとか、とても興奮しているようだ。


驚いた……殿下ってこんなに喋る方なのか。会っても婚約破棄の話ぐらいしかしたことないし、常にお腹が痛いっみたいな苦虫を噛み潰したような顔?とでも言うのか、そんな苦々しい表情しか見たこと無かったからね。


そしてキリヒアズ殿下が私によく見せていた、お腹が痛いっの顔は実は私を前にして、緊張していただけだという事も分かり、私とキリヒアズ殿下は新たな関係を一歩踏み出すことにしたのだった。


そんな決意も新たにした次の日。


朝から紙の束をキリヒアズ殿下から渡された。よくよくその紙束を見ると『キリヒアズ殿下に100の質問!』みたいな私の好きな花は〇〇とか、私の好きな果物は〇〇とか、どこからどう見ても報告書かレポートみたいな内容のものだった。


「これで私のことをより良く理解してもらえるかな?」


……ちょっと方向性がズレている気がする。でもなんか憎めないズレだけど。しかしこれ、読むだけで時間がかかるな。


「落ち着いて読みたいので、女子寮に持ち帰って就寝前にじっくり読ませて頂きますわ」


「そ、そうか!そうだなっ!」


私の言葉に笑った、殿下が笑った!殿下が初めて破顔して見せた。やれば出来るじゃない!……ちょっと違うけど。


その日はキリヒアズ殿下は暇があれば私にくっ付いてきた。ティシーもココナもキリヒアズ殿下の豹変ぶりに驚いていたが


「何だか、お互いに誤解していたみたいで……歩み寄って行こうって感じになったの」


そう説明したら、ティシーもココナも生温かい目を向けてくれた。


「まあ頑張って~」


ふたりにニヤニヤと笑われながら見送られて……お昼のランチをキリヒアズ殿下と共にすることになった。


初めてだよ?!緊張する……と思ったけど、お互いに今日のランチの話とか、嫌いな食べ物、こういう料理が好きならアレは?とか自然に話が広がり、思っていた以上に楽しく、そしてキリヒアズ殿下の新しい一面を知ることが出来たランチの時間になった。


その夜……学園の女子寮に帰り、例の報告書……違う、キリヒアズ殿下からのお手紙を見てみた。


「ホントに色気も可愛さの欠片もないじゃない……フフフ」


簡潔に箇条書きされて自分の好きなもの、嫌いなものを報告書のようにつらつらと書いている。真面目だな……これ普通の令嬢に渡したら、こんな情緒も無い無粋な男は嫌いです!って言われそうな感じじゃないの?


「真面目か!よ~し~」


私も返事を書いてあげよう。但し、私は報告書にはしないよ?可愛い便箋を使って「私の好きな食べ物は〇〇です。殿下の好きな〇〇と合わせると美味しいですよね」と、キリヒアズ殿下の報告書?を絡めた一言を付け加える感じの文章にしてみた。


書いているとキリヒアズ殿下の真っ赤な顔と嬉しそうな顔を思い出して、自然と笑みが浮かぶ。


翌日、かなり分厚くなってしまった可愛い花柄の便箋の束を、キリヒアズ殿下に渡した。案の定、キリヒアズ殿下は顔を真っ赤にして喜んでくれた。


なんだか可愛いなぁ!


それから私とキリヒアズ殿下は、お互いを理解する為と称して一緒に図書館に行ったり、お忍びで城下町の散策に出たり、時々観劇にも出かけたりした。


それから私が細マッチョの体型の男子が好きだというのが分かると、キリヒアズ殿下は騎士団に仮入団して剣技の鍛錬を始めた。


「どうだ?アリィ!体が締まってきただろう!格好いいだろう?」


細マッチョ自慢をしたいのは分かるんだけど、制服を脱いで筋肉を見せるな!まだ昼だし!ここ外だよっ学園の中庭だからっ!


「殿下、脱ぐのはせめて人目のない所でお願いします」


リンジーのことは言えないじゃないか。中庭とはいえ、皆が半裸を見て悲鳴や歓声?をあげているのが気になる。やましくはないけど、健康的エロだけど如何わしい……気がする。


「それよりも昼食が冷めてしまいますわ。お召しあがりになって下さい」


「あ……ああっそうだな!折角アリィが作ってきてくれたのだからな」


イソイソと殿下は、はだけさせていたシャツを羽織り直した。私は手に持っていたジャケットを殿下の肩にかけてあげる。誰かの手を借りて衣服を着るのに慣れている人種の方々って、自然に着替えを手伝え~みたいなオーラを出すわよね?まあ、手伝いますけど?


キリヒアズ殿下は嬉しそうに、私が作ってきたお弁当を食べている。特技を聞かれて、料理と答えたから必然的に食べてみたいと言われたから作ってきたんだけど……


殿下はいつの間にやら私をアリィと愛称で呼び、学園ではランチを共にし、そして私とふたりきりの時間を作っては、色々な話をして下さるようになった。


離れていた距離が少しづつ近付いていき……


それから一年経った今ではお互いの愛称で呼び合い、そしてとうとう膝が触れ合う距離になり、今では移動中は手は恋人繋ぎ、椅子に座ればキルフィの隣に引き寄せられて腰や肩を抱かれる。今や完全に普通の婚約者、恋人同士みたいになっていた。


今日も私が作って来たメープルクッキーを美味しそうに食べているキルフィ。最近は身長もグングン伸びて私の理想とする細マッチョ美丈夫になりつつある。


「冬の休みは別荘に行く?」


「あ~そうね、その前に豊穣祭はどうする?時間取れそう?」


キルフィはクッキーを食べ終わると、私の頬に口付けを落とした。もはやこういう触れ合いも常態化している。


「勿論アリィと出かける為なら頑張るよ」


キルフィの笑顔に今度は私からキルフィの唇に口付けをした。


最初に聞いていたのとは違う関係になったけれど、私達は幸せです。

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