第33話~髪~
大和が話終えると、室内は静寂で包まれた。
最初の受信で、その過去の場面を色々受け取った者もいれば、漠然と他界しているだけを受け取った者もいた。そのメンバー内での情報量の差は、大和の語りによって均等に補われたのだった。
「最後彼女から渡されたケースには、何が入っていたんですか?」
李留が真剣な表情で尋ねた。
「ケースの中身は……」
大和はおもむろにポケットに手を突っ込むと、手のひらぐらいの大きさの四角いケースを取り出した。
そして、蓋をゆっくりと開いてみせた。
そこには金色の髪の毛が一束、おさめられていた。
「髪………私と同じ色なのね……」
沙羅は自分と同じ色のその髪を見て、複雑な想いに飲み込まれていた。
考えないようにしていただけで、やはり機関は報酬と引き換えに、危険が伴う所なのだ。
最前線にいかなければいけない事もあるし、還らない人になる事もあるのだ。
「そうだね、沙羅の髪は彼女の髪とよく似ている」
大和は、とても大事そうにケースの蓋を閉じた。
「なんだか湿っぽくしちゃったけど、まぁ俺の歓迎会だし許してよ」
その言葉を聞いた遥は、わざと明るい口調で立ち上がると歓迎会の終わりを皆に告げ、その場はお開きとなった。
「まだ全部味わってない!」とベイだけが駄々をこねて、さらに場を和ませ、食事を終えたそれぞれから自室へと戻っていった。
大和が自室へ戻っていると、後ろから暖が追いかけてきた。そして、今一度謝り始めた。
「やっぱりデリカシーがなかった。今日は本当にすまなかった、大和………」
「気にするなよ。実は自分から話すつもりだったんだ。いいきっかけをもらって逆に助かったよ。」
「きっかけ?」
「母星から離れてこの月に来たのは、みんなは命令だったと思うけど、俺は志願したんだ。」
「【サイエンス】がそんな仕組みだったの?」
「いや、そうじゃない。志願は俺ぐらいだと思うよ。まさかそれから【2%】に変わるは思わなかったけど」
「何故、志願を?危険がそこにある事を誰よりもしっていたのに」
「母星だと出来ない事がここでは出来る。母星には倫理観があるけど、ここにはないからね」
「それって……?」
すると、大和はまたポケットから彼女の髪の毛が入っているケースを取り出した。
「暖、髪の毛さえあれば、遺伝子の情報があれば、別れは出会いに変わるんだよ」
大和はそう言ってケースをポケットにしまうと、背中を見せて、軽く左手をあげ挨拶の代わりにすると、自室へと入っていった。
「別れが出会いに変わる………?」
暖は言葉の意味を汲みかねて、考えこんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます