第27話~交錯~


「真琴??」


 突然背後から大和に声をかけられて、真琴は任務作業の手が止まっている事に気がついた。


 鞍馬との通信を終えて持ち場に戻ったものの、どうやらプロポーズの言葉で頭がいっぱいで、自分の世界に入り込んでしまっていたらしい。


「ごめんなさい、ぼーっとしちゃってたみたい」


 真琴は慌てて作業に戻ると、大和はそれ以上は何も言わずに隣の席についた。


 そろそろ探査機からステーションへの、ベイのテレポーテーション実験も始まるはずだった。

 大和はその下準備に追われながら、真琴に話しかけてきた。


「通信は?恋人とはちゃんと話せた?」


「えぇ、まぁね……」


「じゃあ次はまた沙羅と一緒に行っておいでよ、今度はお父さんと通信するといい」


「有り難う。じゃあ今から行ってきた方がいい?」


「いや、出来たらもう少しあとがいいかな。沙羅を少し休ませてあげたいんだ」


 真琴はその言葉を聞いて、すかさず大和の右手を見た。もうそこには傷痕は影も形も残ってはいなかった。


「そういう事……。」


 真琴は大和に聞こえるか聞こえないかぐらいの、小さな声でそう呟くと、もうそれ以上尋ねる事はしなかった。


「そろそろ、ベイがステーションに飛んでくるよ真琴」


 突然声をかけられた真琴は、作業の手を止めて後ろを振り返り、ルーム内を見渡した。


 すると、空間に揺らぎの様な紋様が浮かんだかと思うと、宇宙服姿のベイが突然現れた。


「ただいま、俺って最高」


「おかえりなさいベイ!」


 真琴が駆け寄ると、ベイは嬉しそうに満足そうな笑顔を向けた。

 そして、完全無視を続ける大和に気づくと、不満を顕にした。


「おい大和!ちょっとは俺の事を誉めろよな!このテレポートの成功で、かなりこれからの作業が楽になるんだからさ!」


「まだ余力あるなんて最高だよベイ」


「あぁまだ全然あるね。わかればいいんだよわかれば」


「じゃあもう一度、今度は探査機に戻ってきてよ。往復出来るかの確認がしたい」


「はぁ???」


「出来ないの?最高さん」


 不敵な笑みを浮かべながら煽りだした大和に、ベイは怒りながらもテレポート準備に入った。


「大和覚えてろよ!あとで絶対レストランメニューに俺の好物追加してもらうからな!!」


「牛丼ならもう追加してる」


「え!本当に!?大和さすがわかってるな!じゃあ行ってくる」


 慌ただしい言葉を残して、気づけばベイはテレポートしていて、もうそこにはいなかった。


「ベイを探査機内部に確認。さすがだな、なかなかいないよあんな能力者」


 大和は可笑しそうに笑いながら、感嘆の言葉を呟いた。


「本人に直接言ってあげたらいいのに……」


 真琴は、想いがわかる癖に、本人には不器用な言葉しか発しない大和が心配になった。


「真琴の方こそ、プロポーズの返事はすぐしてあげたらいいのに?」


「大和!!信じられない!あなたって、あなたって本当に嫌いよ!」


 顔を真っ赤にして恥ずかしそうに怒りだした真琴に、大和は笑いながら立ち上がると、「先に暖に母星との通信する様に伝えてくる」と、ルームを出ていってしまった。


「もう………」


 真琴は、ゆっくりと眼上の大きな窓を見上げた。

 窓の外には宇宙の星たちが沢山瞬いていた。




   




 ◇


 大和は暖の部屋の前に立つと、呼び出しのスイッチを押した。

 眠っていたらしい暖が、半分寝ぼけた様子で扉を開くと現れた。


「あぁ休んでたのにごめんよ暖。母星との通信が出来る様になったんだ。家族との通信に行ってくるといい」


「わざわざ呼びにきてくれたの?有り難う。じゃあ行かせてもらうよ。やり方は?」


「あぁついでだし、今から俺も行って説明しようか。まぁ簡単だけどね」


「じゃあ頼むよ」


 暖はそのまま大和と通信室に向かう事にした。

 廊下をふたりで並びながら歩いていると、暖がおもむろに大和に質問をした。


「沙羅とのチェックはどうだったの?温度設定」


「あぁさっき終わったよ」


「そっか……」


 それ以上の会話が繰り広げられる事もなく

 沈黙の中、ふたりは廊下を歩き進めた。


 すると大和がいきなりその沈黙を破った。


「あのさぁ素朴な疑問なんだけど、親同士の口約束にしてもなんで沙羅なの?双子なんだから真琴と婚約って事にはならなかったわけ?」


「大和こそわからないの?読むのは得意なはずだけど」


 穏やかに暖は大和に微笑んだ。


「全部がわかるわけじゃないしね、あと暖はガードが固くて正直よくわからない。そこが暖の凄い所だ」


 暖は少しその言葉に驚きながら、少し考え込むと

 話し始めた。


「正直俺もわからない。小さい頃から、うちの親もおじさんも沙羅と将来結婚させたいと決めていた所があって、何故かそれは真琴じゃなかった。」


「ふーん、暖は不服じゃなかったの?そんな口約束」


「まぁ親同士の戯れ言だからね、それにきっと、沙羅も本気にはしていないから。」


「そんなのは聞いてみないとわからないと俺は思うけど。。まぁいいや、さぁ着いたよ。」


 気づくと通信室に着いていたふたりは、早速中へ入ると大和が使い方の説明をはじめた。


「じゃあ時間制限があるけど、久しぶりの家族との時間を楽しんでよ」


 大和はそう言うと出口へ向かった。


「大和!」


 突然、暖に呼び止められた大和が振り返った。


「俺はすぐ済むし、少し待っていてよ。大和こそ通信するといい。」


「いや俺はいい。俺には家族がいないんだ」


「あ……ごめん……そんなつもりじゃなかったんだけど……」


「わかってるよ。それに悲しいかな真琴みたいに恋人もいない。だから俺の持ち時間も使ってくれたらいいよゆっくり話しなよ」


「本当にごめん……」


「おい、哀れむのはやめてくれよな!恋人はいなくても、好きな人はちゃんといる。そんなに心ま

 で孤独なわけじゃないんだ。じゃあ楽しんでよ」


 大和は笑顔でそう言うと、通信室をあとにした。


「好きな人………?」


 暖は暫く、大和が立ち去った後を見つめていたけれど、早速母星との通信のスイッチを押した。





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