第19話~任務開始~


ステーションの生活にも慣れ始めた【2%】の面々は、本格的に、太陽ガスの回収任務をスタートする事にした。


遥から集合する様に#誘__いざな__#われたそのルームの中には、宇宙空間をまるで絵画の様に切り取った大きな窓があり、メンバー其々が、これから始まる色々に緊張していた。


すると、張りつめた空気の中、遥が話し始めた。


「探査機に乗って、太陽のガス回収に向かってもらうメンバーを伝えるわ。ワッカとベイ、暖、李留の4人よ。じゃあ準備をはじめて」


遥の指示のあと、大和が続いた。


「遥と俺はここから探査機に指示を送る。回収自体はすぐ終わるし安全だから安心して。あと、各々の能力で気づいた事があったら報告して欲しい、以上。」


淡々とそう告げると、大和は席に座りパネルを開くと、色々入力作業を始めた。


「あと、真琴は俺の隣の席に座って?」


「わ、私?」


突然、名前を大和から呼ばれた真琴は、一瞬身体を強ばらせた後、恐る恐る大和の隣の席に座った。


隣の席に座った事を確認すると、大和は真琴の目の前のパネルを作動させた。


「出来る?」


大和はひと言そう言った。


真琴は顔を強ばらせながら、パネルに視線を移した。

そこには見た事のない膨大な文字の羅列が勢いよく流れていた。こんなのをどうしろと言うのだろう。大和は何をさせようと言うのだろう。


真琴が完全にフリーズしていると、大和は真琴の左手に自分の右手をそっと乗せた。

その瞬間、真琴は両目を見開いたかと思うと、両手で入力作業を始めた。


「それで大丈夫。宜しくね、俺の第2の両手さん」


大和は右手を離すと、自分の入力作業に戻った。


そんな真琴の姿を見ていた沙羅は驚きを隠せずにいた。

真琴はいつの間に、そんな事が出来る様になったのだろう。私の知る真琴じゃない真琴がそこにはいた。


すると、出発の身支度を終えた暖が沙羅に近づいてきた。


「じゃあ行ってくるね、沙羅。しかし真琴凄いね、こんな一面があったのは幼馴染みの俺でも知らなかったな」


「本当に……」


沙羅は戸惑いながらそう答えつつも、自分も頑張らないといけないなと、そう改めて思っていた。

ところで、皆其々に任務の発表があったのに、自分は何をしたらいいのだろう。自分だけは任務を与えられていない。


「沙羅は待機だよ」


こちらには背を向けたまま、大和がそう言ってきた。


「待機?」


そう答えながら、沙羅はまた心を読まれた事に気づいた。

この人が苦手だ。心から苦手だ。

今もこの想いを読んでいると思っただけで気分が悪い。私だけ待機だなんて、きっとこの気持ちが筒抜けだから意地悪されてるのだ、そうに決まってる。


沙羅は、自分の思考を止める事が出来ない歯がゆさと、それを読まれる恐怖とでどんどん混乱していった。


すると大和は大きなため息をつくと、振り向いて沙羅の方を見た。


「沙羅はヒーラーだろ?自覚ちゃんとあるの?皆の任務が終わってからがあんたの仕事だろ。だから今は寛いでてくれたらいいんだ。いちいち言わせるなよ」


大和は、体勢を戻すとまた入力作業に戻った。


「私、貴方が嫌いよ……」


沙羅が涙を浮かべながら、大和の背中を睨み付けた。


「いちいち言わなくても、知ってるよ」


沙羅はそれを聞くと、無言で部屋から小走りに立ち去ってしまった。



「大和、あなた言い過ぎよ。チームワークをもう少し考えて頂戴」


遥が大和をたしなめるも、大和は我関せずの態度で無視を決め込み、作業を続けた。

遥は半ば呆れ顔で大和を見ると、準備が整った探査機メンバーの傍へと向かった。


「あなた達は喧嘩しないでね。じゃあ行きましょうか」


遥がそう言いながら、探査機のある場所へ誘導をはじめた。


「僕達は仲良しですよね?ね?みなさん?」


李留が明るく問いかけると、皆が思わず顔を見合せ吹き出した。


「僕達は仲良し探査機チームですから、安心して下さい遥」


ワッカがおどけながらそう言うと、遥も和やかな笑顔をみせた。


「ところで遥さん、月には妖精が沢山いますけど遥さんもみえていますか?」


李留は、和やかな空気に便乗して、聞きたかった事を遥に尋ねた。


「えぇそうね。どうやら妖精という羽のあるあの小さな生命体はここが母星なのかもしれない」


「え?ここ、そんなにいるの?」


いきなり始まった突飛な会話に、暖が興味津々でいると遥が、暖の肩を指差してきた。


「暖の肩の上に座ってる、妖精さんがそう言ってるのよ」


それを聞いた李留が、暖の肩の上の存在を確認しはじめた。


「うわぁ本当だ!暖さんの肩にいる!可愛いなぁ。ステーションにもいたんですね、初めまして李留です!また後でお話しましょう妖精さん!」


「あはは、妖精さん少し困ってるみたいよ。」


暖を囲みながら、遥と李留が妖精談義で盛り上がっていると、暖が口を開いた。


「えっと、俺が一番困ってるんだけどな……」



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