第17話~トレース~


「何するつもりなの?」


真琴は二人きりになった部屋で、警戒心丸出しでただ大和を睨み付けていた。


「参ったなぁ。俺ってそんなに怖い?」


「当たり前でしょ!」


真琴は攻撃的な口調で、大和を警戒した。


「威勢のいいお嬢さんだなぁ。まぁいいや、じゃあ勝手に進めるよ?」


大和はそう言うと、いきなり真琴に近づいたかと思うと両手で抱きしめた。


「なっ、離して!何するのよ!!」


真琴が抵抗すると、いきなり脳内に映像が流れはじめた。それは、小さい頃の沙羅と真琴の姿だった。


「これは、何………?」


真琴は意味がわからないその現象に戸惑いながら、完全に動きが止まってしまった。


大和は、尚、真琴を強く抱き締め続けた。

そして一言こう言った。


「真琴は沙羅の髪の毛の色になりたかったの?」


真琴の顔が、一瞬で強ばった。


「あなた、まさか私の心が読めるのね……?」


真琴はもはや、無抵抗だった。

脳内には小さい頃に姉の髪の毛の色を羨ましく眺めている自分の姿が流れていた。


そう、私は自分のこの髪の毛の色が嫌いだった。

同じ双子なのに。姉の髪の毛の色よりくすんで見える

この色が嫌いだった。それがずっとコンプレックスだった。


そのコンプレックスを、この映像を許可もなく

引きずり出して、この人は今共有してるのだ。

私の傷口に、初対面で土足で入り込んできたのだ。


許せない…………

でも、突き放せない………

身体が動かない……


「トラウマってさ、根深いんだよね。ほんの些細なきっかけだったりするんだけど、それがある日爆発する事がある。小さい頃から、姉には劣ると生きてきた。そしてこんな月にまで連れてこられてしまったと、憎む心が芽生えて支配し始めた。

そりゃ、心がもたなくなるのが普通だと、俺は思うけどね。自分で痛め付けてるんだからさ。」


真琴は、戸惑いながら大和の言葉に耳を傾けた。



私は、憎んでなんかない……

憎んでなんか…………



「まぁそこは自分でなんとかしてよ。とりあえずこっちも働いてもらわないと困るんだ。どんどん進める、見える?」


すると、一枚のくしゃくしゃに丸められた、真っ白い紙の映像が脳内に現れた。


「紙?」


真琴は意味がわからないまま、脳内のその映像に見入った。


「じゃあ。それをひろげて、元の一枚の紙の

状態に戻してみて?」


「そんなの、どうやってするの?わからない。」


「わかってるよ。」


すると、紙の形が変わっていくと、最初の一枚の紙の形に再生されていった。


「ほら出来るじゃん。もっと自信持てよ。」


「これが何だっていうの?私はコンプレックスの塊だけど、心は壊れたりしないし、もう、いい加減離してよ!」


真琴が大和を再度振り払おうとした。

でも、大和は更に真琴を強く抱きしめて離さなかった。


「ここがポイントなんだから動くなって!いいから、紙を見るんだ!何が見える!」


「見える?何言ってるのよ……紙には何も……」


真琴は、もう一度形が戻ったその紙の映像を

食い入る様にみた。何もないはずよ、何も………


すると、その紙の真ん中に何かが見えてきた。


「大和?」


その紙には、今まさに自分を抱きしめ続けている大和の等身大の姿があった。


「見えたね?じゃあ今から俺をなぞって?書き移してみて?トレースするんだ。」


「なぞる?どうやって?」


「いいからやれって。」


真琴は、大和の輪郭をその紙にペンでなぞるイメージをした。うまくできたかは正直わからなかったが、出来た様な感じかした。


「やるじゃん!上出来だよ!さすが【2%】の大型新人だな!」


大和は満面の笑顔で、抱きしめた真琴を今度は抱き上げた。


「うわ!何!?」


「真琴の能力はトレース。即ち人の能力を複写する事が出来る。勿論、精度にばらつきはあるだろうし、容量もあるから、新たな複写をすれば消えたり万能ではないけどそんな感じ。気づいてなかった?」


「初めて聞いたわ……そんな事誰も教えてくれなかったし……」


「今、俺が教えたからいいじゃん。つまり今、俺の能力の一部が受け継がれたわけ。だから明日からこき使うからね真琴。俺は手が4本になって嬉しいよ」


「何それ!」


そう言いながら、真琴は自分が笑っている事に気づいた。


思えばいつも双子で比較されて生きてきて、自分の個別の【ちから】を評価してもらった事など、一度も無かった。

自分にも、自分にしか出来ない事があったなんて、それは真琴のコンプレックスを和らげた。

勿論、払拭まではいかないけれど、明らかに感じ方は変わった。この大和という人は一体何者なのだろう。。一瞬でこんな風に出来るなんて。


すると、扉が開く音がした。


大和が真琴を抱き上げたままの状態の2人が振り向くと、そこにはシャトル到着の後処理を終えた、リーダーの遥が呆然と立ち尽くしていた。


そして、こう言った。


「私、お、お邪魔だったかしら……」


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