第16話~大和~
「間もなく着陸するわ。皆、起きてるかしら?」
遥の声がシャトル内に響きわたると、真琴はずっと座席に座ってから固く閉じ続けていた両目をゆっくりと開いていった。
目の前のモニターの画面には【2%】メンバー7名の顔が分割画面で表示されていた。
「真琴さん、大丈夫ですか?」
すると李留が、個別音声で声をかけてきた。
「李留君有り難う。やだ、ずっと私の姿ってまさか映ってたのかな……」
「遥さんの声かけまでは、外の景色が映し出されてましたし大丈夫ですよ。」
「そう……でも心配させちゃった。ごめんね李留君。もう大丈夫だから。」
「はい、じゃあ切りますね。」
李留との個別音声回線を切ったあと、モニターを真琴が今一度見ると、自分以外皆落ち着いていた様子で、ベイにいたっては、今も尚眠っていた。
私はやはりダメだな。。
真琴は更に色々な感情に襲われていった。
やはり自分にこの任務は重すぎたのかもしれない。これから足を引っ張る事ばかりしてしまうかもしれない。
真琴は不安で押し潰されそうになっていった。
「着陸5秒前!」
遥のアナウンスが響き渡ると、そんな真琴の気持ちはよそに、シャトルは月への着陸体制に入っていった。
◇
「無事着陸を確認。お疲れ様【2%】の皆さん。荷物は各自の部屋に搬入されるから、とりあえずシャトルを降りたら、誘導のレーンに乗ってステーション内部へ先に行っていてくれるかしら?あと、ベイはいい加減起きて
頂戴」
遥のアナウンスと同時に、安全装置がはずされると身体の解放感と、到着の安心感で、皆それぞれに安堵の表情を浮かべた。
「あぁ~よく寝た~」
ワッカに起こされ、やっと目覚めたベイが大きな伸びをしながらそう言う姿に、皆から笑い声があがると、一気に空気を和ませた。
「ところで遥、ステーションの現在の常駐は誰なんですか?」
ワッカが立ち上がりながら、遥に尋ねた。
「今は【サイエンス】の大和が常駐しているわ。降りたら彼の指示に従って頂戴」
「え?大和がいるの?俺、聞いてないけど!」
ベイが不満そうに遥に噛みついた。
その姿を見たワッカが、皆の顔を見渡してから、補足の説明をはじめた。
「遥とベイと大和が【サイエンス】の元同僚同士なんです。大和は機関の中でもトップの技術者なんですが、少し口が悪いと言うか、性格がやや難ありで、でもいい奴ですから大丈夫ですって、これじゃフォローになってないか」
ワッカが頭をかきながら、困った表情を浮かべた。
「とりあえず任務が優先だよ。とりあえずステーションに向かおうか。」
暖が微笑みながら、まずは自らがシャトルから降り立った。それに続いて皆も降り立った。
降りるとそこは真っ白のルームで、細長い通路が先の方まで続いていた。ここはいわゆるステーションとシャトルの連結部分で、居住空間は通路の先にあるらしい。
ひとしきり周囲を見渡していた【2%】メンバーに、いきなりどこからか声が降り注いだ。
「ようこそ、ステーションへ。とりあえず今から足元のレーンを動かすよ。」
その声を合図に、皆が立っていた床が急に動き出すと通路を前進しはじめた。
沙羅と真琴は急な動きによろけると、お互いにしがみつき体勢を整えた。
「大和!お前、急に動かしすぎなんだよ!」
ベイが怒りながら、双子姉妹を心配そうに気遣った。
「私達が油断しただけだから、有り難うベイ」
沙羅がそう言うと、笑ってみせた。
「今の声が大和って人なの?」
真琴が沙羅にしがみつきながら、不安そうにベイに尋ねた。
「そう。いけすかない奴だろ?」
ベイは不満顔でそう答えた。過去の【サイエンス】時代に余程何かあったのか、かなりな犬猿の仲らしい。
「まぁまぁ、仲良く行きましょう。ほら?もうそろそろ居住区に着きそうですよ。」
ワッカが指差した方向を見ると、大きな扉がまさに開かれる所だった。
◇
大きな扉に吸い込まれる様に入っていった6名は、ゆっくりと静止したレーンから降り立った。
そこは何もないただ真っ白なルームで、皆今から何が起きるのかわからないまま、次の指示を待った。
「まず等間隔に拡がってくれる?今からここで体調チェックと、クリーニングをするから」
また、大和の声だけが聞こえてきたかと思うと、ミストが天井部分から勢いよく降り注ぎはじめた。
「大和なんだよこれ!消毒液のシャワーとか、人をバイ菌扱いするんじゃねーよ!!」
ベイが鬱陶しそうに、霧を両手で払う仕草をしながら絶叫した。
「ステーションに下手な感染症を持ち込まれたら困るからね。あと少しで終わるさ。数回そこで深呼吸もして欲しい。ベイ、反抗したらお前だけ時間延長するからな」
ベイはまだ見えぬ声の主を睨み付けながら、素直に2回深呼吸をした。
それを見て、皆も深呼吸をした。
ここは母星ではない、月なのだ。病気になったら大変な事になる。
すると、勢いよく吹き出していたミストが止まったかと思うと、扉が開き、背の高い男性が入ってきた。
「ようこそ【2%】のみなさん。俺は今日から【2%】に所属が決まった大和。ステーションの管理全般を請け負ってる、宜しく頼むよ」
「【2%】に!?それは驚いた……」
ワッカが呆気に取られていると、大和は我関せずと、言葉を続けた。
「リーダーは遥だけど、ここでの指図は俺に従ってもらう。まずは各自のルームは用意しておいた。今から鍵を渡すから、とりあえずまずは身体を休めてほしい。ここでの一番の敵は病気になる事だからね。」
メンバーは、無言で頷くと順番に大和からルームキーを受け取った。
「この扉を出たら、各自の部屋がある。そのルームキーの番号の部屋に行って欲しい。また連絡は追ってする。」
淡々と連絡事項を伝える大和に圧倒されながら、メンバーは自分のルームを目指す事にした。
そんなに負荷がかからなかったとはいえ、母星から離れた現状は、身体を少なからず疲弊させているはずだった。
沙羅と真琴は顔を見合わせてから、一緒に用意された自室を目指そうとした。
「真琴はここに残って」
唐突に、大和が真琴を引き止めた。
「いきなり何なの?私が何かおかしいって言うの?」
真琴は突然の事に、大和に食って掛かった。
メンバー皆が、心配そうに動向を見守った。
「このままだと、心が壊れる。自分が一番わかってるんだろ?だから少しここに残れよ。」
真琴は、息を飲んだ。
この人は一体…………
真琴の異変に気づいた沙羅は、真琴に駆け寄り
右腕を握りしめながら、顔を覗きこんだ。
「真琴大丈夫??」
すると、大和がつかつかと近づいてきた。
「あんたが双子の姉の方?沙羅だっけ」
「えぇそうよ」
「いいからあんたは部屋に行けよ。あんたがいると邪魔なんだよ」
「一体何なの!?私は真琴と双子なの!誰よりも真琴の事が分かってるのは私なの!」
「いいよそんな建前発言。そんな事これっぽっちも思ってない癖してさ。不安でいっぱいの癖して、何?それが姉のプライドってやつ?つくづくつまらないね。いいから後は俺に任せてよ。悪いようにはしない。約束する。」
沙羅はその言葉に完全に言葉を失っていた。
本当にその通りだった。
この大和って人は一体何者……?
すると、暖が沙羅に駆け寄ると両肩を抱き寄せて
部屋に向かおうと促した。
真琴を残し、部屋を退出した5名は割り当てられた
自室に向かった。
「沙羅、大丈夫?」
ベイが沙羅に声をかけてきた。
「うん、大丈夫。ベイがいけすかないって言ってた意味がわかったわ。大和ってあんな人なのね」
「俺も正直、技術者肌のあいつが【2%】に来るのは予想外だった。とりあえずもうわかったと思うけど、接する時は気をつけてね?」
「それって?」
「大和の一番得意な能力は心を読む事なんだ。だから、本音でしか関われない。」
「心を………読むサイキッカー……?」
沙羅は暫し呆然とその場に立ち尽くした。
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