第15話~シャトル~



久しぶりに集合した【2%】のメンバーは、機関のルームで宇宙服に身を包み、遥が来るのを待機していた。


「僕、何だか未だに月に行く事がピンと来ないんです。新人だし仕方ないのかもですけど。」


李留は、緊張気味に想いを吐露した。


「それは私達こそ同じよ。ねぇお姉ちゃん?」


真琴は沙羅に同意を求めた。


「真琴のいう通りよ李留君。私達があのシャトルで月に行くとか嘘みたい。それに訓練と実際はきっと違うわよね。やはり少し怖いな。。」


沙羅はそう言うとルームの窓に近づき外を見た。

そこには今から打ち上げられるシャトルの準備が、着々と進められている光景が広がっていた。


赤色の胴体、側面には青色のラインが施されたそのカプセル型のシャトルは、月ステーションとの定期連絡船で、機関の中でも一部の能力者しか乗船は許されていなかった。


「大丈夫です。機関が月にステーションを作ってから結構な時間が経っていますし、今まで特にトラブルは起きていません。それに行った事のある人間から聞いた話では、わりと快適に暮らせるらしいですよ」


ワッカが気づけば沙羅の横に来ていて、同じく外を眺めながらそう説明をした。


「でもさ!ご飯がないんだよ!?信じられないよな!あー!耐えれるかな俺!」


ベイは両手を頭の後ろで組みながら、体を仰け反らせると不満を口にした。


「え?月ではご飯がないの?」


真琴が驚いていると、暖が補足の説明を始めた。


「宇宙では食事の仕方が変わるんだ。つまり、宇宙食。毎日、カプセルを一粒飲むだけになるんだよ」


「え?そんなので足りるんですか?それに、水は?」


李留が寝耳に水と言わんばかりに、疑問をなげかけた。


「勿論、その水ですら補えるカプセルだよ。月での食事はそれになる。色々を味わったりする食事は暫しお預けかな」


新たな情報に戸惑いながら、沙羅と真琴、李留の三人は説明をただただ聞き入った。

やはり、月に行く事は大変な任務なのだ。

今更ながらに改めてそう痛感した。



「食事は目と舌で味わうものなのにさぁ。早く【サイエンス】の奴らは、味わえるカプセルを開発しろってんだ!」


ベイが不満をぶちまけると、ワッカは苦笑いしながら

今度はベイの隣に座った。

そして、ポケットから何か包み紙を出すと手渡した。


「ベイ、お菓子でも食べ納めませんか?これ実は新発売のお菓子なんですよ。」


「え?ワッカいいの?じゃあいただきまーす!」


ベイはワッカからそのお菓子を受けとると、美味しそうにもぐもぐと頬張りはじめた。


「ところでワッカさん、【サイエンス】って?何なんですか?」


李留がまた新たなワードに、質問をした。


「所属チームの名称です。任務の内容が違って【2%】が表部隊だと、【サイエンス】は裏部隊。宇宙食の開発やステーションの維持、技術面の仕事が主な任務ですね。実はベイは【サイエンス】出身なんですよ。」


「あと、私もね」


突如割り込んできた声の主に目を向けると、ルームに遥が入ってきた所だった。


「食いしん坊だけど、ベイは案外万能な能力者なの。ね?ベイ?」


そう遥がベイに問いかけるも、ベイはお菓子を味わう事に集中しすぎて、遥の声が耳に届いていないようだった。


遥は、呆れつつもベイらしいと言うかの様に微笑むと

皆の姿をひとりずつ見渡し、確認をしはじめた。


「全員いるわね。体調不良者も無しと。じゃあ荷物はロボットが運びいれるからここに置いたまま、搭乗口に向かって頂戴。」


その合図を受けて、沙羅が立ち上がると、真琴は一向に立ち上がる素振りを見せなかった。


「真琴?」


見ると真琴は、顔を強ばらせ小刻みに震えていた。

無理もない。頭では理解出来ても身体は、気持ちは、なかなか追い付けないものだ。

沙羅は自分の左手で、真琴の右手を力強く握りしめた。


「お姉ちゃん……」


沙羅を不安そうに見上げる真琴に、沙羅は無言で頷いてみせた。


真琴はそれを見て自分も頷くと、ゆっくりと立ち上がった。そして双子姉妹は、手を固く握りしめたまま、

シャトルの搭乗口へと向かったのだった。







シャトルの中は、壁面全てにカラフルな色合いの機械類がひしめきあっていて、点滅を繰り返していた。


平行に2列に配置された座席は、案外シンプルで

各々が着席すると、自動的にカバータイプの全体を覆う固定装置が作動し安全を約束した。


全員が座席に座るのを確認してから、遥は最後に自分の座席に滑り込んだ。


「準備は出来たかしら?自動運転だから、別に眠っていても構わないわ。一応、皆の目の前にある個別モニターで、外の映像は見える様にしておいたから、母星からの旅立ちをみたい人はお好きにどうぞ」


遥のアナウンスを聞きながら沙羅は、この状況で眠れる人がいるのがそもそも信じられなかったけれど、逆にそれくらい移動は負荷がかからないのかもしれないと思うと安心も出来た。


目の前のモニターを見ると、機関のさっきまで自分達がいたルームがみえていた。


次に帰れるのは何時だろう。父親に会えるのは何時だろう。


そう思うと、急激に不安な気持ちが押し寄せてきた。


怖い。

宇宙に行くなんて怖くてたまらない。

今すぐ降りてしまいたい。

そしてまた、カフェ店員に戻って、温かな珈琲を運ぶ

そんな平凡だったあの頃に戻りたい。


誰か、助けて。



すると、とても静かに外の景色が変わり始めた。

もっと爆音と共に飛び立つと想像していた沙羅は驚いた。そこには静寂しかなかった。


遥の言う通り、これは眠ってしまえるかもしれない。


そう沙羅が驚いていると、機関の建物はみるみる小さくなったかと思うと、今度は一瞬で暗闇の空間が目の前に広がった。


これが…………宇宙??


その暗闇の中で、沢山の星達が浮かんでいるのが分かった。


「綺麗………」



沙羅はさっきまでの恐怖感をすっかり忘れて

宇宙の魅力に、完全に飲み込まれてしまっていた。

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