第11話~無重力訓練~


「無重力訓練!?」


李留は思わず大声で叫んだ。


その日、機関の中のルームに集まった【2%】の7名に、リーダーの遥からこれからする訓練の説明があったものの、それは予想外の内容だったからだった。


「そういうのって、宇宙に行く人がするものじゃ。」


真琴が困惑しながら、そう言うと遥は微笑みながら頷いた。


「勿論、宇宙に行くのよ、私達。」


ルームに一気に張り詰めた緊張感が走った。


「待ってくれよ。星間戦争は小康状態のはずだろ?

そんな経験のない俺達が宇宙なんて、一体何をするんだよ。」


この話は暖も寝耳に水だったらしく、遥に詰め寄った。


「とりあえず、これを見てちょうだい。」


遥が壁面に映像を映し出した。

それは宇宙の星の配列図だった。


「ここが、私達の母星。今対立している星が、ここと、ここ。とりあえず、私達の星を守る為には資源が必要なの。今回、宇宙へ行ってその資源回収をしてこいが上からの指示なわけ。」


「で、俺達どこに連れていかれちゃうわけ?」


ベイがおどけながら質問をした。


「少し離れてるのだけど、ここが地球という星。ここが太陽、そして、これが月。私達が向かうのはこの月にある宇宙ステーション。

ここに暫く居住しながら、太陽の周りにある電離的に解離したガス、この回収をするのが任務内容よ。」


「小さい頃、学校で習って名前だけは知ってるけど、まさかこんな遠くに行く事になるなんて。」


沙羅は狼狽しながら、その宇宙図に見入った。


「確かに、こんな太陽みたいな恒星は母星の周りにないもんな。でもそもそも回収なんて出来るの?このガス相当熱そうだよ?」


ベイが遥に尋ねた。


「そうね、100万℃かしら。」


「それって、かなり危なくないですか?」


黙っていたワッカが冷静に疑問を投げ掛けた。


「だから、【2%】が作られた。それを可能に出来るチームだって期待をされてるの。」


遥は映像を消すと、立ち上がった。


「もう他に質問はないかしら?」


「あ、あの……。」


「真琴何かしら?」


「任務中は母星とのコンタクトは全く取れなくなるのかなって。」


「通信は可能よ。顔を見ながら通話ぐらいなら出来るわ。実際の対面は帰還までは諦めて。

ベイのテレポートも移動距離が長過ぎる、万が一の事を考えたら封印でお願いね。ミスして着地が宇宙空間なんて笑えないから。」


「私は、通話が出来たらそれで……。」


真琴は少し寂しげにそう呟いた。



「それじゃあ、となりのルームに移動してくれる?無重力訓練をはじめるわ。」


そう言うと、遥は颯爽と部屋を出ていった。


「この間まで僕、エプロンして花束を作ってたんだけどなぁ。僕なんかで大丈夫かなぁ。」


李留は頭をかきながら不安そうに立ち上がった。


「なんかいきなり大きなミッションになってしまって、沙羅も真琴も李留君も本当にごめんよ。」


暖は申し訳なさそうに、3人に頭を下げた。


「暖のせいじゃないわ。勿論、珈琲しか運んでこなかった私みたいなのに務まるのか、不安の方が大きいけど、やれるだけやってみる。」


沙羅はそう言うと微笑んだ。


「さぁそろそろ皆さん行きましょうか。

リーダーに怒られちゃいますから。」


後ろでやり取りを見守っていたワッカに促されると【2%】の面々は無重力訓練のルームへと向かった。


その訓練ルームの前には、正方形のロッカーが壁一面に備え付けられていて、そこに荷物を入れると鍵がかけられる仕様になっていた。


「手荷物はそこのロッカーを使って。準備が出来たらルームに入ってきてちょうだい。」


遥はそう告げると、訓練ルームへと消えていった。


それを受けて皆、手荷物を各々そのロッカーに入れて、鍵はかけずに訓練ルームへと入っていき、残るは沙羅と真琴だけになった。


やっと手荷物を入れ終えた真琴は、ロッカーの鍵をかけようとした。


それを見た沙羅は


「ここには気心のしれたメンバーしかいないのに、それは無意味よ。」


と、言った。


「勿論分かってるわよ。でも、これはもう性分なの!」


真琴は少し拗ねながら、鍵をかけ終えると沙羅と共にルームの中へと入っていった。


「さぁ、これを飲んで。」


入った瞬間、遥が沙羅と真琴の手にカプセルを乗せてきた。


「これは?」


「酔い止め。じゃあ、始めるわよ。」


遥の合図で、ルームの中の空気が変わり始めた。

沙羅と真琴は慌ててそのカプセルを飲み込むと

今から始まる訓練に身体を硬くした。


すると、身体の細胞がバラバラになる様な、違う物質になったかの様な感覚に、目眩を覚えていると、突然身体が宙を浮き始めた。


「うわ!浮いた!」


足が床からゆっくりと離れると、7人はルームという宇宙の中の星の様に、そこにただ浮かんでいた。


「じゃあ次は少し激しくなるけど、その流れに逆らわないで。」


遥がそう告げると、今度はルームの中で渦が発生したかの様に、7人をぐるぐると回転させ始めた。


「うわ!目が回る!」


李留が叫びつつ、楽しそうに声をあげた。

それを見て皆も笑顔になりながら、渦に身を任せた。


15分くらいの回転が終わり訓練が終了すると、今度はいきなり引っ張られたかの様に身体が床にへばりついた。


「暫くそのまま動かないで。負荷をかけてしまうから。」


遥の指示を受けて、7人はそれぞれ床にうつ伏せや、仰向けの格好で静止し、ただ重力を感じていた。


「酔わなかった?」


暖がうつ伏せになりながら、同じくうつ伏せになっている沙羅に声をかけた。


「酔い止めのお陰で大丈夫だった。」


沙羅は笑顔でそう答えると、仰向けで大の字になってらいたベイが大声で叫んだ。


「遥まだ!?俺、もう腹ペコなんだけど!」



それを聞いた6人から、笑い声があがった。



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