第6話~花と部屋とカメラ~
その日、真琴は休日だった。
真琴は自分の部屋中に埋め尽くされた花たちに水やりをしながら、窓の外を眺め鞍馬を待っていた。
すると、鞍馬がこちらに向かってきている姿が見えた。
真琴はじょうろをテーブルに置いて、嬉しそうに玄関へと走って行った。
「いらっしゃい鞍馬!」
真琴は勢いよくドアを開けると、鞍馬を自分の部屋へと招き入れた。
「お邪魔します♪これそこのケーキ屋で買ってきたんだ。一緒に食べよう。」
鞍馬はケーキの入った箱を真琴に渡すと、部屋のテーブルに2つ並んだ椅子のひとつに腰かけた。
「相変わらず花だらけな部屋だね。また増えたんじゃないの?オーナーとしては花好きなスタッフは喜ばしいけど。」
「お姉ちゃんの部屋は逆に何もないのよ。双子でも似てるようで全然違うのよ私達って。」
真琴は、鞍馬が持ってきてくれたケーキをお皿に移し、紅茶を淹れると鞍馬の前に置いた。
「姿形は同じだけど、沙羅と真琴は全然違うし、それでいいんだよ。」
鞍馬は淹れたての紅茶を口にしながら、そう言った。
真琴は少し考えながら紅茶を一口飲むと、鞍馬に色々報告をはじめた。
父親の病状があまりよくない事。でも、新薬なら助かるという事。その新薬のお金が一般的に支払える金額ではない高額な事。
幼馴染みで、姉の婚約者である暖の紹介で、機関のテストを姉と受けるつもりだと話し終えると、
もし合格したら、花屋を辞めさせて欲しいと告げた。
鞍馬は少し驚いていたが、少し間を置いたあとに
「わかった、勿論応援するよ。あと、なんで僕はサイキッカーじゃないのかな。それが少し悔しいな。」
と、笑顔で言った。
真琴は胸が締め付けられる想いに支配されると、俯いてしまった。
すると、鞍馬が自分の鞄から小さな黒色の物体を取り出した。
「今日は真琴にこれを見せたくて持ってきた。新作のカメラなんだよ。」
そう言うと、カメラは自動で組み立てられると宙に浮かび、ふたりの姿を撮影し始めた。
「凄い!あんなにコンパクトだったのに。」
真琴は嬉しそうに鞍馬が持ってきたカメラに興味を持つと、鞍馬と一緒の姿をカメラの中に収め始めた。
「機関に行っても、別に会えなくなる訳じゃないさ。またこれからも沢山想い出を撮っていこう。」
鞍馬がそう言うと、カメラは自動でコンパクトに折り畳まれると小さくなった。
そして真琴の手のひらにそれを乗せた。
「そうね。一緒に想い出を撮るわ。これからもたくさん、たくさん………。」
真琴はそのカメラを大事そうに、両手で包み込んだ。
◇
暖の計らいで、機関を受ける日にちが急遽決まった。
決まった所で特にする事はなく、双子姉妹は日常を普通に過ごしていた。
「明日が機関のテストだからね、遅れちゃダメよ真琴。」
今日も休憩を沙羅の勤めるカフェで、珈琲を飲みながら過ごしていた真琴は、姉の沙羅に念を押されていた。
「わかってるわよ。明日はちゃんと午前中に仕事はあがらせてもらえる様に、李留君にお願いしてるから。」
真琴は少しふてくされながら、沙羅に言い返した。
「ならいいんだけど。真琴、あまり気乗りしてないみたいだから。」
沙羅は少し俯きながらそう言った。
真琴が機関に来る事になれば、恋人で花屋のオーナーの鞍馬とはあまり会えなくなるだろう。
それを考えると、自分ひとりで機関には行くべきなのかもしれない。でも、沙羅は不安だった。
真琴は生まれた時からいわば、自分の分身だった。
だから、離れたくなかった。いつも、どんな時も。
「お姉ちゃんはしっかりしてそうに見えて、どこか抜けてるんだから。私が傍にいないとね。」
真琴は、珈琲カップをテーブルに置きながら微笑んだ。
沙羅はそんな事ないわよと反論しつつも、安堵の表情を浮かべると、仕事へと戻っていった。
沙羅が仕事に戻ったのを見届けてから、真琴は誰にも聞こえない小さな声でぽつりと呟いた。
「お姉ちゃんはいつも、私から私の好きな全てを奪うんだから。」
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