第5話~ワッカとベイ~




翌朝-



沙羅は暖に付き添ってもらって、父親の病室に来ていた。


沙羅は、機関の志願を真琴とふたりでしたいと思っているという事。

能力者として認定されれば、破格の契約金が手に入るという事。

新薬の事は、父親にははっきりと伝える事はせず、

今までの様に隠して生きるよりも、本来の自分として自然体で生きた方が生きやすい、だからどうか機関に志願する事を許して欲しいと、父親を説得した。



父親は暫くベッドの上で黙りこんでいたが、



「今の私ではもうお前達を守れない。自分で自分を守る力を養うには、機関に行くのが一番かもしれない。」



そう言うと、暖の両手を自分の両手で覆うように握りしめた。



「暖、ふたりをよろしく頼む。」


「おじさん勿論です。俺の出来る事は必ずしますから。」


暖の言葉に、父親はほっとした表情をみせると、沙羅に促されて、眠りについた。


暖と沙羅は、それを確認すると病室をあとにした。



「ねぇ沙羅今から時間はある?少しお茶でもしない?」


「今日はお休みを取ったから私は大丈夫だけど、暖こそ任務は大丈夫なの?」


「今から機関の仲間達と沙羅の店で待ち合わせしているんだ。折角だから紹介しておきたいと思って。最近新しく発足した【2%】のメンバーなんだけどね。」


「【2%】?」


「機関が名付けたチーム名だから俺もよくわかってないんだけど、最近俺もそこに配属になったんだ。

歳も近いし気さくなやつばかりだし、沙羅と真琴も機関に入る事になると、知り合いがいた方が絶対にいいと思うんだ。」


「そうね、それは有難いかも。」


沙羅は少し緊張な面持ちになりながら、そして、

これから色々と変化していく未来を思いながら、暖とカフェへの道を向かいはじめた。






カフェのテラス席には、男性がふたり座り

コーヒーを飲んでいた。


「ごめんごめん遅くなった!」


暖は、声をかけながらそのふたりに駆け寄った。


「俺達も今来た所だから大丈夫だよ。な?ワッカ」


ワッカと呼ばれた男性は、頷くと


「ベイが言った通り、僕達も今来た所です。さぁ暖も座って下さい。で、そちらの方は?」


ワッカという男性は、暖の後ろに立つ沙羅に気付き、尋ねてきた。


「は、はじめまして。沙羅です。」


沙羅が緊張しながら挨拶をすると、黒眼鏡をかけた

ベイが、何かに気づいた様な表情をして立ち上がりながら叫んだ。


「あぁ!確か暖の婚約者の人!?」

 

「いや、あの、幼馴染みで、親同士が決めた口約束の様なもので、あの。」


沙羅がしどろもどろに答えると、ワッカが立ち上がりテーブルのひとつの椅子を後ろにひくと、沙羅に座る様右手で促した。


「いきなり色々と聞かれて困りますよね。はじめましてワッカと言います。こちらがベイ。お会い出来て光栄です。さぁ立ち話もなんですから座って下さい。」


ワッカのエスコートを受け入れながら


「あ、有り難うございます。」


と沙羅が椅子に座ると、暖も座り、店員に沙羅の分との珈琲をふたつ注文した。


「沙羅、話をした此方がベイとワッカ。チーム【2%】のメンバーだよ。そして、此方が幼馴染みの沙羅。今度、双子の妹の真琴と機関のテストを受ける事になったから、ベイとワッカ、どうか宜しく頼むよ。」


暖は初対面の3人の紹介をし終えると、店員が運んできた珈琲に口をつけた。


「ふーん、じゃあ沙羅の一番得意な能力は何なの?テレパシー?瞬間移動?

普通、子供の頃に親がテストを受けさせる事がほとんどなのにさ、大人になってから入ろうとするなんて珍しいよね。」


ベイが興味津々に尋ねた。


「ベイやめて下さい。沙羅の心が困っていますよ。それに、ザッと見た所、沙羅は数値がかなり高い。機関のテストは必ず合格するはずです。」


ワッカが沙羅の頭上の空間を凝視しながら、そう言った。


暖がその言葉を聞いてほっとした表情を浮かべた。


「それを聞いて安心した。実は今日沙羅を連れてきたのは、ワッカに事前に確認してもらいたかったんだ。沙羅、ワッカは相手の能力を数値化出来るサイキッカーなんだよ。」



「数値化……?」



沙羅は、色々を読み取られた事に身構えながら、初めての経験に困惑した。



「そんなに身構えなくて大丈夫です。それに全てが分かるわけではありません。とりあえず、機関のテストは必ず合格しますから、リラックスして受けてください。」


「あ、有り難うございます。」


沙羅は、その言葉には安堵しつつ、自分の働くカフェというスペースでありながら、まるで別の世界に入り込んでしまった感覚に陥っていた。


「あぁ、上司からの呼び出しコールだ。皆、任務に戻るよ。」


ベイが面倒くさそうに、頭をかきむしりながらそう言った。


「コール?」


沙羅が不思議そうにしていると、


「機関では連絡はテレパシーで脳内に直接コンタクトを取ってくるんだ。沙羅も機関に所属すればコール音も聞こえるようになるよ。」


暖はそう微笑みながら説明を終えると、ベイが目を閉じて両手をひろげはじめた。


すると、透明のシャボン玉の様な空間が出来はじめた。

暖とワッカは手慣れた様子で、その空間の中に入り込んだ。


「じゃあ、今度は機関で会うのを楽しみにしています。僕達はこれで。」


ワッカはそう言うと空間の中でお辞儀をした。


「ベイはもう言葉を発せないから挨拶出来ないけどごめんね沙羅。会計は済ませてあるからもう少しゆっくりしていくといい。じゃあまた!今日は有り難う。」


暖もそう言って空間の中で手を振ると、ベイが作ったその空間が一瞬で消えて、3人の姿はその場から無くなっていた。


「テレポートか、初めて見た。」


沙羅はサイキッカー達の能力に驚きながらも、少し気持ちが高揚している事に、自分自身驚いていた。

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