第9話 噂の真相・上


目が覚めたのは昼の十二時過ぎ、自分の部屋にいた。

何となく覚えているのは、儀式を終えて戻ってきた時に用務員さんと竜希に会ったこと。

それ以降は緊張が解けた脱力感と時間的な眠気から記憶にない、誰かが家まで送ってくれたのだろうか。


制服に着替えてリビングに降りると家族がいた、当たり前かもしれないが,この時とても嬉しく思った。


「あ、やっと起きたの。もー夜中にどこ行ったかと思ったら学校で遊んでたんですってね?しかもそこで寝ちゃうなんて…用務員さんと竜希君に感謝しなさいよ。」


窘めるようにそれだけ言って母は自分のことに戻ってしまった。

あれだけの事があって質問攻めされないという事は竜希達が上手くはぐらかしてくれたのだろうか。

とりあえず一件落着―


「そうそう、起きたらなんか神主さんの所へ来なさいとも言ってたけど。」


そうだよな、そんな簡単には終わらないよな。

疲れが取れておらず着替えるのも面倒になったので、休日ではあったが癖で着替えた制服のまま家を出た。

怒られるのが目に見えているのに神社へ向かうのは嫌だったが、お祓いして欲しいし聞きたいこともあるし何より日下部のことが気がかりだ。

最後に一緒に戻ってきた覚えはあるが、果たして意識を取り戻してるだろうか。


神社に着くと、神主さんがいた。

待合室のようなところに招き入れられると、そこには用務員さんもいた。

座るように誘導され、今回の出来事について話すよう言われた。

肝試し感覚で儀式を行ったこと、その結果昔の旧校舎に迷い込んだこと、そこでミカエリ様に襲われたことなどを大まかに話し終わると、二人は難しい顔をして


「そうでしたか、あの倉庫にあった情報から…。こちらの管理が甘かったために、あのお嬢さんはミカエリ様に辿り着いてしまったのですね。」


「なあ神主さん、こうなった以上もっと厳重に封じ込めなダメだ。いっそ処分するか…。」


「しかしですな、この土地の詳細な歴史が載っているのはもうあれしか…。」


どうやら思った以上に重要な文献らしい。


「…あのっ、教えて頂けませんか?その伝承のこと、ミカエリ様の事を。」


そう割り込むと二人は軽く目配せした後頷いて、


「他言無用でお願いします。」


と、前置きしたうえで話をしてくれた。


もうずっと昔の話、この土地はひどい水害に見舞われ農作物が上手く育たず、とにかく不安定な場所だったそうな。

それを土地の神様の荒ぶりと考えた当時の権力者が、人々を集め儀式を考案して鎮めようとした。

ただ、当時は本当に神様を鎮めようというよりは儀式と称して体よく村の人間を生贄とする意味合いが強かったらしい。

所謂口減らしと言う奴だが、これには労働力になる見込みのない者たちが優先された結果、身体の弱い子供たちが多かったという説がある。

こうして儀式を繰り返してなんとか飢饉をやり過ごしていくうち、災害への対策も進められたことから被害は徐々に収まっていった。

そして後の豊作に伴い人々の生活が安定したことで儀式を行う必要もなくなり、これまでの犠牲者の慰霊碑を建てるのを皮切りに、元々名もない架空の土地神の存在もゆっくりと忘れられていった。


しかし儀式が行われなくなって数年たったある日、大規模な水害が起きた。

被害は大きかったがこの時人々は深くは考えずすぐに復興に取り掛かった。

だが、水害はその翌年にも起きてしまった。

二年連続しての過去に類を見ない災害は村にとって大打撃であり、権力者たちは事態を打開するための会議を始めた。

その中で誰かが「土地神様が怒っているのでは。」と、そう言いだした。

今まで儀式とは名ばかりの口減らしをしていただけで、そんな超常的な存在など信用していなかった大半の村人たちは相手にしなかったそうだが、当時の村長はその話を真に受け調べることにしたという。


ある日、村の腕利きを数人伴って儀式の供物を供えていた場所、もとい犠牲者を埋葬していた山の頂上に行くとそこには子供がいたそうだ。

その子供は慰霊碑をじっと見つめていたかと思うと忽然と消え、村長たちを動揺させた。

その後、慰霊碑を確認すると儀式で亡くなった人の名前以外の人物の名前が彫られていたそうだ、それも一人二人ではない。

儀式が行われていないのだからここに名が足されることはあり得ない、村長は恐る恐る新しく掘られたと思われる名前達を読んでいく。

彼らはこの二年間に起きた災害の犠牲者たちであった。

そして消えた子供はその年の水害で亡くなった子供だったという。


村人たちはこの二年の水害を、都合の良い時だけ祀り上げられた神の怒りあるいはその過程で命を奪われた人々の怨念と確信し、再び儀式を行うことにした。

今までとは違い、供物には農作物が用いられたらしい。

そうして信仰が復活し、暫くの後大きな災害は起こらなくなり慰霊碑の名前が増えることもなくなった。この時、真相を知らない村人たちには捧げものをすることで見返り、即ち願いを聞いて下さる神としてミカエリ様と名付けられたという。


しかし、この脅迫めいた信仰に何とかして終止符を打ちたいと考えた当時の権力者は外から著名な神職の方を招き、遂に土地神を宥めることに成功した。

後に儀式は神に豊作を感謝し祈る収穫祭へと変わっていったのだという。


そして、信仰の真実を知る人がもう数えるくらいになったころにある事件が起こった。














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