第7話 親友からの電話

幽霊から逃れ二階を探索していると、ミカエリ様の儀式について詳しく書いてある手紙を見つけた。

それによれば儀式には生きている物を供える必要があるという。

自分達の入手した情報との違いを不思議に思いながら探索を続けていると、どこからか電話の着信音が。

急ぎ音のする方へ向かい勢い任せに受話器を取ると、電話の向こうから親友の声が聞こえた。




「おい!返事しろ!蒼か!?」


電話越しに聞こえる親友竜希の声。

驚きや安心、疑問の感情がバッと湧き上がり思わず固まってしまう。


「「おいっ!!」」


一際大きな声で呼びかけられハッとする。


「ほ…本当に竜希なのか?」


「俺以外の誰がこんな時間に電話すんだよ!…ったく、三時半過ぎに電話しろって言っといて全然出ねえし何やってんだよ。」


そうだった、俺達に何かあった時のために連絡をしてくれるよう頼んでおいたのだった。

今は午前四時を過ぎている、色々起こりすぎてすっかり忘れてしまっていた。


「ちょっと待てよ、お前どうやって電話してるんだ?携帯は繋がらなかったのに…。」


「それがよお―」


そう言って彼は話し始めた。

連絡がつかなくなって竜希自身も学校へ乗り込んだらしい。

難なく裏山への入口に辿り着きはしたが俺達が鍵を閉め直したせいで中に入れず、諦めて用務員さんに事情を説明したそうだ。


「話したらめちゃくちゃ怒ったり慌てたりでさあ、大変だったんだぞ。」


その後裏山に詳しい神主さんに連絡を取り来てもらうことになったのだが、到着にはまだ時間がかかる為目に見える範囲だけでも探そうと用務員さんと共に山を登ってきたらしい。


「それで手分けして旧校舎周りを調べてたんだけどよ、もうゾワゾワして気分が悪いのなんのって。よくこんなとこ入ったよなお前ら。」


「…そんなにヤバい感じがしたのか?」


「お前の頼みじゃなかったら死んでも行きたくないぐらいにはな。」


そういえばこいつ霊感があるとか言ってたな。冗談半分に聞いてたけどまさか本当だったとは。


「そんで中に入ってみたらところどころ霊的な感じの強いところがあってな、その一つが電話だったんだよ。電話って怪談とかだとよく霊界と繋がるとか言うじゃんか?だからダメ元でかけてみたんだよ。理屈はよくわかんねえけどそれで繋がったってわけ。」


怪奇現象に理屈を求めても仕方ない気はするが、とりあえず元の世界との接点がこんなところにあるとは驚きだ。


「じゃあお前職員室の番号に掛けたってことか?」


「ああ、何コールかして出ないようなら次って考えてたけど一発で当てるとは流石俺だな。それはそうと、ちゃんと説明しろ。何がどうなってんだよ?」


俺はここまでの状況を説明した。

儀式を行い昔の旧校舎に来てしまったこと、そこで幽霊に会ったこと、そしてミカエリ様の伝承。


「…ミカエリ様って名前、用務員のじーさんも電話中に話してたわ。かなりヤバい神様っぽいな。」


「用務員さんもミカエリ様のこと知ってたのか。俺は日下部から聞いた話以上のことは分からないけど、儀式に生き物を使うって辺りから嫌な感じはするな。」


「生き物ねえ…大なり小なり生命を要求する儀式にはいいイメージがねーなあ。とりあえずじーさん呼んできて変わってもらうわ、きっとそっちの事情にも詳しいだろうし。」


「分かった。…ちょっと俺も日下部呼びに行ってくるから離れるぞ。」


そう伝え、受話器をだらんと垂らした状態のまま職員室を出る。

電話の音は勿論、俺の話し声も十分に響いているはずだが幽霊は近くには居ないようだ、ありがたい。

日下部のいる資料室をノックして合言葉を言うが返事がない。

再度同じことをすると鍵の開き、ドタドタと動く音がした。

中に入ると反対側の入り口から出られるよ待機している日下部がいた。


「伯部君!一体何が起こってるの!?」


不安がる彼女に電話の件を話した。

まだ戸惑っているようだが、見せたほうが速いとやや強引に職員室へ連れていく。

そして受話器を取らせると丁度用務員さんと入れ替わったようだ。

元の世界との繋がりに喜んだかと思えばしょんぼりしたりと忙しそうにしている、恐らく怒られているのだろう。

少しして何やら真剣に相談し始めたので、俺は幽霊が近づいていないか警戒しておくことにした。


十数分の後、受話器を置いた日下部に用務員さんからの情報を聞いた。

元の世界に戻るにはもう一度同じ場所で儀式を行い、帰ることを願わなければならない。

その為にはお供え物が必要だが、こんなことになることを知らなかった俺たちは当然予備のお供え物なんてのは無い。

日下部がそのことを伝えると、3-A教室にお供え物に適したものがあるはずだと言う。

ところが3-A教室は施錠がされており、対応する鍵も見当たらない。

それを話すと用務員さんも困ったように唸ったそうだ。

少し間があって六つある鍵の内、二つはそれぞれ視聴覚室とコンピューター室にあるかもしれないから探して見るよう言われたそうだ。

何故そんなことを知っているのか非常に気になるが、


「とにかく急げ!ミカエリ様も本気で襲ってくるぞ!!」


と、かなり焦った声色で急かされた為聞き返せなかったという。

詳しいことは無事に帰ってから聞く必要がありそうだ、…もっともこちらから聞かなくても説教ついでに聞かされることになるかもしれないが。

丁度目的の部屋への鍵を持っている俺たちはまた二手に分かれて行動することにした。

用務員さんの言うミカエリ様の本気に一人で対応できるか不安だが、ここで二人固まってチンタラ探している暇はない。

それに時計は午前五時近く、できれば早く帰ってこれ以上大事にしたくもないし寝る時間も欲しい。


「よし、行こうか。」


「じゃあ集合場所はここ職員室ね、もし幽霊―」


言い終わらないうちに、


「「ガタン‼」」


強引に何者かが戸を開けようとする音が響く。

この場においてはミカエリ様以外ありえない、音を辿ってきたのだろう。

華奢な姿からは考えられないような凄まじい力で引き戸に食らいついているようだ。

本気で襲ってくると聞いて身構えてはいたがここまで力業で迫ってくるとは思わなかった。

声を潜め、反対側の出口に向かう。

案の定戸を壊し入ってきた、あんな力の持ち主に追いかけられていたのか俺は。

戸を壊されるのと同時に二人で廊下に飛び出す、後ろは振り返らないしお互いの顔も見ずに走る。

これで最後だ、絶対に逃げ切ってやる。










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