第6話 二階の手紙
合流して情報共有を終えた俺たちは、各部屋の鍵を取りに職員室へと戻った。
鍵を互いに割り振っている最中、閉めたはずの地下への扉が開かれているのを発見する。
俺が囮になって様子を探ると案の定そこには幽霊がいて、資料室から引き離すことにした。
ひたすらに廊下を走る。
振り返って確認はしていないが間違いなく俺を追ってきている、後方から足音が付いてくるのがその証拠だ。
とりあえず日下部から引き離すことには成功したようだ。
次は俺自身がコイツから離れなければ。
少し足音が遠くなったところで振り返る。
まだ俺を認識した上で走ってきているかは定かではないが、真っ直ぐにこちらに向かってきているのは間違いない。
だが思ったよりも距離が取れているようで、少し安心した。
(これだけ距離のある今なら、アイツの姿をしっかり見れるか…。)
安心ついでに少し速度を落としながら、チラリと後ろを見る。
見た目は最初出くわした時と同じだ、俺の学校の物と似たような制服を着ていて顔が無い。
胸元にあるのは名札だろうか、「木」の文字が使われてる苗字のようだが距離がある所為でしっかり読むことはできない。
もっとじっくり観察したいところだが走りながらでは集中できない。
見ることに気を取られて追い付かれでもしたら目も当てられないのだ、ここは我慢して再び速度を上げる。
走り続けて3-A教室近くの階段までやってきた。
思い切り走って流石に疲れた、元々体力がある方ではないし暫くは走れないだろう。
階段の手すりに身を預け、肩で息を付きながら振り返る。
幽霊は今やっと3-D教室辺りに来たようだ。
こちらに向かってこそいるものの走ることを辞めているのを見ると、上手く距離を取って撒くことができたようだ。
ただ距離があるとはいえこちらが万全の状態になるまでその場で待ってくれる確信もないので、休むのもそこそこに二階まで音を立てないように上がっていく。
構造は一階とほぼ変わらないが、別の棟に繋がる連絡通路がある点が違っている。
合流する時間を考えると探索に行く余裕は無いかもしれないが、もしもの時の逃げ道にはなるだろう。
とりあえず近くの2-A教室から探索することにした。
鍵は開いていた、中へ入ってまずは両方の戸の内鍵を閉める。
シンと静まり返る教室の中で適当な机の椅子を引いて腰を下ろす。
そうして休みながらも机の中を探ってみるとまた手紙が出てきた。
内容は怪談とは関係ないものだったが、手紙回しが他学年でも行われているのが分かっただけでも十分だ。
疲れが引いてきたところで時計を見る。
今は午前四時五分、合流まであと二十分しかないのでそろそろ動かねば。
よいしょと立ち上がり、またロッカーと机の中を探っていくと、また何枚かの手紙が出てきた。
このクラスの人は授業に不満でもあったのか、一階の時と比べて入っている枚数が多いように思う。
授業中に何やってんだと思いながら確認していくと、ミカエリ様の名前が出てきた。
なんと別クラスの生徒も含めた複数人で夜に肝試しを行う予定が書かれているものもある。
それには2-Dにいる発案者達と放課後に話をするという流れになっており、そちらの生徒間では更に詳細なやり取りがされていた可能性が高い。
全ての計画を手紙上で立てていた保証はないが、夜に学校に忍び込もうとしてるようなやんちゃ連中なら退屈な授業時間を有効活用していたことだろう。
2-A教室を後にしてB教室、C教室とさらりと見て回った後に本命の2-D教室にやってきた。
ここまで来るとロッカーに期待できないことも分かってきたのですぐに机を探し始める。
案の定何人かの机から手紙が出てきたが、今までのようにまばらではなく四人分の席に集中的に入っていた。
窓際後ろに位置しており前からは勿論、廊下に見回りの人が来ていたとしても見つかりにくい、他事をするには良い場所だ。
そして肝心の内容だが、期待通りミカエリ様の事が書いてあった。
手紙を書いた翌日に決行しようとしていたことや持ち物について相談しているものと、儀式の手順が記されたものが複数枚。
読み進めていくと、儀式の手順は日下部の情報と同じであったが儀式を行う場所については手あたり次第に試そうと書いてあった。
どうやら計画を立てた生徒たちは、職員室に隠し階段があることを知らなかったらしい。
そして気になったことが一つ、儀式で備える物が虫だの魚だの生きている物に限定されているのだ、赤線まで引いて強調している辺り非常に重要視されていたらしい。
俺達と同じ儀式なのに供物に制約があるとはどういう事だろうか。
もちろん日下部の把握していない条件だった可能性もあるが、わざわざ「生きている」と強調されている所が引っかかるし、これが必要な条件だというのなら俺達の儀式は不完全ということになる。
にもかかわらず、こうして超常現象に巻き込まれているのも疑問だ。
部分的にでも正しい手順を踏んでいれば成立する程緩い儀式だったという事なのか、はたまた別の理由があるのか。
まとめるとニ年生の教室では三年生の時と比べ多くの手紙が見つかり、その中でミカエリ様に関する儀式の情報もあったが気になることが増えただけで進展とは言い難い結果になった。
今回は教員の引き出しから鍵が見つかりもしなかったので確かな収穫は無い。
見つけた紙をしまい、今度は地図を取り出す。
思いのほか早く調べ終わってしまったで、別の棟に行ってみるのもアリかもしれない。
俺が持っている鍵の中だと、音楽室と美術室が候補に挙がる。
とりあえずそれらの教室のある棟へ移動することにした。
渡り廊下を通ってさあどちらに行こうかと考えていると、
「プルルルル―」
突然電話の音が鳴り響き思わず飛び上がりそうになる。
自分の携帯電話ではない。
「プルルルル―」
暗闇と静寂の中、嫌に響く不気味な音はどうやら下の階から聞こえるようだ。
下にはさっきまでいた職員室や資料室がある、きっと日下部にもこの音が聞こえているだろう。
どういうカラクリで電話が鳴っているのか分からないが、幽霊にこの音が聞こえて戻ってこられたら折角の鬼ごっこが台無しだし、何より自分一人の暗い空間に得体の知れない音が響いているという状態が不快極まりない。
「「プルルルル―」」
急いで音のする方向へ向かう、もう自分の足音など気にしていられない。
「「「プルルルル―」」」
音はどうやら職員室の中からのようだ。
中に入ると、各教室にもあった内線電話が鳴っている。
怖い気持ちもあったが、苛立ちと焦燥感に任せて乱暴に受話器を取る。
「…誰だ?」
「―し、―しもし!蒼か!?」
不明瞭だが確かに聞こえた、自分を呼ぶ親友の声が。
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