第3話 誤算
「ここは………病院ですか?局長」
「俺が認識出来るということは、大事はなさそうだな」
「クッ」
「そのままでいい、お前は両腕を粉砕骨折。壁に打ちつけられた衝撃で背中にもヒビが入っている。」
「そうですか…………」
「ウォリアー1………いや『アルベルト·リヒトシュタイナー』。何があった?」
「任務は概ね成功した……はずです」
「はず………ねぇ」
「一家は始末………仕損ねました。」
「始末仕損ねたのに成功か?」
「ガキが1人。ただあれを人と扱っていいのか。わかりません」
「ガキか………この『ルガール』一家は3人で暮していた。ガキとはその1人じゃないのか?」
「恐らく」
「何が成功だ。極秘の任務で対象を排除し損ねる。メンバーは君以外死亡。任務が事件として表沙汰になる。…………これの何処が成功だ?」
「…………。」
「君をそこまで追い詰める程の出来事。…………何があった?」
一息つくとアルベルトは断片的な記憶を辿るようにゆっくりと語り始めた。
「任務は順調でした。予定時刻には『ルガール家』に着き、作戦時刻通りに作戦を実行。まずは男を敷地外からサイレントで射殺。動揺した女を黙らせる為に催涙ガスで意識を喪失したあと突撃しました。そこで誤算が生じました。」
「誤算?」
「ウォリアー3が対象の女と知人だったらしく。対象の処分で我々で意見が割れました。」
「意見が割れる?殲滅が任務で何故意見が割れる?」
「任務通り遂行すべきと主張した私とウォリアー2。対象の女を保護したいウォリアー3で意見が割れました。」
「…………能力は認めているのだが、思わぬところで奴の性格が邪魔したか」
「妥協案として、その場での………性交渉を認めました。」
「!?殲滅対象と性交渉だと!?何を考えているんだ」
「そうすればウォリアー3は納得し対象の女を処分すると」
(…………諜報紛いのことをしても、この組織の実態は民間企業の企業スパイのレベル。一個人の感情までは制御不可能か)
「申し訳ありません。私とウォリアー2は協議の結果。場所が町外れの農村だった事で事態が漏れる可能性が低い事、ウォリアー3がその一時的な高揚を抑えることが出来れば処分に同意すると発言した為、許可しました。」
「…………」
「そして、ウォリアー3が性交渉を始めて少しした時、突如対象達の息子が姿を見せました。恐らく上の階で就寝していたのでしょう」
(…………無駄な時間を使って、家内の索敵を怠ったか)
「そして状況を見たその子どもはウォリアー3に突進し殴打。ウォーリアー3は頬骨を骨折」
「そこは現場検証で確認している。しかし本当に一少年の殴打で成人男性の頬骨を折ったのか?」
「はい。その後のウォーリアー3は言葉を発することが困難な状態になっていました。」
「そうか………」
「すかさず私とウォーリアー3はその子どもに向けて発砲。それが庇った女に的中し女は死亡。…………」
「どうした?」
「…………そこからは、そこからは…………」
「…………あとは調査書通りの惨状ということか」
「…………はい。」
「よく、わかった。ゆっくり休め、処分は追って通達する」
局長と呼ばれた男は病室を後にする。
(【あのパンデミック】以降。数々各国で寄せられるようになったと言われる、超人的能力を発揮する人間…………現状各国はあまり鵜呑みにしていないようだが、現場の写真を見る限り、もしこれを子ども1人がやったのだとしたら。世界はこんな一民間組織に任せるのでは無く。もっと大規模に取り締まる必要があるんじゃないか?)
とある国の農村で起きた悍ましい事件。それは世界を震撼させる男の誕生の序章に過ぎなかった。
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