猫の集会
「最近絵空事屋の店先でクッキーを配ってますよ。ミルクがたっぷりで美味しいのなんの」
「薔薇園の主が5度目の命を終えて巡ったらしい」
「今回は長かったなあ。確か18歳超えてただろ」
「次は何処で6度目を迎えるのか」
「聞いたかい。茶白の旦那が嫁を迎えたらしい」
靑薔薇を一枝取って来いと所長に言われ研究所の裏にある庭へとやって来たら何やら賑やかな会話が聞こえて来て思わず足を止めた。時折来客と鉢合わせる事はあれど、大勢の声や気配を感じたのは初めてだった。背の高い薔薇の合間をそろそろと歩きいまだ会話の聞こえて来る方向へ進む。どうやら会話を続ける者達は庭の中央にいるらしい。庭の中央には四角く芝生が敷かれ、木製のガーデンテーブルと椅子が置かれている。庭に植えられた薔薇をぐるっと見渡せる良い場所だ。前に小さなお嬢さんと一緒にそこで茶会を開いた事もあった。などと思い出しながら覗いたそこにいたのは沢山の猫だった。
白、黒、茶虎に三毛。毛の長さも色々な猫達が思い思いの場所にいてくつろいでいる。そしてその猫達が人間の様に会話をしていたのだ。呆気にとられ、思わず後退った瞬間足元の石が擦れ音を立てる。猫達の視線が一斉に此方へ向けられた。ほんの数秒だろう。此方が動く前に猫達は逃げ出しあっと言う間にいなくなってしまった。だが一匹、闇の色によく似た黒猫だけが両前足を揃えて座っている。確か研究所に住み着いている猫だ。黒猫は私に歩み寄ると満月に似た金色の目で真っ直ぐ私を見上げて鳴き声を上げた。
……そう思ったが、私の耳に届いたのは『声』だった。
「皆まだ人間に慣れて無い奴等なんだ。気を悪くしないでくれ」
耳ざわりの良い、少し低い若い男の声が黒猫から発せられた。聞こえた声に混乱しつつもわかったと返せば満足したらしい。踵を返して研究所の方へと歩いて行ってしまった。……最近の猫は人の言葉を話せるのだろうか。
あまりに気になり靑薔薇を取った後所長へ一連の出来事を話してみるも「あれは8度目だ。喋るのは当たり前だろう」と簡単に返されてしまったので、もうそういう物なんだと割り切る事にした。
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