朔月の停車場行きの切符


「ごめんください、朔月の停車場への切符をください」

 月が夜の暗がりに隠れ星が一際輝く夜、研究所を尋ねて来たのは14、5歳程に見える2人の少年だった。これから旅にでも出るのか背中には何やら多くの荷物を背負っていて、何処かそわそわと落ち着きがない。そんな彼らの元に青い切符を持った所長が近づいた。

「二枚だな」

「はい」

「行先は決めているのか?」

 所長の問いかけに少年達は顔を見合わせてから同時に横へ首を振った。ふ、と笑ったような柔らかい吐息が所長の口から洩れる。

「ならば尚更良い。その切符は何処へでも何処までも行ける。今はまだわからずとも、行きたい場所へ辿り着けるはずだ」

 所長の言葉を聞き少年達は目を輝かせ、希望に満ちた表情で大きく頷いてそれぞれ手の中の切符を見つめた。

「良い旅を」

 送り出す言葉は簡潔だった。それでも少年達は元気よく手を繋いで研究所の入り口から外へ駆けて行く。その後ろ姿が見えなくなった所で所長は扉を閉めて此方へ近づいて来た。

「研究所で駅の真似事をするなんて聞いた事がないぞ」と言えば所長は何時もの仏頂面に戻って答える。

「『代理』をしているだけだ」

「代理?」

「新たな一歩を踏み出そうとする誰かへ、何処までも行ける切符を届ける駅長殿だ」

 随分と夢のある話だと感想を述べれば、彼は同意しながら少し優しい顔で笑っていた。

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