星宿の卵売り


「ごめんください。今月分をお持ちしました」

 時折研究所には卵売りの男がやってくる。白いローブを纏い、柔らかくウェーブのかかった淡い翡翠色の髪は歩く度にふわふわと揺れる。売るのはただの白い卵ではない。表面が星空のような卵だ。一体そんな卵をどんな鳥が産むのかと聞いたが、卵売りは「星雲の向こう側に生息する星宿鳥せいしゅくどりですよ」と聞き慣れない鳥名を答えるだけだった。籠いっぱいに入った沢山の卵を買った所長は、その一つ一つの表面をじっくり眺めては小さなラベルに何かを書いていく。書かれたラベルは何匹かのおもちがあっちこっちに散らばって揺り籠の様な箱の側面に貼り付けていった。箱の中へ入れられた卵は柔らかな綿に包まれている。

「……一等星に二等星?」

「卵の名だ」

「いちいち名を付けているのか」

 なんともマメだな、と言えば所長は少しだけ不思議そうに首を傾げ、深い靑色の瞳を何度か瞬かせる。

「名が無ければ孵化するまでの呼び名に困るだろう」


孵化するまで。

孵化した後ではなく、するまで。


疑問を問いかけるも所長は「何時かわかる」というばかりで答えなかった。

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