窓枠の『記録』
窓の外を眺めていたら、深い藍色の外を半透明の鯨が泳いでいた。良くわからない事が多いこの研究所であっても、流石に外を鯨が(それも半透明の)泳いでいたら驚く。二人分のアイスコーヒーとクッキーの盛り合わせを持って戻って来た所長に混乱したまま鯨が泳いでいたと伝えた。しかし彼の反応は思っていた以上に薄いものだった。
「窓枠を新調したのだが、元々海に沈んでいたものでな。時々『記録』が現実に重なって見えてしまうだけだ」
つまり私が見た鯨はこの窓枠がいつか見たもの。……文字だけの理解は出来たが、何処か納得が出来ない。世界と言うのはどれだけ学んでも知らない事で溢れているのだろう。精進せねば。
その後「この前は人魚が不思議そうに覗き込んでいた」と語った所長の一言で食べていたクッキーを噎せて、盛大にアイスコーヒーを零した事はあまりにも恥ずかしくて、いまだに誰にも言えない。
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