第69話 夏休み何するの?

 夏。それは多くの学生たちが待ち望む、長期休暇が含まれた季節。

 茹だるような暑さも、上半期における総決算である期末試験も、この夏休みがあるからこそ乗り越えられる。そんな日々勉学に追われ、登校を強制される学生たちにとっての、つかの間の休息。

 ついでに言うと、社会に出ると余程のことがなければ二度と体験できない、そんなレベルの長期休暇だったりするらしいのだが……。

 現在大学三年生。院に進む予定はもちろん、留年する予定もない俺にとって、あと二回しかない貴重な夏休みを──


「この夏はエロ絵を沢山描こうと思います」

「何でそれを私に言うのかな?」


 ある意味でドブに捨てようとしている俺がいます。なお、この大分アレな宣言を聞いた千秋さんからは、とても珍しいジト目が進呈された模様。


「遥斗君。セクハラって知ってる?」

「知ってるけど」

「今の台詞、世間一般的には十分セクハラ扱いされると思うんだけど」

「ハハッ。ビキニとエプロンで出迎えしたこともある芸人が抜かしよる」

「あっ、アレは違く……待って今私のこと芸人って言った!?」


 その後の顛末を含めて、あの時の千秋さんは芸人と表現して差し支えないと思うの。


「そ、それはともかく! 急にどうしたの遥斗君!? まさか欲求不満なの!?」

「普通に失礼なんだよなぁ」


 いやまあ、そんな風に思われても仕方のない言動ではあったのだが。それでもこう、もうちょい違った表現とかあったんじゃないの? 仮にも俺、キミの想い人なんですけど。


「まあステイステイ。ちゃんと千秋さんが納得できるよう説明するから」

「エッチな絵を描く宣言に対して納得したくないんだけど……」

「いやわりと切実な理由があるから」

「それはそれで嫌なんだけど」


 それはそう。でも話が進まないのでスルーします。


「まずこの夏なんだけど、俺はバイトがないです。理由は千秋さんも知っての通り、前のストーカー事件によるものです。あと税金対策」

「あ、うん。だからこの夏休みの間、決まった予定がないんだよね?」

「そう。つまり今月から来月に掛けて、一時的に定期収入が消えます」


 いやまあ、理由が理由なので実家からの仕送りも強化されるし、それを抜きにしても生活が苦しくならない程度の貯金はあるのだけど。

 それでもやはり、定期収入が消えるのは痛い。毎月決まった額が口座に振り込まれる安心感はデカイし、将来的なことを考えると貯金はできるだけしておきたい。

 もちろん、税金関係のことも頭の中から抜けていない。バイトを休む理由に税金対策が入っていることは百も承知である。

 ただ稼ぎすぎを警戒することと、一切稼がないことはイコールにはならないのだ。最低限、具体的には月五万ぐらいの収入は欲しいというのが本音である。


「そんなわけで、俺のもう一つの収入源であるイラストに力を入れなきゃなって思ったのね」

「……それでエッチな絵を描こうって話になるの?」

「そそ。やっぱりエロ絵って商業的観点で見ると大きいのよね。まあ、俺はプロってわけじゃないから商業云々を語るのはアレなんだけど。それでも支援サイトとかに対する導線としてはめっちゃ有用なの」

「……えーと、私はあんまりイラスト界隈に詳しくないかは分からないんだけど。いつも遥斗君が描いてるような絵じゃ駄目なの? アニメの絵とか凄い上手だし、SNSとかでも毎回バズってるよね?」

「その口ぶりからして、さてはお主見ておるな」

「そりゃもちろん。せっかくアカウント教えてもらったんだから。毎回最速でチェックして、いいねとリツイートもしてるよ」

「ありがとうございます」


 イラストの拡散に協力してくれるのは素直に助かる。収入源としてカウントされるようになってからは特に。


「それで話を戻すけど、健全絵についてはアレだよ。シンプル。別にそれだけでも悪くはないけど、差分としてエロ絵を支援サイトに貼っつけた方がお金になるじゃん」

「す、凄いぶっちゃけたね……」

「生活費……とまでは言わないけど、お金が絡んでるからね。そりゃシビアにもなるよ」


 商売と言うには細やかだし、かなり場当たり的なノリで動いてはいるが、それでも小遣い稼ぎの手段としてイラストを利用しようとしているのだ。

 商売特有の生臭さはどうしても出てくるし、考え方がそっち寄りになるのも当然であろう。


「そもそも俺、イラストに何かしらの拘りがあるわけでもないし。成り行きで始めたら、いつの間にかそこそこの人らから評価されるようになっただけだし」

「フォロワー十万オーバーは、『そこそこ』で片付けて良い桁じゃないと思うの……」

「かもね。まあアレよ。俺が言いたいのは、エロ絵を描くことに対する抵抗も、金儲けの方向に舵を切ることに対する抵抗も、特にないってことよ」

「まあ、そこは個人のスタンスってやつだし、私も口出しするつもりはないけど」


 あ、そう? こういう考え方って、人によっては受け入れられなかったりするから、若干身構えてたんだけど。特に今回、エロ方面も絡んでるから余計に。

 千秋さん、何だかんだで思考とかはちゃんと女の子してるので、嫌な顔の一つぐらいなら浮かべられてもおかしくないと思ってた。


「ただ、まだ分からないんだよね。遥斗君がわざわざ私に対して宣言した理由が。……はっ!? まさかエッチな絵を描くために、私をモデルにしたいとかそういう話!?」

「違うね。モデルとかネット探せばいくらでも出てくるし。そっちの方が手軽」

「目の前にいる方が手軽じゃない!?」

「てかイラストレーターって、大抵自分でポーズ取って資料にしてるし」

「そうなの!? 遥斗君もエッチなポーズとかする予定あるの!?」

「あ、俺はイメージだけで大体描けるタイプ。頭の中で人体模型を動かして参考にしてる」

「何か凄いこと言ってる!?」


 そんな凄くないよ。多分やってる人はやってると思うよ。他のイラストレーターの人と交流とかしてないから知らんけど。


「そ、それじゃあ、本当にさっきの台詞の意味って何? 遥斗君のキャラじゃないし、全く想像つかないんだけど……」

「いや単に、千秋さんがいる前で描いたりするかもだし。場合によっては、参考資料のために写真とか動画とかを調べたりなんてこともあるかもなので。いきなりでビックリしないよう、予め伝えておこうかなって」

「あの導入から信じられないぐらいマトモな理由だった……」


 最初からそう言ってるんですがそれは。







ーーー

あとがき



一巻発売から大体二週間が経ちました。皆さん、買っていただけましたでしょうか?


まだの人は買いましょう。本当に買いましょう。それだけで救われる命があるのです。

もう買ったって人は、周りの人に勧めましょう。布教によって救われる命もまたあるのです。


良いですか。書店で買うのです。ラノベが売ってるお店なら大体売ってます。書店が近くにない人は、通販か電子で買いましょう。


これは私のエゴであり、願いでもありますが、同時に作者とファンの皆様との共同作業でもあるのです。


本作を、この企画を次に繋げるために! 二巻を出すために! あわよくば、重版コミカライズアニメ化などメディアミックスに繋げるために!


この最新話まで読み進めてくれている皆様方の手で! どうか、どうかっ……!!



てことで買ってください。よろしくお願いします。

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