三章
第68話 ミーンミンミンミン
「……終わった」
パソコンの前で、小さく息を吐く。そしてグッと背中を伸ばして、一気に脱力。
「ふぅぅぅ。これでようやくゆっくりできる! マジで色々ありすぎなんだよ今期はさ……」
自然と零れ落ちる愚痴。ついでとばかりにフラッシュバックする、直近のアレコレ。いやはや、こうして思い返すと随分と濃い日々を過ごしたものである。
まず始めに千秋さんとの出会いがあった。今でこそ打ち解け、良い感じの距離感に落ち着いているが、最初は正体不明のストーカー。
何度も不法侵入してくるわ、存在を主張するが如くなんか家事をやり始めるわで、改めて考えるとまあ正気じゃない。……それを家事が面倒という理由で見逃してた俺が言えることではないが。
で、紆余曲折の果てに邂逅を果たし、そのまま家事手伝いとして公認して暫く。くだらないやり取りを重ねていく内に、すっかり俺も気を許してしまい、今では友達寄りの、友達以上恋人未満みたいな関係性になっている。
「まあ、千秋さんは良いんだけど。問題はその後だよなぁ……」
正確に言えば、千秋さんとの交流の途中に別問題が生えてきたわけだが。
それが【マリンスノーウェイトレス襲撃事件】。俺のバイト先の新人であった近藤さん(JK)に、推定三十代自称ライターのオッサンが懸想しストーカーが爆誕。最終的には包丁片手に店へと襲撃をかました大事件である。
いや本当、今思い返しても本当にクソ。オッサンが女子高生相手にガチ恋する時点で大分気色悪いのに、自己中拗らせてストーカー化するとか論外すぎる。……ガチ恋だけなら多様性だし、その後のアプローチ次第では万歩譲って目を瞑っても良いのだけども。
そんな存在自体が暴行罪のオッサンに付き纏われた近藤さんは、当然ながら日を重ねるごとにグロッキーに。近藤さんの安全のためにシフトを変え、ボディーガードの真似事をしていた俺も同様にストレスがマッハ。
で、挙句の果てに包丁を携えての店への襲撃である。店中がパニックになるし、店長は怪我するし、近藤さんはトラウマが心配になるレベルで怯えるしでもう大変。
俺は俺で立ち向かったら警察の人らにまあまあ怒られたし、ストーカーと対峙した時の動画がネットに拡散されてデジタルタトゥーが刻まれる羽目に。本当に誰も幸せになってない。
「……マジでまた腹立ってきたな」
しかもアレだからな。事件だけでもハチャメチャに苦労したけど、事後処理に関しても相当だったからな。
事情聴取とかでちょくちょく警察に呼ばれるし、店は事態が落ち着くまで臨時休業しなきゃだったし、家族には心配掛けるし、営業再開したらしたで無駄に人集まってくるし。
てか、マジでデジタルタトゥーがエグすぎる。ニュースや動画で見たからって来店してくんなよ。接客中に話し掛けてくんな。特にマスコミ関係者。取材とか言えば付き纏いして良い理由になんねぇから。家まであとを追ってこようとすんな迷惑考えろガチで。
おかげで当分バイト休む羽目になったし。話題が完全に沈静化するまでってことで、大体二ヶ月ぐらい。マージン取りすぎな気もしなくもないが、税金関係の問題もあってこうなった。つまり夏以降の繁忙期に扱き使われるってことであるクソが。
「……」
とは言え、悪いことばかりではない。そう思ってないとわりに合わない。
いや、実際お得な点もなくはないのだ。激動の日々を過ごしたせいか、いつの間にか七月に突入していたわけで。事後処理関係に目処が着いたあたりから、学業の方も佳境に入ることとなった。
まあ、つまるところ大学のテスト期間が迫ってきたのである。今までならバイトを休んだりせず、上手い具合にコストを割り振ってテストを乗り越えてきたのだが、今回は違う。
社会人なら休業と呼んで差し支えないレベルでの休みをもらえたので、勉学に励む余裕があるのだ。……まあ、持ち込みOKのテスト形式を取っている講義しか受講してないので、あんまり変わんないのだが。
それでもやはり、余裕があると違うのは事実。近藤さんの護衛モドキで休む羽目になった講義も多いのだが、総合するとプラマイゼロ、いやギリでプラスに傾くかなってところ。
特にレポートに割ける時間が増えたのは普通に助かるので、身体を張った甲斐もあったというもの。……いや、間違いなく割には合ってないのだけども。
まあ、ともかく。こうして最後のレポートを仕上げ、残るは持ち込みOKなクソ簡単なテストが二つ。
「ふぅぅぅ。今年は休みを満喫するかぁー……」
──人、これを勝ち確と言う。学生、いや人類が大好きと言っても過言ではない夏休みももう直ぐである。
ーーー
あとがき
そんなわけで三章突入。なお内容はない模様。……未だに細かい部分は考えてないからね仕方ないね。クソ短いのも仕方ないね。
そんなことよりも! 繰り返しの告知となりますが、私のお財布のためにもどうかお目こぼしを!
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