第67話 エピローグ
「まさか朝っぱらからしゃぶられることになるとは……」
「言い方ァ!? 私そんなことしてないからね!?」
「してるんだよなぁ」
人の指をおしゃぶりかのように舐め回してくれたでしょうが。それして許されるの、赤ん坊か犬猫ぐらいだからな? そこんとこ分かってる?
「千秋さん、流石に寝起き悪すぎじゃない?」
「いや、あの、その……。確かに朝は苦手な方だけど、いつもはあそこまで酷くないから」
「じゃあ、何で今日に限ってああなったわけ?」
「……寝るの遅かったんだもん」
「俺も同じ時間に寝たんですがそれは」
ついでに言うと、電気消して就寝体勢に入ったのが午前二時半ぐらいなので、なんだかんだ七時間ぐらいは寝てるんですが。
「……だもん」
「なんて?」
「私眠れたの五時前だもん! 明るくなってようやく寝れたんだもん!」
「寝付き悪くない?」
つまり二時間以上、ベッドの中でゴロゴロしてたってこと? どしたの? 昨日の日中にガッツリ昼寝でもしてたの?
「仕方ないじゃん! 男の子、それも好きな人と一緒の部屋で寝てるんだよ!? しかも遥斗君のベッドで! 緊張するし、遥斗君の匂いで落ち着かないしで、もう全然寝れなかったんだよ!」
「へー。俺は千秋さんがいても気にならなかったけど」
「釈然としないレベルで爆睡してたもんねぇ!?」
いやほら、昨日は疲れてたし。千秋さんがいても気にならないと言うか、むしろ一人じゃなかったお陰で安心できたと言うか。
「ともかく! 私はわりと寝不足気味です! だからさっきのことも仕方ないの!」
「それとこれとは話が別だけどね?」
「……仕方なくならない?」
「ならない」
普通の人は、寝惚けたところで他人の指をしゃぶらないのよ。たとえほっぺた突っつかれて、口元に指があったとしても。
「……もうお嫁にいけない」
「嫁にいく以前の問題だと思うの。幼児退行って」
「そこは『俺がもらうから気にしないで』って言うところじゃないの!?」
「一晩明けたらテンション戻ったね千秋さん」
「だってもう遥斗君も元気じゃん」
「清々しいまでの切り替えの早さ」
確かに一晩ぐっすり寝たし、元気ではあるけども。それにしたって、普段の言動に戻るの早すぎやしませんかねぇ……?
正直なことを言わせてもらえば、昨日のマトモな千秋さんをもっと見ていたかったのだけど。
「まあ、それはさておき。千秋さんに一つ訊きたいんだけどさ」
「何でしょう?」
「いや、寝起きの姿をガッツリ晒してるわけだけど。身嗜みとか整えなくて良いの?」
「……もう私本当にお嫁にいけない」
あ、コラ。せっかく起きたんだから、また布団の中に篭ろうとしないの。恥ずかしいのは分かったけど、泊まった時点で覚悟できてたことでしょう。
「もうすぐ夏だってのに、ミノムシみたいなことしてんじゃないよ……」
「遥斗君には分からないんだよ! もう、今日は朝から散々なんだけど!」
「全部千秋さんの自爆でしょうが」
はぁ。本当にこの残念娘は……。昨日の今日で変わりすぎだってマジで。
ま、仕方ない。俺はもう今日完全オフって決めてるし。気が済むまで千秋さんの好きにさせとくか。……千秋さん側の予定については知らんけども。
そんなことより、スマホのチェックだ。起きて早々慌ただしかったせいで、SNSとかチャットとかまだ見れてないんだよね。
事件の翌日だし、何かしら連絡とか入ってないか確認せねば。
「……えーと、これは……うん。当分の間、店は休業か。ま、これは仕方ない」
「え、マリンスノーお休みなの?」
「あ、出てきた。まあ、そりゃそうでしょ。あんだけの騒ぎ起きたんだし。店長も怪我しちゃってるし」
「それはそうなんだけど……。いきつけのお店がお休みなのは普通に困る。何時までお休みとか言えたりする?」
「残念ながら未定です」
「そんなー」
「こら潜るな潜るな」
ショックだからって首を引っ込めるんじゃないよ。顔出したんだから、そのまま布団から出んしゃい。亀かキミは。
「あとは……近藤さんか。今日会えますか、ねぇ」
「近藤さんってあのJKの子?」
「また出てきた。そうだよ。改めて今日お礼がしたいんだと。家族も含めて」
「……むぅ」
「何その反応」
「嫉妬」
「あら素直」
包み隠さず言っちゃうのね。こういうのって誤魔化すのが普通だと思ってたんだけど。
「だってさー。言い方は悪いけど、その子が全ての元凶なわけでしょ? 遥斗君を巻き込んで危ない目に遭わせた以上、やっぱり私としては印象良くないし」
「そうは言ってもねぇ。相手が予想以上のクソ野郎だったことが判明したわけだし。あれ以外の対応をしてたら、間違いなく取り返しの付かないことになってただろうから……」
「それはそうなんだろうけどさぁ……」
千秋さんの言いたいことも理解できるが、人命を第一に考えるとね。仕方ないで済ませるしかないだろうさ。
「でもやっぱり、私としてはモヤッとするんだよ。……あと、乙女の勘が凄い反応してる。正直、会ってほしくない」
「乙女の勘とな」
「うん。絶対その子、遥斗君のこと好きになってるもん。そういう意味でも会ってほしくない」
「んなわけ」
近藤さんが俺に? ないない。そりゃ確かにストーカーから守りはしたが、過程がアレすぎるって。正当防衛とは言え、銀トレイを顔面にフルスイングする男とか怖すぎるでしょ。
「分かってないなー。わりと女の子って、荒い男に惹かれたりするよ? ましてや、それが自分を守るためだったらさ。もうキュンキュンだよ」
「危ないところを助けて惚れられるとか、漫画の中だけだと思うけど」
「でも憎からず想ってないと、あそこまで遥斗君のこと頼りにしないでしょ。最初は流れだったかもしれないけど、後半はもう専属ボディーガードってレベルでベッタリだったじゃん」
「言い方」
まあ確かに、続けていく内に近藤さんからの信頼が篤くなっていくのは感じてたけど。
でも自分で言うのもアレだけど、そもそもからして俺って近藤さんからの好感度高かったわけだし。最初からダメ元でモーション掛けられるぐらいだったのだから、そこから信頼度が上がったところで……あれ?
「……」
「ほらぁ! やっぱりちょっと心当たりある顔してるじゃん! 普通に考えたら分かるじゃん! どう考えてもガチ恋案件だからコレ!」
「いやいや。まさかー……」
「遥斗君、自分のやったこと理解してないの!? 相手は女子高生だよ!? ストーカーに狙われて怖くて堪らない日々! そんな中で寄り添ってくれる年上の男性! 文句も言わずに世話を焼いてくれて、自分の身を案じつつ、犯人には強い憤りを示してくれる絶対の味方!」
「お、おう……」
「しかもしかも! 真に危ない時は、身体を張って守ってくれる! それをちゃんと証明してくれた! しかもここぞって場面で! 言っちゃなんだけどこれ毒だよ!? その子の男性観、バッキバキにぶち壊してるからね!? 正直アレだよ!? 遥斗君が相手じゃなかったら、同情して色々協力するレベルだよ!? 結婚して責任取らせるレベルだから!」
「そんなに!?」
顔見知りかつ、年上の男として当たり前のことをしただけなのに!? それで結婚とかさせようとしてくるの!? 俺そこまでやべぇことやってないよ!? 普通のことしたやってねぇよ!?
「だから私は会ってほしくないんだよー! ある程度時間が経って、冷静になってもらわなきゃ困るもん! 最悪出会い頭に抱きついてからのキスとかあるもん!」
「漫画の見すぎだって千秋さん! そんなこと普通ないから!」
「遥斗君は現実見なさすぎ! 少女漫画のヒーローみたいなことやってるんだから、そりゃワンチャン少女漫画展開あるに決まってんじゃん!」
いやいやいや。いやいやいやいやいやいやいやいや。流石にそれはないでしょ。……ないよね?
「でもさ。でもよ? 百歩譲って、いや万歩譲ってその可能性があったとしても、お礼したいって言われてるのに会わないってのは普通に駄目では? 特に今回の場合。ことがことだし」
「それは分かってるの! 断るのが道義的にアウトなのは分かってるし、そもそも私のワガママでしかないのも理解してるよ! でもやっぱり嫌だよ! せっかく遥斗君が歩み寄ってくれたのに、このタイミングでライバル出現とか普通に嫌!」
「……これは独占欲と言うべきなんだろうか」
いやでも、わりと言ってることは間違ってないと言うか。正当性を感じなくもない気がするのが……。
「まあ、お誘いはしっかり受けるんだけども」
「なーんーでー! なーんーでー! 遥斗君がそういうことする人なのは分かってるけど、それでもやっぱりなーんーでー!?」
「向こうのご両親からもお礼したいとのことだから。親としても、大人としてもそこら辺のケジメはつけたいよなって理解できるから」
「反論できないレベルでの正論! そして向こうのご両親公認になりそうで本当に嫌だよー!!」
「埃が舞うからそれストップ」
ミノムシまでは許容するけど、ダンゴムシに進化することは流石に許さないからね? ……ちょっとー? 転がるなって言ってんだけどー?
「てか、個人的な感想を言わせてほしいんだけどさ」
「……なに?」
「近藤さんは高校生。付き合いはバイトだけ。対して、千秋さんは大学生で同年代。ガッツリ私生活にまで侵食してるし、部屋にも入り浸ってる。で、遂にはお泊まりすら解禁。……これだけリードしてるのに、ライバルだーって警戒するのどうなの?」
「……」
普通に考えて、圧倒的に有利なのは自分なんだから、そこまで悶々とする必要とかないと思うんだけど。
「もしかして自信ないの?」
「……理性と感情は別なんだよ遥斗君。誰だって横恋慕されたら不愉快になるでしょ?」
「そこで膨れっ面になって不満を零すのと、こなくそって奮起するのとでは、大分印象が違うよねとだけ言っておく」
「……やっぱり遥斗君ってズルいと思う。そう言われたら反論できないじゃん」
「惚れた弱味に付け込むような男なので。それともやっぱり自信ない? 不満は余裕のなさの裏返し?」
「むー! やっぱり遥斗君ずーるーい! ずーるーいー!」
ははは。不満があるならオトしてみせなよ。そうすれば千秋さんだって、惚れた弱味を使えるんだから。
ーーー
あとがき
昨日は気圧で死んでました。
ま、それはともかく。これで二章は終わりかな? 続きは三章。詳しい部分は第二巻を出せたら、かな?
はい、そんなわけで! 二章の追加エピソードが読みたい方は、昨日発売された第一巻を買って応援してください! 売上げでもって編集部様を殴るのです!
電子ならお手元の端末で! 書籍なら全国の書店(ラノベが売ってるお店)なら大体あるよ! 是非是非お買い求めぐたさいな!
あとついでにハート、コメント、星もください。特に星。もうすぐ一万の大台に届くので。……ま、一番は商業版を買っていただくことなんですがね?
ということで、買ってくださいお願いします!!!!
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