第66話 朝つん
「……ん、ふぁぁ……」
目が覚めた。朝である。のそりと起き上がって伸びをする。床で寝てたからか、若干身体が固くなってる気がする。一応、来客用の布団を敷いたんだけど、薄かったか。やっぱり安いのは駄目だな。
「っ、んんんー!」
コキリと首を鳴らしつつ、横を、普段俺が使っているベッドの方に視線を向ける。するとそこには、締まりのない顔で幸せそうに眠る千秋さんの姿が。
「……なんつーアホ面」
寝起きなのに、危うく大声で笑いそうになった。それほどまでに、千秋さんの寝顔はだらしがなかった。
まあ、仕方ないことではある。なにせベッドに叩き込むまでに一悶着があったのだ。
夜遅くまで、一緒にサブスクサイトの映画を観て。さてそろそろ寝るかとなったタイミングで発生したのが、千秋さん何処で寝るのか問題だった。
最初は普通に来客用の布団で寝て貰おうかと思っていたのだが、引っ張り出して確認してみたところ、予想以上にペラかったのが全ての始まり。
一人暮らしを始めるにあたって、念のためと用意した来客用布団であるが、どうせ泊まるやつなど男友達だろうし、そこまでリソースを割くのもなぁと妥協したのが原因である。
しかしながら、蓋を開けてみれば初お泊まりは千秋さん。それもこちらから泊まってほしいと頼んだ手前、ペラペラの布団で寝てもらうのは気が引けた。……ほぼ死蔵状態だったこともあって、防虫剤の匂いも凄かったし。
そんなわけで、千秋さんには俺のベッドで寝てもらうことを提案。普通の女子なら勧めるのも迷ったが、千秋さんなら俺のベッドで眠ることに抵抗ない、いやそれどころか喜びかねないこともあって、妥当な選択かなと思ったのだが。
千秋さんがまさかの反対。理由は俺が家主なのと、今日の疲れを癒すためにもしっかり休んでほしいと、強く訴えてきたのである。
主張は互いに平行線。すったもんだの議論の末、恨みっこなしのじゃんけん勝負で決着を付ける方向に決定。で、俺が勝利し、千秋さんをベッドに叩き込んだのである。
ちなみにだが、ラブコメでありがちな一緒のベッドで云々という意見はなかった。季節的に同じベッドは単純に暑いし、千秋さんレベルの美少女との同衾は精神的にキツイ。流石に間違いを犯すことはしないが、それはそれとして眠れない。
千秋さんもそれには同意見だったようで。ちゃんと休ませることを考えると、同衾などもってのほかと判断したのか、微塵も提案する素振りは見せなかった。……普段の千秋さんなら秒で提案してたと思う。
そんなこんなで、ある意味で長い夜を過ごしていたのだが──。
「千秋さーん? 爆睡してるところ悪いんだけど、そろそろ起きなー? もう良い時間だから」
現在は朝である。時間的には午前十時を過ぎた頃なので、なんならもうすぐ昼なのである。
夜更かししようと誘ったのはこちらであるのだが、流石にね? いや、別に昼近くまで爆睡することを悪いとは思わないし、俺も俺で休日とかもっと遅く起きたりすることもしょっちゅうではある。
とは言え、千秋さんは他所様の娘さんなので。普段どんな風に過ごしているのか分からない以上、世間一般のそれを基準にして行動するのが無難だろう。
「……んんっ、んー?」
「おーい? 千秋さーん?」
「……あ、はるとくんだー。なんでいるの……?」
「それは千秋さんが俺の部屋に泊まったからだねー」
「とまった。そうだっけー……?」
「ぽやぽやしてんなぁ」
もしかして千秋さん、寝起き悪い系の人だったりする? 何か思ってた以上に思考が惚けてるんだけど。
「ほら起きなー。もう十時ですよー」
「……まだねむい……」
「眠そうなのは知ってるけども」
「はるとくんも、いっしょに、ねよー……」
「おいオチるな。起こした途端にまた寝ようとすんな」
「んー!」
「んな布団バッサバッサしても寝ないから。スペース開けなくて良いから」
何で夜中に寝床を別にしたと思ってんですかねぇ。二度寝で一緒にするわけないだろ、常識的に考えてさ。……寝惚けてる人に常識もなにもないんだけど。
にしてもそっかぁ。千秋さんこういう系の人かぁ。意外……いやそうでもないか? なんか反応に困るな。
基本的な言動はふざけてるし、端的に言ってアレな人ではあるけど。変なところで真面目だし、家事とか進んでテキパキやってくれるので、しっかりしてる部分もなくはない。
そんな人なので、今の状態はイメージ通りな気もするし、イメージと違うような気もする。……まあ、千秋さん自身が美少女なので、見てる分には目の保養なのだが。
「……」
しかしながら、こうも無防備なところをマジマジと見るのも悪いなぁと思わなくもない。
俺視点では高評価なアレコレも、千秋さん側からすれば見られたくないものである可能性も高いし。
いや本当、愛らしいとは思うんだけどね? ぽやほやした雰囲気とか、呂律も回らずだらしなくなった口周りとか。寝癖でちょっとボサボサ気味の髪とか。……あと程々に着崩れた寝巻きとか。
これはあんまり直視するのはよろしくないけど、やっぱり俺も男なので。どうしてもチラチラ目がいってしまうのはご愛嬌だろう。どうせ千秋さんなら許してくれるし。
まあ、ともかく。千秋さん自身の名誉のためにも、さっさとシャキッとさせてあげた方が有情かなって。……千秋さんに名誉が残ってるどうか一旦脇に置くとして。
「ほら起きろー。ほれほれ」
「……んー! つっつかないでぇ……」
「目を醒ますまで止めません。……にしても千秋さん、思ってたよりほっぺたもちもちだな」
「んー! ……んっ!」
「は?」
え、待って。いきなり指咥えられたんだけど……。
「はむ……ェろ……ちゅチュッ……ん?」
「……」
「ひゃる……ぇ、なん、……ふぇ!? 遥斗君なにやってんの!?」
「こっちの台詞なんだけど。ナニしてくれてんの千秋さん」
「言い掛かり!?」
「言い掛かりじゃねぇわい」
朝っぱら……ってほど朝じゃないけど。寝起きからマジでなんてことしてくれてんだ心臓に悪い。
ーーー
あとがき
エピローグにすると言ったな。アレは嘘だ。……単に入りきらなかっただけです次で終わりにします頑張ります。
なお、夜中のアレコレはあえてのカット。読みたい人は、一巻を買って続刊やら重版やらをさせてください。そしたら糖度マシマシのいちゃいちゃを書きます。
それはそうと、ついに本日! スニーカー文庫様にて本作の第一巻が発売となります!
全国の書店(ラノベが置いてあるお店)なら多分あります! ですのでどうか買ってください! 電子でも買ってください!
また特定店舗で購入いただいた場合、特典SSがついてます! さらにメロンブックス様、ゲーマーズ様ではオリジナルタペストリー付きの限定版も!
そんなわけで皆様、買って!!!!!!
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