第64話 千秋の不覚
唐突に普段のテンションに戻り、暴走を始めた千秋さんをなんとか宥めた後。
正気に戻った千秋さんから、家に連絡だけさせて欲しいと言われたので、どうぞどうぞと一旦席を外すことに。
「──あ、お母さん? 今日なんだけど、ちょっと友達のところに泊まることになったから。……うん、バイト先のトラブル、かなり大変だったみたいで。心配だから付き添う感じ。あ、じゃあよろしく。お父さんにも伝えておいて。それじゃあね。はいはーい」
で、連絡を終えて今。千秋さんがスマホを耳から外したことを確認し、再び部屋に戻る。
「大丈夫だった?」
「うん。お母さんからちゃんと許可取りました。これでお泊まりできます!」
「それは良かった」
いや本当に。恥を忍んで頼んだ側としては、ありがたい限りではある。
ただそれはそれとして、よくもまあ年頃の娘さんが、男の部屋に泊まることを許されたなという気持ちもある。彼氏ならともかく……いや彼氏でもワンチャン却下されるのでは?
まあ、離席中に聞こえてきた内容から、千秋さんも馬鹿正直に俺のことを伝えてるわけではなさそうだけど。
「ちなみに確認したいんだけど、俺のことは千秋さんのご両親的に何て説明したの? 素直に伝えてる?」
「いや伝えてない。流石に男の子の家に泊まるとは言えないから、女の子の友達ってことにしてる。今日こっち来た時も、友達がバイト先で大変な目に遭ったらしいから、様子見に行くって言って出てきたし」
「ほーん。まあ、それもそっか」
流石に千秋さんのご両親も、能天気に知らない男の家に泊まらせるような人物ではなかったか。……普段の千秋さんの言動、遺伝の可能性もゼロじゃなかったから気になってたのよね。
「あ、あとこの際だから聞いちゃうけどさ。千秋さんのご両親って俺のこと認知してるの? 認知してるにしても、どんな感じ」
「あー、いや、その、ね? ほら、私たちって出会いが出会いだから……」
「まるで俺にも非があるような言い草」
「……ゴメンなさい」
まあ、言いたいことは分かった。自分のストーカー行為が切っ掛けだからか、そもそも存在自体をご両親には伝えてないらしい。
それでよくこの頻度で訪ねてこれるな。いやまあ、バンドの練習やらで誤魔化してるんだろうけども。
ともかく。俺のことは千秋さんのご両親も知らないと。若干ホッとする。俺たちの関係性って、露見したらどちらか片方、場合によって双方ともに怒られが発生するアレなやつだし。
千秋さんは犯罪行為をしたので言わずもがな。そして俺は俺で、千秋さんの好意を盾にして、無報酬でこき使ってるクソ野郎だし。
双方ともに納得の上での関係性ではあるものの、やはり客観的に見ると大分アウト寄りなので、千秋さんが上手く誤魔化してくれているってのは朗報だった。
「とりあえず、知られてないなら問題ないよ。少なくとも今のところは」
「……それはつまり、いつかはお母さんたちと顔合わせする予定、ってこと?」
「何でそうなる?」
どうして今の会話の流れから、ご両親に紹介される状況まで飛躍させられるの? 違うよね? 明らかに最悪を想定してる系の会話だったよね?
決してそういう話じゃないから。伝わり方によってはガチ謝罪案件だから、頭の片隅に記憶しておこうってことだから。
「……ゴメン。本当はそんなこと言うつもりじゃなかった。遥斗君の体調とか、精神とかを第一に考えなきゃいけないのに……」
「急にガチ凹みするじゃん」
「だって私、今日は重病人を看病する気持ちでここに来たんだよ!? それなのにこんな自分の欲望を優先するようなこと……!」
「意識が高い。そして扱いがまあ過剰」
「うぅっ、駄目だって分かってるのに! それでもついやっちゃうの! さっきの遥斗君の姿がフラッシュバックして、身体が勝手に動いちゃうの!」
「どういうことなの?」
そんな理性を蒸発させるようなこと言ったか俺? クソダサいことしか言ってない気がするんだけど。
いやだって、アレまとめると相当酷い内容だし。つまり『怖いから一緒に寝て』とお願いする幼児と同じだし……。幻滅されることこそあれど、そんなヒートアップさせる要素なんて皆無だろ。
しかも素直にお願いせずに、前半部分で挑発っぽいことを混ぜるオマケ付きだし。いくら羞恥心を誤魔化すためという目的があっても、やられた側からすれば堪ったもんじゃないだろう。
「遥斗君は分かってない! 好きな人、それも何でもできちゃう系のハイスペ男子がふとした拍子に見せる弱った姿! これにキュンとしない女の子はいないんだよ!?」
「ア、ハイ」
「漫画やアニメでもそうでしょう!? ギャップだよギャップ! 自分の前でだけ、弱った姿を見せてくれる! それだけ信頼されてるって言う特別感! これがどれだけ衝撃か!」
「あー、千秋さん?」
「それを私は真正面から食らったの! しかも無自覚で! 遥斗君はあざとい! あざとすぎるよ!」
「千秋さん、千秋さん」
「何かな!?」
「寝る準備もしなきゃだし、ついでに頭を冷やした方が良いだろうから、千秋さんも風呂入ってきなよ」
「……」
「下着もそうだったし、着替えもどうせここに持ち込んでいるんでしょ? もしパジャマとかがないのなら、俺の部屋着適当に使って良いからさ」
「……そうさせていただきます。またやっちゃったぁ……」
凄い落ち込みながら風呂の準備を始める千秋さん。今日はもうありありと見せ付けられたが、本当に変なところで真面目な人である。普段の言動はアレなのに。
ーーー
あとがき
隔日更新を希望するコメントが多かったので、そのようにして行こうと思います。
あ、あと宣伝のために総合週間ランキングに載せたいので、皆さん高評価お願いします。星やらハートやらいっぱい付けて。
あと当然ですが、書籍の方も買ってね。予約は既に可能なはずだから。
それじゃあよろしくぅ!
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