第61話 シルキーがいた理由
「あービビった。本当にビックリした。泥棒かと思ってガチで焦った」
「そんなビックリすることある……? そりゃ確かに今日は来れないって連絡したけどさ」
「今日地獄みたいに忙しかったんだよ。千秋さんは知らないかもしれないけど、警察のお世話にもなったんだから……」
「それだよ! 私が来た理由それ! 大変だったんでしょ!? 大丈夫だった!?」
「え、何で千秋さん知ってんの……?」
「いや凄い騒ぎになってたからね?」
そう言って千秋さんがスマホを出してきた。で、確認するとなんとビックリ。今日の一件が既にニュースになっていた模様。
見覚えのある店の写真。そして心当たりのありすぎる記事の内容に溜息が止まらない。
しかもそれに加えて、SNSの方でも話題になっていると言うのだから堪らない。なんでもあの場を録画していた人間がいたそうで、その動画がアップされて現在進行形で拡散されているのだとか。本当に止めて欲しい。
「ほらこの動画とか見てよ。これ遥斗君でしょ? SNSで急にこれが流れてきて、本当にビックリしたんだから! それで調べたら凄いニュースになってるし、もう心配で心配で……!」
「なる、ほど」
まあ、確かに知り合いが事件に巻き込まれたとなれば、予定を変更してでも駆け付けたくもなるか。ましてや俺アレだし。自分で言うのもどうかと思うが、一応は千秋さんの想い人だし。
相変わらずの変な関係性ではあるが、こうして駆け付けてくれたことは素直にありがたいし、とても嬉しく思う。今日ばかりは、千秋さんの聞きなれた声が心地良い。
とは言え、この不意の遭遇で余計に疲れたのも事実。文句はないが、しくったなって感じ。カテゴリー的には千秋さんは十分身近な人物ではあるし、先んじて連絡とかしておけば良かった。
いやだって、もう知られてるとは思わなかったからさ。家族とマリンスノーのメンバーとだけやり取りしてて、完全に後回しにしてたのが裏目に出た形だ。……明日あたりにチャットで教えれば良いやって思ってたんだが。
「それでもう一度訊くけどさ。遥斗君、大丈夫だった? 怪我とかはしてない?」
「そこは大丈夫。見ての通りピンピンしてるよ。返り討ちにした動画も出回ってるんでしょ?」
「それはそうだけど! こういうのは自分の目で確認しないと安心できないじゃん! ……本当に心配したんだよ?」
「……みたいだね」
声音で分かるよ、それぐらい。長い付き合い……とまでは言えないけど、濃い付き合いはしてきたから。
出迎えられた瞬間の表情だってそうだ。あの時の不安と安堵が綯い交ぜになった表情は、多分だけど当分は忘れられないと思う。
すわ泥棒かと警戒していたし、千秋さんが出てきた時はドッと疲労が押し寄せてきたし、本来いないはずの人物がいたことに驚きはしたけれど。
──それでもホッとしてしまったんだ。出迎えてくれたあの瞬間に、自分は無事に帰ってきたんだと安心してしまった。
「……千秋さんは本当に残念だよね」
「待って何で唐突にディスられたの私!? 私、今かなり真面目な話してたよね!? ディスられる要素まったくないよね!?」
「ないよ。ないからしみじみ思ったんだよ。何でこうも好感度上げてくるかなって」
「いや意味が分か……え、好感度?」
何か千秋さんに二度見されたけど、それを無視して部屋に上がる。あまりのことで玄関に留まってしまっていたけれど、気分的にはさっさとやることやって休みたいのだ。
「え、待って遥斗君。好感度って何? 上がってるの? 好感度、本当に上がってるの?」
「そりゃそうでしょ。千秋さんは俺のことどう思ってるのさ? 心配されて嬉しくない人間なんて、滅多にいないんじゃないの」
「じゃあやっぱり残念がられる謂われなくない……?」
「だって今日の千秋さん、普段のアレコレが嘘なんじゃないかってぐらいに良い女なんだもん。本当、出会い方が出会い方じゃなければなぁ」
「ふぇ? ……えっ!?」
「ははっ。何その反応」
キョトンとしたと思ったら、面白いぐらい赤くなるじゃん。ちょっと褒めただけなのに、耳まで真っ赤っか。
「ど、どうしたの遥斗君!? やっぱりどっか怪我した!? もしかして頭とか打った!?」
「何でそうなるのさ。俺にしては珍しく褒めたのに」
「だからですけど!? いっつも話半分であしらってくるのに、今日は意味不明なぐらいファンサしてくるじゃん! そりゃ驚くに決まってるって」
「ファンサて。てか、驚いてるわりには反応薄いね。普段の言動的に、てっきりもっとテンション上げて騒ぎ出すかとばかり」
「うん、そうしたいのは山々なんだけど、動揺しすぎてそれどころじゃない。あとその、無自覚に頭とか打ってるんじゃないかって不安になる……」
「俺そこまで千秋さんのことぞんざいに扱ってたか……?」
こんな警戒心MAXになられるのは予想外なんだけど。あと、頭の異常を何度も確認されるのはかなり釈然としない。そんな塩対応してるつもりないんだけど。
「いや、あのね? 遥斗君が褒めてくれたのはとっても、とてもとても嬉しいんだけどさ。今日って大変だったわけじゃん? それこそ命に関わるようなレベルで。それで普段とは正反対な言動をされるとね……遥斗君の身体に、悪い意味で何かしらの変化が起きてるんじゃないかって、心配の方が勝っちゃうんだよね」
「……あー、なるほど?」
こういう時は、普段通りじゃないと逆に心配になると。そう言われると分からなくもない。
ただやはり意外だった。普段の千秋さんを知ってるが故に、予想してた反応と違うと凄まじい違和感が湧き出てくる。こんな徹底的に心配されるとは思ってもみなかった。
「……うーん。やっぱり惜しいよね千秋さんって」
「あ、まだ言うのね。いやまあ、遥斗君も割と悪ノリする方だし、ある意味じゃいつも通りなのかな……?」
「いや、そういう感じじゃないんだけど……」
まあ、いいや。ここで補足するのはやめておくか。強く主張するのは何か違う気がするし、この空気感じゃ誤魔化しみたいにしか伝わらないだろうし。
「んー、アレだ。千秋さん、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど」
「ん? 良いよ。私にできることは何でも言って。今日は遅くなっても大丈夫だから」
「じゃあお言葉に甘えて。俺、今から風呂入っちゃうからさ。ちょっと代わりに晩飯作っといてくれない? 冷蔵庫にあるの適当に使って良いから。流石に今日は料理作る気力なくてさ」
「はいはい。りょうか……え?」
「良い機会だし、千秋さんの手料理を食べたいかな」
「……えぇっ!?」
ーーー
あとがき
遅れました。正確には、お知らせがあるのでズラしました。
で、その内容なのですが。本日六時から、公式様より本作の書影が公開されております。
興味がある方は是非ともご確認ください。あゆま紗由先生の素晴らしいキャラデザが見れますよ。
また、書店では購入特典がございます。とらのあな様、メロンブックス様からは書き下ろし限定タペストリーが。
さらに他の店舗でも、特典用SSが付いてくる場合がございますので、気になった方は是非とも検索してください。
ということで、よろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます