第51話 お主ナニモノ
「……この際だから訊いちゃうけどさ。遥斗君って何してた人なの?」
「はい?」
千秋さんを宥めるために、護身ぐらいはできる……気がすると伝えたところ。とても釈然としない表情を浮かべながら、そんなことを訊ねられた。
「何してた人と言われても……。アルバイトしながら一人暮らししてる、普通の大学生?」
「いや、うん。そうなんだろうけど、そうじゃなくて。実は学生時代にスポーツやってましたー、とか。そんな経歴的なね?」
「え、特にないけど。中高は帰宅部だし、習いごととかも別に。中学の時に塾ぐらいかな?」
「……スポーツの経験は? 特に格闘技とか」
「なし。体育ぐらい」
「全国優勝できるとか言われるレベルなのに!?」
「それは勧誘用のリップサービスみたいなもんだから……」
勧誘してきた柔道部顧問曰く、専用メニュー組みつつ筋トレして身体造ればワンチャンあるぐらいのニュアンスだったし。あとは成長曲線次第とも。
つまり強豪部特有のガチ練習+αで専用メニューを一年。さらに並行して筋肉モリモリマッチョメンになる必要があるということ。
どう考えても無理だろこんなの。肉体的にはできたとしても、精神の方がもたないって。俺別に柔道好きでもないし。
「運動全般に適性あるのは認めるけど、練習漬けしなきゃガチ勢には敵わないレベルだしなぁ。才能は微妙じゃない?」
「どこがよ。全国には練習漬けしても全国区に届かないスポーツマンが山ほどいるんだよ……? てか、柔道に至っては日本のレベル的に、世界にも通用するかもだからね?」
「やけに柔道詳しいね」
「お父さんが好きでね……。ご飯の時とか観てたから、自然と詳しくなっちゃったんだ」
「その言い方からして、チャンネル争奪戦に負けてた口だ」
若干遠い目となってるところを見るに、詳しいだけで好きというわけではないのだろう。子供の頃のチャンネル争奪戦は、地味に将来に影響するからな……。
野球中継のせいでアニメやドラマが観れなくて、野球自体に悪印象を持つという話も聞くし。
「まあ、才能云々は見解の相違かなって。俺的には、最低でも年単位、場合によっては人生レベルで打ち込める熱意も含めて才能だと思ってるから」
「そうなの?」
「そうだよ。途中で苦痛になって投げ出したら、いくら上達しても意味ないでしょ。で、俺はそういうタイプ。特に運動系はね。遊びでやるなら楽しめるけど、本気でやれるほど熱意もない。ガチで競い合うほどの根性もない。だって疲れる」
「あー。遥斗君ってそういうタイプだよねぇ……」
別に斜に構えているわけではない。ただ運動がそこまで好きじゃない……いや嫌いというわけでもないんだけど、ともかくそういうことだ。
なので総合的に考えると、大きく見積もっても上の下ぐらいの才能じゃないかなと個人的に思っている。センスはある方だと思っているが、継続する才能はそこまでかなって。
「大抵はやればできるタイプだけど、ガチ勢には基本敵わないしなぁ」
「それでも遥斗君の証言が本当なら、大概ヤバい才能マンじゃない……?」
まあ否定はしない。かなり贅沢なこと、それこそスポーツやってる学生なら噴飯ものの台詞を吐いてる自覚はあるし。
ただやはり、『好きこそ物の上手なれ』なのだ。好きでもないものは、センスがあっても上達しない。少なくとも、超一流には届かない。
「あ、じゃあさじゃあさ。アレはどうなの?」
「アレって?」
「ほら、遥斗君よくパソコンで絵描いてるじゃん。あれって好きでやってるんでしょ? なら結構凄いことになってないの? チラッと目に入った絵とか、めっちゃ上手かったし」
「あー、イラストか。確かにアレは続いてる方だね。ただイラストはイラストで好きってほどじゃ……」
もちろん、楽しんでいるから描いてはいるのだが。それよりもネット上の反応に釣られているのと、収入に繋がり始めたせいで辞め時を失っている側面の方が大きかったり。
そもそもイラストを始めたのだって、親戚からもらったペンタブを活用しようと思ったからだし。
「まあ、結果は出てるから、今までのアレコレよりは長続きするだろうけど」
「へー? 結果ってどんな?」
「んー、近藤さんにも話したし、千秋さんならいっか。えーと、SNSのフォロワー十万超えた」
「……思ってたよりエグいのが来たなぁ」
まさか千秋さんに頭を抱えられるとは。なんか若干釈然としない部分がある。
「え、あの、それマジなの? 私たちのバンドのアカウントよりフォロワー多いんだけど……」
「そうなの? いくら」
「えっと、私たちは大体二万ちょいかな」
「……ほん?」
「あっ、少なって思ったでしょ!? これでも多い方だからね!? ……多分」
「多分なんだ」
いや、バンド界隈の平均フォロワー数とか知らないからアレだけど。
ただ個人的には、千秋さん含めてアバンドギャルドって全員顔が良いし、もっと人気あるんじゃないかと思ってた。アイドル的なノリで。
「良いんですぅ! これから大きくなるんだから! 遥斗君なんか直ぐに追い越して遠く行っちゃうもんね! その時に寂しくなっても知らないんだから!」
「ネットでいくら遠くに行っても、どうせリアルじゃ離れないんだから寂しいもなにも……」
「今未来でも一緒にいること認めた?」
「なんでそうな……あれそういう意味になる?」
「遥斗君好きです! 付き合ってください!」
「かっ飛ばしすぎでしょ」
失言だったのは認めるけど、それはそれとしてもうちょい会話の流れとかを意識してくれと思うわけですよ……。
「あ、それと遥斗君が良かったらなんだけど、CDとかグッズとかのイラストってお願いできる? もちろんお金は払うから! ……ただ金額は皆と相談させてください」
「告白しつつイラスト依頼してくるとかあーた……。どんな精神してんのさ千秋さんは」
もうこれアレだろ。どうせスルーされると思って告白がぞんざいになってるじゃねーか。もういっそ一回わざとOKして……いや駄目だな既成事実成立して籍入れさせられかねねぇ。
ーーー
あとがき
前回のコメントで、主人公ハイスペックすぎない? というお声がちょくちょくありました。
結論、そうだよ。ラブコメ主人公なんだから、違うジャンルで主人公張れるスペックしてもいいやろの精神。
まあ、ガチの部活で一年みっちりガチで練習して、ついでにガッチガチに鍛えてワンチャンあるレベルなので、そこまで無法では……無法か。
……実際は作者が日本柔道のレベルをよく知らんかったって言うオチなんですが。私は雰囲気で小説を書いている。
PS.
それはそれとして、こっちで宣伝したら別作品の購入コメをちょくちょくいただけるようになりました。
まだ買ってない人も是非お願いします。書籍でも電子でもいいのよ
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