第49話 どのツラ系バイトフレンズ

「──つまり? 店長が確認した相手は親御さんではなく、親御さんのふりをした近藤さんだったと?」

「そ、そうなりますね。はい」

「……馬鹿なの?」

「ひんっ」


 自然と冷たい声が出た。一体どんな弁明が飛び出してくるのかと身構えていたら、まさかまさかのである。

 要約するとこうだ。店長が今回の件について確認するために、緊急連絡先として登録されていあ近藤さん宅に電話を掛けたが、受話器を取ったのは近藤さん本人だった。

 で、話題が例の一件だと察した近藤さんは、母親のフリをして店長とやり取りし、バイト継続の許可を母親を騙り出したのだと言う。

 つまるところ、近藤さんのご両親は今回の一件について一切知らない。


「あのさぁ……」

「うぅ……! ゴメンなさいゴメンなさい! バイト辞めたくなかったんです! あと親を心配させたくなかったんです!」

「せめて前半は隠しな」


 前半部分はまあまあ私情だぞ。……いや後半も私情っちゃ私情だけど。

 それでも親に心配掛けたくないってだけなら、まだ耳触りもよかっただろうに。


「てか、店長も店長だよ。何で近藤さん本人だって気付かないかねぇ……」

「そこは頑張りました。ちょっと声色変えたり、喋り方をつっけんどんな感じにしたり」

「胸を張るんじゃないよ」


 せめてもっと申し訳なさそうにしてくれ。呆れの方が強いから今このテンションで済んでるけど、状況と相手次第では怒鳴られても文句言えない所業だからね?


「はぁ……。それじゃあ、ひとまず親御さんに連絡しなきゃだね。あと店長に報告。話はそれからだ」

「ちょっ!? ちょっと待って! 本当に待って水月さん! それだけは勘弁して!」

「却下。保護者の許可がない時点で、話し合いもクソもないでしょ。未成年を保護者の許可なく、危険な状況には置けません」

「そうなんだけど! そうなんだろうけど! そこを曲げてなんとか……!」


 スマホを取り出した俺に対し、近藤さんが涙目で懇願してくる。

 もちろん、懇願されたところで折れるわけにはいかない。何度も言うが、ストーカー問題は命の危険に発展しかねない重大事案である。

 もしもが起こった場合、ことは近藤さん本人だけでなく、手伝わされた俺の身、そして責任者である店長の社会的な立場も危うくなる。

 なので最低限の免罪符である『保護者の許可』は絶対に必要であるし、そのためには近藤さんの懇願など跳ね除けなければならない。


『……ねぇ、なにあれ?』

『別れ話かしら?』

『見て女の子。多分高校生よ』

『男の方は大学生? いや、社会人の可能性も……』


──だが悲しいかな。女子高生の恥も外聞もない懇願というものは、もしもを想定する前に俺の世間体を殺しかねないものであった。


「っ、ああもう! 分かった! 分かったから! とりあえず言い訳は聞くから、もう少し声のトーン落として!」

「本当ですか!?」

「本当だよ。……はぁ」


 折れざる得ない状況に、思わず溜め息が漏れてしまう。

 いやもう、冗談抜きで危なかった。ただでさえ女子高生とファミレスというアレな状況。それでいてさっきまでの話題が話題である。

 下手に騒いで警察でも呼ばれたら、条例違反でストーカーより先にこっちが逮捕されかねない。

 なので誠に遺憾ではあったが、話を聞く姿勢を見せてどうにか近藤さんに落ち着いてもらうことに。


「良かったぁ……。実は私、父の連れ子で母とは血が繋がってなくて。ただでさえいろいろ気を遣ってもらってるんで、マジで余計な心配かけたくないんすよ……」

「サラッとコメントに困る家庭事情暴露しないでくれる?」


 いやまあ、それがマジなら近藤さんの反応も分からなくはないんだけどさ。それはそれとして、どうリアクションするべきか分からないんだわ。

 と言っても、近藤さんの声色的に、複雑ではあるが家族仲が悪いわけではなさそう。だからこそ、余計な心配をかけたくないということなのだろう。

 ただそれはそれとして、思うところがないわけではないので、ちょっとツッコミは入れさせてもらう。


「これは個人的な意見だけどさ。それでもし警察沙汰になった時、突然それを知らされたご両親はどう思うのかな? 除け者にされていたご両親の心情とか、ちゃんと考えた?」

「うぐっ……」

「その反応で大体分かった」


 言葉を詰まらせたあたり、一切考えていなかったか、考えはしたが目を逸らしていたかのどっちかだろう。


「あのね近藤さん。俺は別にイジワルしてるわけじゃないんだよ? 巻き込まれたのは否定しないけど、バイト仲間としても、成人としてもキミのことを手伝うのは吝かじゃない。いや、手伝うべきだって思ってる」

「……はい」

「ただ順序が違うじゃんって。あくまで俺は他人。店長も、パートさんたちも他人。一番に近藤さんが頼るべきなのは、寄り添ってもらうべきなのはキミのご両親。そうでしょ?」

「……そうです」

「ならまずはご両親に報告するべきじゃない?」

「うぅ……。でもでも、私本当にマリンスノー辞めたくなくて……」

「ならそれも伝えなさい。で、ご両親を説得しなさい。俺が帰りの面倒見ることになってることとか、説得の材料はあるんだから」

「……家が近所で、とっくに自宅バレしてる可能性が高くて辞めるだけ無駄、とかですか?」

「そうそう。そんな感……ねぇ大丈夫? 当たり前のようにエグい可能性挙げてるけど、それはもうガチで引越し検討するレベルじゃない?」

「だからそんな迷惑掛けたくないんですってば!」


 いやそれにしたって……えぇ? 家庭の問題だし、俺が首突っ込むことでもないんだろうけどさ。


「ま、まあ、そういうのも含めて説得するべきだとは思うよ?」

「私、口下手なんで自信ないんですよぉ……」

「頑張れ」

「水月さんが冷たい……」

「いや俺相当優しいと思うけど」

「説得するの手伝ってくださいよぉ……!」

「バイト仲間が口添えするにはヘビーすぎるでしょそれ」

「じゃあ彼氏になってください……! それなら口出しできるんじゃないすか!?」

「だから危ない方向にもってくんじゃない……!」


 ただでさえさっきの懇願のせいで注目されてんだから! ストーカーより先に未成年淫行で捕まるとか洒落になってないから!


「ぅぅぅ……」

「っ……!!」


──最終的には折れましたよ。やっぱり公衆の面前での女子高生の涙目はズルいって。





ーーー

あとがき


新年明けましておめでとうございます。そして盛大に遅れて申し訳ございません。

年始で遊び呆けた挙句、曜日感覚が吹っ飛んだ結果こうなりました。マジすんません。


そして今回で長い相談パートも終わり。次からはシルキーさんも出てきます。

あと、今回主人公が偉そうに正論で説教みたいなことしてますが、当の本人は親の心配云々を言える立場じゃないことは補足しておきます。

なんなら不法侵入を黙認してるので、主人公のが万倍酷い。ただそれはそれとして、他人にはしっかり忠告はする。時代はダブルスタンダード。


PS.前回の宣伝ですが、こちらの作品からでも購入報告などがいくつか寄せられました。本当にありがとうございます。

そしてクドくはなりますが、まだ買っていない人は買っていただけたらなと、宣伝を繰り返させていただきます。……私の飯の種だからシカタナイネ


とまあ、そんな戯言はさておき。皆様、今年もよろしくお願いいたします。

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