第48話 続、ストーカー対策会議 inファミレス

「──はぁ。とりあえず、話を戻そっか」

「えー。水月さん冷たい。せっかくJKが勇気出して告白してんのに」

「あんなムードもへったくれもない告白とか嫌だよ」


 ブーたれる近藤さんに、思わず溜め息。よくもまあ、あそこまで打算もりもりのアピールを『勇気を出した告白』と表現できるものだ。

 あまりの潔さに一周回った愛嬌こそ感じるが、マトモに取り合う気概は残念ながら湧いてこない。

 そうなれば、残るのは女子高生と交際にまつわる会話を続ける成人男性という客観的事実のみ。

 つまるところ、この話題を続けるのはリスクしかないので、さっさと本題に戻すことが吉である。……まあ、雑談に入った理由もリスク回避のためだったので、何度話題を逸らしたところで舞い戻ってくる気がしなくもないのだが。


「ともかく。これからはガチな話ね。内容が内容だし、個人的に思うところもあるし、かなり容赦ない言い方になるかもだけど、そこは我慢してほしいかな」

「え、なんすか。もしかして水月さん、私が面倒事に巻き込んだこと、実は怒ってたりします……?」

「怒ってるわけじゃないけど……」


 強いて言うなら、呆れている。もちろん、面倒事云々に対して思うところもゼロではないが、そこは店長とパートさんが悪いと思っているので、近藤さんに文句を言うつもりはない。

 なによりバイト上での繋がりしかないとは言え、知り合いの女の子、それも未成年の身に危険が迫っているとなれば、悪感情より心配の方が先に来る。

 コミユニケーション能力に難がある自覚はあるが、それはそれとして一般的な良識は持ち合わせているつもりなので、こうして骨を折るのもやぶさかではない。


「あー、なんて言うんだろ……。この手の問題ってさ、最悪の場合は冗談抜きで命に関わったりするじゃん? だから他人事みたいに『キミは悪くない』とか、優しい言葉で片付けるのは個人的に駄目かなって。だから場合によってはキツイ言い方になるかもっていう……建前?」

「建前だと怒ってるってことになりません!?」

「あー、ゴメン。間違えた。予防線。うん、予防線」

「よ、予防線……」


 駄目だなこりゃ。外面こそ取り繕っていても、なんだかんだ俺も冷静さを欠いているようだ。

 それぐらいさっきの告白が衝撃的だった──わけではない。もちろん驚きはしたが、今はそんな蛇足に構っているほどの余裕はない。

 理由はシンプル。これから話す内容が内容だから。怒りの感情こそないが、前置きを必要とするぐらいにはズバズバ指摘するつもりではあるので、それで泣かれたり逆上されたりしないか不安なのだ。

 初期の千秋さんを放置してたことから分かるように、俺は生粋の面倒くさがりで、こと勿れ主義者である。波風立つような、シリアスな会話は正直したくないのである。


「ま、そんなわけでね。まず大前提なんだけど、近藤さんは件のストーカーについてどう思ってる? 実は悪い気はしてないとか、そういうのはない?」

「ないですよ!? あるわけないじゃないですか!」

「あー、うん。念のためってやつだから。万が一の場合、いろいろ対応も変わってくるし」

「いやいやいやいや。ストーカーとか、普通は関わりたくないに決まってるっしょ」

「うん。そうよね。そうだよね……」


 ソウダヨネ。ソウイウモノダヨネ。


「ま、まあ、認識を擦り合わせはトラブル対策で重要だから。なのでこの流れのまま、アレな質問をもう一度させてもらうけど。ストーカー、てか目を付けられる心当たりとかある? 接客の時、相手に対して思わせぶりな態度を取ってたとか」

「ないです! あんな挙動不審なおじさん相手にモーション掛けるとかありえないんで! せめてダンディなオジサマとかじゃなきゃ嫌です!」

「……とりあえず、近藤さんが年上好きなのは分かった。その上で趣旨とは若干ズレるけど、未成年のモーションに反応するオジサマ……てか成人男性は基本碌でもないので、何かあっても絶対にホイホイ付いていかないように」

「水月さーん? さっきから思ってたましたけど、私のこと何だと思ってます? 私、そんなに男の見る目ないように見えるんすか?」

「俺にモーション掛けてる時点で見る目はないかなぁ」

「それは流石に自分を卑下しすぎでは……?」


 いや純然たる事実だよ。バイト上での付き合いしかないから仕方ない部分はあるけど、俺自身は自他共に認めるレベルの駄目人間だし。


「まあ、そもそも論として。年上にモーション掛けたとしても、真っ当な成人は間違いなく断るからね。引っ掛かる時点で大人としてアウト。つまり、モーション掛けるとか時間の無駄だよっていう、個人的な忠告」

「いやいやいやいや! それでも年の差カップルとか、現実にいるじゃないすか!」

「もちろん、そこは否定しないけど。ただ、そういうのは男側が覚悟を決めるぐらいの積み重ねが……いや、うん。これも脱線か」


 言動が危なっかしいのでつい深堀りしてしまったが、こんな説教紛いのことをしたいわけではないのだ。

 なので忠告はそこそこに、ストーカーに対する認識の擦り合わせに戻るとしよう。


「話を戻すと、近藤さん的には言い寄られる心当たりはない、と」

「そんな感じです。私としては、普通に接客してただけなんで……」

「なるほどねぇ。とは言え、こういうのは相手次第な部分もあるし、そこはもう運が悪かったと諦めるしかないかな」


 執着理由なんて人それぞれだ。招き寄せるようことをしたのならともかく、心当たりがないのなら仕方ないで済ませるしかない。

 ただ個人的な見解としては、件のストーカーが近藤さんに目を付ける理由は分からなくはない。

 近藤さん、パートさん方から猫可愛がりされるぐらいには愛想が良いからなぁ。それでいて容姿も悪くないので、客観的評価としてモテるタイプだ。

 なのでまあ、惚れられるのもおかしいことではないし、今回はそれがたまたま執着する&社会常識が怪しいタイプだったってことだろう。


「じゃあ次。警察に相談はした?」

「警察に関してはしました。でも反応があんまり良くなくて……」

「そこは店長からの情報通りと」


 ストーカー被害に対して、警察が後手に周りがちというのはよく聞く話ではある。なのでこれも仕方ないと諦めるべきか。

 まあ、アプローチの仕方次第では対応も変わる可能性はあるが、それはもう弁護士とか専門家の領分だろう。素人がにわか知識で動くのは控えるのが無難か。


「なら親御さんは?」

「……そ、相談しました」

「今若干だけど間がなかった?」

「き、気のせいです」

「キョドってんだよなぁ」


 さっきまでハキハキ喋ってたのに、急にたどたどしくなってる時点で……。てか分かりやすいなオイ。


「やっぱり認識の擦り合わせって大事だね。……で、近藤さん。詳しく説明してくれるよね?」

「……お、怒らないんですよね?」

「これに関しては、言い訳を聞いてから考えるかなー」

「ひぇっ……」


 何度も言うが、わりと真面目に命の危険があるのがストーカー事件というやつなのだ。なのでまあ、動機次第では誠に遺憾ではあるが、しっかり灸を据えるのが年上てしての役目ではないかと思う。


「さあ、キリキリ吐くんだよ」

「……うっす」





ーーー

あとがき


そろそろヒロイン出さなきゃなと思いつつ、今日中に投稿したいのでササッと書き上げました。


それはそうと、別作品ではあるのですが、この場を借りて告知させていただきます。



明日の二十八日。私の作品である【推しにささげるダンジョングルメ〜最強探索者、VTuberになる】が書店にて発売されます。



既にWeb版をお読みである方は、是非ともお買い求めください。

もちろん、読んでないという方も買っていただけると嬉しいです。

皆様の応援が私の作家活動の励みとなりますので、どうか何卒宜しくお願い申し上げます。


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