第46話 打ち合わせ
さて。店長から無茶振り……の皮を被ったパートさん方の圧力に屈し、近藤さんの護衛っぽいものを引き受けたわけだけど。
「あ、いたいた! 水月さんちわー!」
「やあ。こんにちは近藤さん」
とにもかくにも、本人からいろいろ確認しなければ始まらないということで、マリンスノーのグループチャット経由であれこれ連絡を取り、予定を合わせて平日の夕方に会うことになった。
「制服、ってことは学校帰り?」
「そりゃそーですよ。高校は祝日でもなきゃ、普通に授業あるんすから。そういう水月さんは? 大学生なんでしょ?」
「サボった」
「あー! いけないんだぁ!」
「大学生の特権」
まあ、近藤さんの件がなければサボることもなかったのだが。流石にそれを言うのは意地が悪いので、適当に笑って煙に巻いておく。
「にしても、制服ねぇ……」
「お? やっぱり水月さんも男ってやつですか? JKブランドにドギマギしてる系?」
「そうね。下手したら職質されそうで怖い」
「そういう心配!?」
そういう心配だよ。フィクションだとJKブランドなんて言ってネタにされてるけど、現実だと普通に笑えないからね。
私服姿ならまだ誤魔化しも効くけど、制服だと一目瞭然なので条例的に怖いのだ。
「いやいやいや。そうは言っても水月さん、まだ大学生っしょ? そんなに怖がる必要ないじゃん」
「俺が成人してる時点で、世間様にはそんな言い訳通用しないんだよ?」
「四、五年ぐらいしか違わないのに?」
「そういう台詞は、せめて二十代になってからだね」
たった一年の差で、扱いがガラリと変わるのが法律である。成人である十九と二十……いや今は十八と十九だっけ? ともかく、法的に大人とされる年齢になるまでは、数年の差と言うのはとても大きいのだ。
俺とて未だに学籍を持つ身の上ではあるが、それでもほとんどの高校生を子供と言い切る自信はある。なんというか、高校を卒業すると自然とそうなる。
「ま、ずっと立ち話ってのもなんだし。あっちのファミレスにでも移動しよっか。なんか奢るよ」
「マジっすか!? こういうのって、付き合ってもらってる私が出すべきかなって思うんすけど!」
「高校生に奢らせるわけないでしょ……」
そりゃ道理としては近藤さんの意見は間違ってないけど、だからと言って子供に奢られるのはね?
「あ、ならアレかなって! 気分的には、マリンスノーのベイクドチーズケーキが食べたいんですけど!」
「だーめ。知り合いの多いところで話す内容でもないんだから。てか、わざわざ見張られてる可能性の高い場所に行こうとするんじゃありません」
「ちぇー」
ちょっとは危機感持ってほしいんだけどなー? バイトを続けようとしてる時点で分かってはいたけど、近藤さん少し能天気がすぎるんじゃない?
とは言え、だをこの場で過度に注意しても、無駄に反発されたりして話が拗れるかもしれない。……近藤さんの人柄的には無用な心配の気もするが、思春期女子の生態なんぞ未知に等しい。
そもそもネタで言ってる可能性もあるので、こういうのは適当にあしらうに限る。
「──お二人でよろしいですか?」
「はい」
「ではこちらにどうぞ」
というわけで、サクッとファミレスに移動。
「……で、よ。なんか大変なことになってるそうじゃん?」
「あ、その前に適当に頼んじゃって大丈夫ですか?」
「……そうね」
まあ、ことを急ぎすぎるのもアレか。内容が内容だし、できる限りリラックスした状態で話してもらった方が良いだろう。……すでに十分なぐらいリラックスしてる気もするけど。
「何頼みます? というか、何円までならOKですか?」
「んなみみっちいことしないから……。常識的な範囲でなら別に文句は言わないよ。それともエグい大食いだったりするの?」
「ちーがーいーまーすー。JKに対してなんて言い掛かりを。水月さんはデリカシーがないなぁ」
「これ俺悪いかなぁ?」
むしろ酷いの近藤さんだよね? 奢りって言っておいて上限設定するような人間かどうか、わざわざ確認された俺のが可哀想でしょ。
「いやほら、折角男女でファミレス来てるし? なんかこう、仲良さげに雑談とかしたくないすか?」
「そういうのは彼氏か、仲の良いクラスメートとしなさい」
「彼氏なんかいないですしぃ……。クラスの男子は馬鹿ばっかだし、そういう対象になんか見れないんで。だから水月さんで欲求解消、みたいな?」
「条例的にアウトだから巻き込まないでいただけると」
「えー」
切実にお願い申し上げます。いや本当、近藤さん的には軽い気持ち……それこそおままごとみたいな感覚なんだろうけど、こっちとしては人生かかってるんでマジで。
「てか、そもそも論としてさ。パートさんが発端にしろ、俺のことこうして頼ってきたわけじゃん? で、ついでにボーイフレンドの代役みたいなこともさせようとしてるし。……なんなの? 近藤さんの中だと、俺ってそんなに好感度高かったりするの?」
「あ、それ訊いちゃいます? 訊いちゃいます?」
「み、妙にウキウキしてるなぁ。いやまあ、気になるけど……」
「ならばお答えしてあげましょう。……ぶっちゃけ彼氏にするなら普通にアリかなって思ってます」
「待って?」
予想の斜め上をカッ飛ばないで? というか、そんな好感度高いの!? 普通に良い人程度の認識だったんだけど!?
「え、何で……? 正直な話、俺たちそこまでの絡みないよね? 好きになる要素ある?」
「いやいやいや。流石に好きとかまではいってないっすよ。そういう恋愛的な話じゃなくて」
「……まあ、好き云々は大袈裟、てか自意識過剰か。いやでも焦るって……」
動揺しすぎてかなり飛躍して受け止めてしまったけど、別に恋愛感情がなきゃそういう関係になっちゃいけないわけでもない。
後からその手の感情を育むことは普通にあるし、近藤さんが言っている彼氏云々もそういう意味だろう。
「いやでも、にしてもじゃない……?」
「そうかなぁ? 水月さん、結構スペック高いじゃないですか。ホールもキッチンもできるし、私が困ってたらスっとフォロー入ってくれるし」
「それが仕事だからね」
「ビジュアルも清潔感あって悪くないし、性格も優しい。物腰柔らかで丁寧って感じ」
「接客業だからね。身嗜みと受け答えは気を遣うのが当然ってだけね」
「なにより大人っぽい! 私のクラスの馬鹿な男子とは大違い! 私を含めた女の人に変な目向けない! そういう下心とか全くない!」
「そりゃ仕事中だからね」
なんだろうなこの……。褒められてるのは分かるんだけど、完全に見当違いというか、バイトの時の一面しか見られてないから響かないというか。
なんか好感度が高いというより、学生特有の年上に対する憧れ的なやつで勝手に美化されてる気がする。俺の対人能力の低さとかも、かなり都合のいい感じに解釈されてそうな雰囲気だ。
「そんなわけで! 私的には水月さんは余裕でアリなんすよ! 告白されたらOK出してもいいかなって思うぐらいには! ……どうです!?」
「……どう、とは?」
「いや、折角私がここまで言ったわけだし。ちょっと一声あってもいいかなーって」
「……あのね近藤さん」
「はい!」
「マトモな大学生は、高校生に手を出したりはしません」
「ちぇー。残念」
残念じゃないんだよなぁ。何度も言うけど条例的にアウトなんだって。なんなら制服姿のJKと一緒にファミレス来てる時点で危ないんだから、冷や冷やするようなことあんまり言わないでほしい。
「てか、個人的な疑問なんだけど」
「はい?」
「ここまで明け透けにぶっちゃけるのに、告ってきたりはしないんだね? されても断るけど」
「いやまあ、別に本気で好きってわけじゃないですし。軽くアプローチだけ掛けとこかなって思っただけなんで。あと私としては、そういうのは男の人から言ってほしいし」
「軽いのか乙女なのか分からないなぁ……」
「今人のことビッチって言いました?」
「被害妄想」
流石にビッチとまでは言わないよ。やっぱりギャルだなとは思ったけど。
ーーー
あとがき
曜日感覚があやふやな今日この頃。
それはそれとして、新キャラがヒロインレースを猛追中。まあ、今のところ主人公に対して恋愛感情はゼロですが。思わせぶりなことは言っても、唾付けとけ程度。
なお、好感度に関してはわりと現実に即した高さかなと。主人公、なんだかんだ近藤さん目線だとスペック高いバイト先のお兄さんなんで。
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