第43話 シルキーさんは許せない。そして許されない

「うわぁぁぁぁ……! うわぁぁぁぁん……!!」

「慟哭する奴初めて見たな」


 スマホの前で崩れ落ちた千秋さんの姿に、自然とそんな言葉が漏れた。黒歴史が拡散された人間がどうなるかと言う、とても貴重な資料な気がする。

 てことで、追加でパシャリ。……涙目+orz+エプロン+ビキニのせいか、絵面が若干いかがわしいな。

 あんまり人様に見せられる内容ではないか。まあ関係者以外には元々見せる気もないが。


「シャッター音!? また撮った!? 人がここまでショック受けてるのに!?」

「いやだって面白かったし」

「もしかして人の心がお在りでない……?」


 誰がヒトデナシだ。


「それで千秋さん。知り合いに痴態が拡散された感想は?」

「今の光景見てなかった!? ギャン泣きだよ! わりとマジで涙が流れそうだったよ! 何でそういうことするの!?」

「本当に何でああいうことしたの?」

「こっちの台詞だよっ!!」


 いやこっちの台詞なんだが。何でそんなことをしたと問われれば、馬鹿なことに対して保護者に入れたでファイルアンサーなわけで。

 対して俺視点の疑問は、どうやっても納得なんかできないもの。常識的な思考回路をしている人間は、誘惑のために裸エプロンを装って待ち構えるという行為に首を傾げるものだ。


「うぅっ……。遥斗君がこんなにネットリテラシーが低いなんて思わなかったよ」

「俺は千秋さんがここまで常識がないとは……いや最初から知ってたか」

「ちょっとぉ!?」

「ストーカー&不法侵入」

「はぐぅっ……!?」


 愚かな。お互いが手にしている手札の差を理解していないと見える。どうやっても過去の所業は消えないし、黒歴史というものはいつでもいつまでも背後から襲いかかってくるのである。


「まあ、リテラシー云々は流石に不名誉すぎるし、一応弁明しておくけど。ネタで済ませられるものしか撮ろうなんて思わないし、撮ったものも内容を問わず、無差別に拡散するつもりは毛頭ないよ」

「それは、その、知ってるけどさ……」

「この動画だって、春崎さんたちだから送ったわけだし。あのメンバーなら、絶対に変なことはしないでしょ?」

「そうなんだけど! そうなんだけどね!? その辺は全部ひっくるめて、遥斗君のことは信じてるんだけどさ!! それはそれとして、マジレスで拳の振り下ろす先をなくしてくるのはズルいんじゃないかな!?」

「そんなこと言われましても」


 一応、変な不安を抱かないようにという気遣いだったんだが、そういう風に取られるのか……。まあ、信用されているとのことだし、悪い気はしないが。


「あと地味に納得いかないのは、うちのメンバーに遥斗君が絶大な信頼を寄せていることだよ! なんかいつの間にか専用のグルチャ作ってるし! もちろん悪い気はしないんだけど、そこまでの交流ってまだないよね!? まさか私に隠れてあってたりしてるの!?」

「ガッツリ犯罪行為をしてたメンバーを見捨てず、一緒に頭を下げに来た時点で材料としては十分じゃない……?」

「それを言われたらぐうの音も出ないんだけど! 複雑な乙女心というものがありましてね!?」

「複雑すぎて迷走してるもんね」

「遥斗君一回マジで手を緩めよう? そろそろ私も本気で泣くよ?」

「ア、ハイ」


 抑揚のないトーンで返されたので頷いておく。今のは多分ガチのやつだ。


「で、話を戻すけど。皆さんは何て? こっちのグループだと、大体『えぇ……』ってリアクションと謝罪で終わっちゃうんだけど」

「そのグループについては後でしっかり話を聞くし、なんなら私も入れてもらうからね? 絶対だよ」

「告げ口チャットに本人招くとか新しいな」

「今堂々と告げ口って言った……!?」


 だって告げ口用のために設立したグループだし……。なんなら告げ口されるようなことする方が悪いと思ってるし。


「で、何か言われたの?」

「……冬華には爆笑された。そして残りの二人からはガッツリ怒られた」

「流石はベストフレンド」

「そのネタまだ引っ張っるの!? 私としては微妙な気分になるから止めてほしいんだけど! 冬華に負けてるみたいで凄い嫌!」

「無理矢理に距離を詰めてきた千秋さんと、自然と距離が近くなった中田さんの差では?」

「……オーケー。遥斗君は本気で私のことを泣かしたいんだね。それならご期待に応えてあげるよ」

「ゴメンて」


 そういう意図は特にないです。単に思ったことを口にしただけです。


「まあ、笑われて怒られただけってことね。案外無難に終わったのね」

「全然無難じゃないが? なんなら今度の練習の時、ガッツリ怒られることも決まったが? また江戸時代の拷問かけられる羽目になったんだけど?」

「あれ調べたけど『石抱』って名前らしいね」

「ビックリするぐらい他人事!? もうちょっとこう、何か反応あってもよくない!?」

「いやだって、わりと恒例行事なんじゃないの? 結構な頻度でやられてるっぽいし」

「こんな痛い恒例行事があって堪るもんか!」


 千秋さん曰く、石抱が行われたのは俺と関わってからとのこと。……それつまり千秋さんが全ての元凶では?


「うぅ、遥斗君が本当に冷たい。身体張っても全然効いてないし……」

「身体の張り方が間違ってるんだもの」

「それでもさぁ! もうちょっと反応ってもんがあるじゃんか!」

「そんなことより」

「そんなことより!?」


 そんなことだよ。既に散々話し合ってるもの。


「そろそろご飯食べて良い? 折角作ってくれたんだし、熱々の内に食べたいんだけど」

「……遥斗君のそういうところズルいと思います」


 なんでよ。飯は美味しく食べてこそでしょ。……ツンデレとか言わんでくれ寒気がするから。



ーーー

あとがき

裏でいろいろ書いてて遅れました。

で、慌てて書いても話が進まないという。次でこの件は終わりにしたいなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る