第39話 シルキーさんとエッチなイタズラ その三
千秋さん曰く、ムダ毛など身嗜みに関わる部分をネタにするのはNGらしい。
対して下ネタ系は、俺が発言者であると言う前提なら基本的に受け入れるとのことなので、多分男には理解できないラインがあるのだろう。
「他にはNGなネタってある?」
「んー、NGというか、わりと常識的な話ではあるんだけどさ。見た目を揶揄したり、体質とか日々のケアをアレコレ言われると気分は悪いよね」
「見た目。……やーい千秋さんめっちゃ美少女」
「そういうことじゃなくてね? いや、そういうのなら大歓迎なんだけどさ。というか、もっとちょうだい?」
「ネタに対する食いつきが凄い……」
そんな目を爛々に輝かせてにじり寄ってこないでほしい。明らかに冗談のトーンだったでしょ今。
まあ、それはともかく。ネタにするなら、常識と良識に則った内容であれと。至極当然な話ではある。
「実際ねぇ、さっきの剃り残し云々とか本当に焦ったんだよ? 男の子には分かんないかもだけど」
「そんなもんなの?」
「そんなもんなの。女の子はね、好きな相手には綺麗な自分を見てほしいものなんだよ。だから手入れが行き届いてないと受け取れる類いの冗談は笑えないの」
「なるほど? 千秋さんの台詞じゃなければ素直に納得できたかも」
「何でよ!? 自分で言うのもアレだけど、結構ドンピシャな表現だったじゃん!」
「人として一番汚い欲望をオープンにしてるからだよ。ストーカー行為とかその最たるものでしょ」
「えへへー」
「照れるな恥じろ」
もう何度も繰り返しているが、俺が相手だからお咎めなしで済んでいるのであってだな。
普通の女の子、いや男女関係なく普通の人はだね、好きな人に犯罪行為を見られたいとは思わないんですよ。……そもそも普通の人は犯罪をしないという、基本的なツッコミは脇に置いておくけども。
「いやほら、長く付き合っていくには、お互いの汚い部分も見せ合うものだし? むしろ必要な過程だった、みたいな?」
「数秒前の自分の発言を思い返してほしい」
ついさっき会心の例えを自称していたんだから、前言を翻すような開き直りを言い放つんじゃないよ。
「チッチッチ。恋は落ちるもので、愛は育むものなんだよ。ちゃんと全部を見せて、それすら受け入れられる関係性が理想なの」
「なら剃り残し云々で恥じらってる時点で、俺と千秋さんの間には愛が育まれてないってことね」
「遥斗君って何でそんなにレスバ強いの?」
「そんな泣きそうな顔されても」
ストーカーできるメンタルの持ち主でしょ千秋さん。レスバで負けたぐらいでそこまでダメージ負わないでほしい。
「いいもん! これからしっかり愛を育むもん!」
「愛を育めてないって部分は、特に否定はしないのね」
「……自分の発言をあんなクリティカルで返されると、流石にちょっと……」
「図太いのか繊細なのかよく分かんねぇな」
そこは開き直ってなかったことにすれば良いのに。少なくとも、俺ならそうする。
「というわけで、これから私の色んな姿を遥斗君に見せるよ! さしあたっては、エッチなイタズラをされた時の反応とか!」
「転んでもタダでは起きないというか、どうやってもそっちに持ってきたいのね」
「恥ずかしいけど……そりゃすっごく恥ずかしいけど! 合法的に遥斗君を誘惑できるチャンスだからね! 遥斗君を赤面させて照れされるためなら、頑張って身体を張るぐらいはするよ!」
「そういうのは日常の中でそれとなく挟むから効果的なのであって、堂々と宣言してやるのはただの特殊なプレイなんだわ」
「特殊なプレイでもこの際私は構わない」
「俺が構うんだよ」
俺、千秋さんと違って尊厳を捨てた記憶はないんだ。羞恥プレイに誘われて、ホイホイ付き合ってあげられるほど心は強くないんだ。
「というか、この際だからぶっちゃけるけど。俺、下ネタとかわりと苦手なタイプなんだよね」
「……え? 遥斗君って男の子だよね?」
「それ普通に偏見」
そんなポカンとした表情をされても。男が皆下ネタで笑えたりすると思うなよ。普通に苦手な奴もいるんだぞ。
「でもさでもさ、私がスカート持ち上げた時、遥斗君ガン見してたじゃん」
「そりゃまあ、俺も普通に性欲はあるし。エロにはちゃんと反応するが」
「じゃあ下ネタ苦手っておかしくない?」
「正確に言うと、下ネタを使ったコミユニケーションが苦手なんよ。アレ、なんだかんだで高度なチキンレースじゃん。観客ポジならともかく、自分から混ざろうとは思えなくてさ。そんな風に昔から思ってたら、そのまま苦手意識が芽生えた感じ」
「あー」
アレはなぁ。冗談抜きでセンスが問われるというか、経験値がなきゃグッドコミユニケーションは成立しない話題だと、個人的には思ってる。
笑えるラインを見極めたら、話術として十分に武器になるんだろうけど……。ラインを誤ったら空気が冷えるし、時と場合によっては下衆の烙印が飛んでくるから洒落にならんのよ。
「まあ、つまるところよ。散々アホな会話を繰り広げはしたものの、エッチなイタズラをする気はないです」
「何で?」
「何で?」
え、ここで『何で?』って返すの? ちゃんと話を聞いてたよね?
「いやだって、ライン越えが怖くてそういうコミユニケーションができないってことだよね? じゃ、じゃあ私で練習すれば良いじゃん」
「途中で化けの皮剥がれたな」
「何度も言うけど、恥ずかしいもんは恥ずかしいんだよ!」
ならこのまま流そう? なあなあで終わらせよう?
「でもしょうがないじゃん! 遥斗君、頑なにそういう雰囲気を避けるんだもん! 薄々気付いてはいたけど、今回の会話で確信したよ! この友達以上恋人未満の関係をずっと続けるつもりでしょ!」
「サラッと関係性のランクアップを謀りおったな」
「そういうの今はいいから! 私はね、早くこのぬるま湯みたいな関係性を脱したいの! だからこれからは、羞恥心は捨ててでも遥斗君を攻めるの!」
「羞恥心は元からあんまりないじゃん」
「シャラップ! そうやって茶化して有耶無耶にしようたって、そうはいかないんだから! もう逃がさないから、覚悟してよね遥斗君!!」
「ヒートアップしてるところ悪いけど、もうそろ声のボリュームは落としてよ。近所に聞こえる」
「あ、ゴメン」
これで逃がさないとかよく吠えれたな。
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