第31話 シルキーさんは分からない

「──凄い。コングラッチュレーション」

「え?」

「うん?」


 千秋さんと頭の悪い会話をしていると、何処からか拍手の音が聞こえてきた。

 何だと思い、音のした方向に視線を向ける。するとそこには残りのアバンドギャルドのメンバー、つまるところ常連さんたちがいた。

 付け加えると、春崎さんがお腹を抱えて蹲っている。お腹が痛いのだろうか? ……冗談。笑いすぎて死にかけてるだけっぽい。


「拍手なんてしてどしたの冬華。あと何故にメグは死にかけてるの?」

「二人の見事なコントがツボに入ったみたい」

「か、完全に別人扱いされてんじゃんアンタ……! こ、コレで笑うにゃってほうが無理でひょ……!」

「おい呂律回ってないぞ隠れポンコツ」

「ふぁー!」

「その笑い方腹立つんだけど!?」


 千秋さんブチ切れ。はたから見たらネットスラングの『ぷぎゃー』を連想させる笑い姿なので、まあ納得の反応ではあると思う。

 それはそれとして、改めてこの人たち仲良いなと思った。バ先では何度も目にした光景ではあるが、こうして当事者寄りの立場にいると余計にそれを実感する。


「苛立ち紛れに叫ぶ千秋さんなんか初めて見たな」

「……ハッ!? 私はお淑やか!」

「その台詞が咄嗟に出る時点で、イロモノキャラにしかなれないよ千秋さん」

「ブフォッ!?」


 春崎さんの腹筋に追加ダメージ。あとよく見たら、プラスで一名にも弱ダメージが入ってた。


「だ、駄目だコレ! 普段は当事者だから意識してなかったけど、外から見たら蘭が馬鹿すぎる……!!」

「ナイス漫才。身内ネタとしては満点に近い」

「ご、ゴメンね蘭ちゃん。わた、私もちょっと駄目かもしれない……!」

「えぇ、何でよ……」

「二人抜き達成。あと一人笑わせるとセカンドステージに進出です」

「次はモノボケかな?」

「サイレントは最後に残すと詰むと思う」

「遥斗君と冬華は何を通じ合ってるの?」


 昔そういうバラエティ番組があったのである。最近はメッキリ見なくなったが。……やはり高額賞金とかがネックなのであろうか?

 まあ、それはさておき。素知らぬ顔でネタに対するアンサーを飛ばすあたり、あの常連さんも中々に分かっているなと。あとファイナルでサイレントが無謀と思うのは同感。


「……もしかして、遥斗君と冬華って相性良い?」

「ネタの許容範囲は通じるものがありそう」

「まあ同世代ですし、似た番組は観てるかもですね」

「……柄杓とくれば?」

「みょー」

「落ち武者で印象的なのは?」

「個人的にはペットボトルキャップです」

「車が三つ」

「ぎゅーん」

「ねぇ何の話!? 本当に何の話!?」


 好きだったバラエティ番組の話です。というかいまので完全に察した。冬華さん? は、相当テレビ観てた口だ。


「あの頃は良かったですよね」

「本当にね。最近のテレビはつまらない」

「他になんか通じそうなものあります? 昔のやつで」

「白鳥……」

「あー、白鳥……」

「コッペパン」

「コッペパン」

「これは世代的にはかなり昔。アホだな?」

「豆とかも知ってますよ」

「パーフェクト」

「はたから見たらコールアンドレスポンスが成立してないんだけど!?」


 ガシリと固い握手。ある程度イける口なのは察していたが、正直ここまでとは思っていなかった。

 まさか同世代でも観てるか怪しい、かの番組まで視聴済みだったとは。多分この感じだと、学校の他に犬とかのネタを振っても反応しそうではある。


「うちのメンバーはちょっとディープなネタになると通じないし、あの黄金期を語り合える知り合いが増えるのはかなり嬉しい」

「あー……。あの時期を憶えてるテレビっ子って意外と少ないですからねぇ。コッペパンでギリ『そんなのあったね!?』ってなるぐらいでしょうし」

「そう。モノボケが即座に出てきたから、結構本気で驚いた。そのあとのネタ振りも満点回答。これはもうベストフレンド」

「ちょっと待って!? 意味不明な会話でライバル候補が出現してるんだけど! しかも冬華とか伏兵がすぎるんだけど!?」


 真横で千秋さんが凄いうるさい。あといまの会話でライバル云々っていうのは、流石に恋愛脳がすぎると思う。


「ふふっ。まあ冗談はさておき。改めて自己紹介を。中田冬華です。よろしく。冬華でいいよ」

「水月遥斗です。よろしくお願いします、冬華さん」

「ちょっと待って!? 何で冬華は名前呼びなの!? 私だって名前で呼ばれたことないのに!!」

「だって千秋さんアレじゃん。名前呼びしたら調子乗りそうじゃん」

「それにしたって納得いかないんだけど!? 何で冬華はオーケーなの!?」

「ベストフレンドらしいから?」

「言ったもん勝ちなら私だって嫁宣言しますけどぉ!?」

「押しかけ女房ならぬ自称女房だってさ」

「それ普通にストーカー案件では? ……ストーカーだったね」


 なんかもう一周回って忘れそうになるけど、ストーカーだったんだよねこの人。改めて思い出すと残念感が凄い。さっきは本当にカッコよかったんだけどなぁ……。

 ま、それはともかく。千秋さんを揶揄うのは一旦止めよう。千秋さんが普段通りすぎて我が家でのノリを出してしまったが、ここは外なのだ。騒ぐにしたって限度というものがあろう。


「とりあえず、隣の増長家政婦さんがうるさいので、中田さんと呼ばせていただきますね」

「増長家政婦!?」

「うちのヤンデレメンヘラ馬鹿ボーカルのためにお気遣いいただき、ありがとうございます」

「冬華は流石にボロクソすぎない!?」

「まあ馬鹿にしてるし」

「引っ叩かれたいってことでいいんだよね!?」


 ぶおんぶおんと腕を振って威嚇する千秋さん。そんな間抜け極まる姿に思わず苦笑。そばでダウン中の二人も、ひっそりと再び死にかけているし。


「……ふむ。本当だったら夏帆も自己紹介させるべきなんだろうけど、まだちょっと無理そうかな。少しばかり悪ノリがすぎた。水月君はこのあと時間ある?」

「ありますけど、何でしょう?」

「これから私たちは打ち上げなんだけど、一緒にどうかなって。そこで正式に自己紹介やらをしたい。何時もならマリンスノーだけど……流石にバイト先はアレだろうし、適当なカラオケか居酒屋辺りが無難か。奢るよ?」


 まさかの打ち上げのお誘いだった。これには思わず面食らう。


「いやあの、お気持ちは嬉しいんですけど、流石に部外者の俺が混ざるのは道理に合わないのでは?」

「大丈夫。むしろ私たちが、ちゃんとキミとお話したいから。そこの残念娘から、いろいろと聞いてはいるし。……やらかし含めて、いろいろと」

「あー……」

「なので正式に謝罪やらをしたい。うちのメンバーが大変な迷惑を掛けたと」


 なるほど。そういうことなら、誘われるのも納得である。その場のノリで知り合い未満の集団に混ざれと言われたら、流石にお断りしたいところだったが……。


「そういう理由なら、断るわけにはいきませんね。では、ご相伴に預からせていただきます」

「ん。誘いを受けてくれてありがとう。それじゃあ、とっとと移動しよう。蘭が騒いだせいで、オガさんたちからの視線がやけに生暖かい」

「それ私のせいかな!?」

「多分そう」

「遥斗君!?」


 いや冗談でもなんでもなく、八割ぐらいは千秋さんが原因だと思うよ。大声で馬鹿っぽい台詞叫びまくってたし。



ーーー

あとがき


 もう少しで一段落つくせいか、筆が重くなっております。気が抜けたかな……?


 それはそうと、作中の会話が大分アレ。若い人にはまず伝わらんと思うので、その時はシルキーさんの気分を味わってください。

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